12月16日
サンタのおじいさんの家の前には、とっても広い広ーい野原がある。
普段は私達の遊び場だ。
新人サンタがいきなり空を飛ぶのは難しいだろうと、野原でソリに乗る練習をした。
ソリを引っ張るトナカイは六頭(家には予備軍のトナカイもいるよ)。
私ポメ子と副リーダーのサンゴちゃんが先頭。
「ヨンタン、とりあえず真っ直ぐ走ってみるから合図を出して」
最初に教えた通り、出発の合図をするヨンタン。
「ホイ・・・」
弱い合図でとりあえず歩き出す私達。
ところが、しばらくすると変な風に手網をひっぱられた。
右に行けばいいのか左に行けばいいのかわからない。
グイグイと引っ張られたから止まると
「違うんだ・・・」とボヤくヨンタンの声。
ここからが大変だった。
とにかく練習。朝から晩まで練習。
皆で右往左往するもんだから、ツノ同士がぶつかったり、前後で衝突したり。
一番後ろのおしゃべりトナカイのパティは「もう少しわかりやすく合図を出してよぉ!」と怒っていた。
訓練を始めて3日たっても、ソリは真っ直ぐ走らなかった。
その夜、私が窓の外を見ると、ヨンタンがひとりでどこかに出かけて行く。
そっとついて行くと池の畔にしゃがみこんでいた。
「星が綺麗ね、ヨンタン」
「ポメ子・・」
ヨンタンは星が映る水面を見ている。
ゴニョニョ国の冬の夜空はとても美しい。
「俺さ、孤児なんだ。体力も無くて何やってもダメで不器用で殴られる事もある」
私は黙って話を聞く。
「たまに仕事をするんだけど、いつも怒られて。最近家に引きこもっていたら、夢の中にサンタクロースのおじいさんが出てきて『すまんがのぉ〜今年のサンタクロースをしてくれんかのぉ?』って頼まれたんだ」
ヨンタンは小さく笑った。
「で、『いいよ』って答えたら、次の朝サンタクロースの服を着てここにいた」
「びっくりした?」
「ああ。いきなりサンタクロース代理だぜ。あの!サンタクロース!」また笑った。
しかし、直ぐにその顔がくもる。
「でもさ・・・やっぱり俺・・・」
私は、鼻でヨンタンの頭をチョンと触った。
「あのね、私達も最初はびっくりしたよ。だってヨンタンは普通の人なんだもん。サンタクロースの資格持ってないし」
「サンタって資格いるの?」
「国によっては、そうらしいわ。でも、関係ないって思った。ヨンタン、一生懸命頑張っているじゃない。朝から晩まで。ソリにもきっと上手に乗れるようになるわよ」
けれどヨンタンは項垂れる。
大丈夫って伝わるよう、何か言いたくなった。
「私、サンタのおじいさんの側にいて思うんだ。サンタクロースを好きな人は愛を知ってるんだって」
「愛?・・・そんなの知らないけど」
励まそうと言ったつもりだけど、皮肉に取られたみたい。
「愛って言うのが大袈裟だったら、思いやりってとこかな。ヨンタンは人を思いやれる人だと思うよ」
「そんな、人を思いやる心なんてない・・・」
少し傷ついた顔で立ち上がり、家に帰って行く。
「な、なんか怒っちゃった?ごめんね。えっと・・・」偉そうな事言わなきゃ良かった・・・。
私はその場に立ち尽くしてしまった。
12月19日
次の朝、ヨンタンは寝室から出て来なかった。
「ヨンタ〜ン。練習しよう〜」
みんなが口々にヨンタンを呼ぶ。
すると、ゆっくりひょろっと出てきて、ハンガーにかかったサンタクロースの服を着た。
のっそりとソリの練習を始める。
初日より全員の息が合わない。
「休憩しましょう」
ソリから少し離れた所に立つトナカイ達。
数頭は小さい声で「こんなんじゃ、プレゼント配れないよね」「今からでも他の人に変えた方が・・・」「でも、そんな人いるかな」と話している。
水飲み場で休む私の所に、 ヨンタンが歩いて来た。
「あのさ、昨日は先に帰ってごめん。自分が情けなくて」
「ううん、私こそ、何も知らないくせに・・・」
「俺さ、サンタ代理辞めるよ」
私はハッと顔を上げた「ダメだよ。ううん、大丈夫だよ!まだ時間はあるよ。ギリギリまで頑張って、もしも駄目なら国中に連絡して、プレゼントを配る日を遅らせてもらおう?」
「でも・・・」
「そうじゃ」そこへサンタのおじいさんがヨロヨロやって来た。
「わしが、まだ空を飛ぶ体力が無くて、ヨンタンに迷惑をかけて悪いのぉ。練習も手伝えなくてすまんのぉ。
じゃが、ヨンタン。君は自分で思うておるより強い人じゃ。わしは信じとるよ」
ヨンタンの頬に、雫がぽつりと落ちた。
近くに寄って来たサンゴちゃんが「大丈夫!私達も頑張るよ」と言い
ズケズケ言うパティが「そうだよ。最初は期待して無かったけど、あんた頑張ってるほうだよ」と笑った。
心配そうだった他のトナカイが、おじいさんとヨンタンの顔を交互に見て、もう少しやってみる?と目配せしている。
「わかった。もう一度やってみる」
まるで子供の様に拳で涙を拭っていた。
そして・・・なんということでしょう〜!
気持ちを切り替えたからかな?
驚いた事にその二時間後、スムーズな発進とゆっくりした停止ができるようになったのよ。
日暮れ時には、かなり上手にソリを走らせる事ができるようになったわ!
喜ぶみんなはその場で軽く飛び跳ねている。
「明日から、空を飛べるかな?」私がそう言うと、息の上がっているヨンタンが驚いている。
「飛ぶの?もう?ほんとに?」
「まずは離着陸の練習でしょ〜。後、普通に飛んだりアクロバティックに飛んだり」
「アクロバ・・・」
「うそうそ。普通に飛べば良いから」私はうふふと笑った。
12月20日
今日はいよいよ空を飛ぶ。
何となくヨンタンを励ましたくなって、みんなと打ち合わせをした。
「ヨンタン。ちょっとそこに立ってて。さぁ、みんな並んで」
私達トナカイはずらっと一列に並ぶ。
「はい!ウェーブ!」
角を端から上下に動かして波を作る。
「わぁ〜」
「はい!パッカパッカ」右、左、右と交互に足を上げて、ラインダンスよ。
最後は後ろを向いて、尻尾を高速フリフリ。
「うわぁ〜!」
ヨンタンは嬉しそうだ。大きく拍手している。
家の窓から覗いていたおじいさんが、大笑いしていた。
「ホーホッホッホッ〜❣️」
「さあ!楽しく飛ぼう!」
つづく
🦌✨🎄🎅✨🎅🛷🎄🦌🛷🎄
次回はちょっと暗い話になります。
そういうのがお嫌いな方、ごめんなさい💦