『翔んでトナカイ』No.3 | ほぼテンダネスのブログ

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「これまでやってきた通りに、ソリを走らせてみて?」

ヨンタンは白くて大きな付け髭をつけて、手網をギュッと掴んでいる。

私達は本番さながらに首に鈴を付けて、胸を張った。

「ホイっ!」

魔法がかかったトナカイとソリは、グングン空へ登って行く。

久しぶりに感じる上空の冷たい北風が心地良い。

「ホイィ〜!」綺麗にカーブを描きながら走る私達。

地上でより空の方が、ヨンタンは手綱さばきが上手い。

誰かが(多分パティ)「すごい!最高〜!」と叫んだ。

もちろんサンタのおじいさん程は上手くいかないけど、初めてにしては上出来。

「やっほ〜い〜!」ヨンタンが嬉しそうに叫んだ。

カーブする時にチラッと見えた彼は、目と鼻が赤くて、それは寒さのせいだけじゃないんだろうなと思った。

短いけれど30分ほどして着陸する。

あら、上手に降りられたね。

「初フライトは、どうだった?」

「最高〜!」ヨンタンはバンザイをする。

「あっ、こら、うわっ!」

みんなは彼の肩や背中を鼻でツンツンとくすぐって『やるね〜』『良かったね〜』と労ってる。

「少し休憩したら、また飛びましょうね」

「おう!」


12月21日

もっと遠くまで飛ぶことにした。

「目的地は100キロ先の山小屋で良い?」

「わかった」

手綱からヨンタンのワクワク感が伝わるようだ。


それは、国境の手前辺りに来た頃だった。

突然、何か眩しい物が飛んでくる。

ヒューーー!!

「危ない!」綱がグイッと引っ張られ、ギリギリで光を避けたが、バランスを崩し森の中に滑り落ちていく。たまたまそこに空き地があって良かった。みんな何とか着地できたから。

今の何?

ドドーン!!

離れた場所から地響きがした。

「なっ、ミサイル?」ヨンタンは顔を真っ青にしたが、周りを見渡してすぐに「みんな動けるか!?」と私達に駆け寄った。

「私は大丈夫」「私も」誰も怪我なく済んだようだ。

「すぐにここから逃げよう!」

頼りないと思っていたヨンタンが、みんなのクツワを素早く締め直し、先頭の紐を引いて家へと方向転換する。

「こ、怖いよ〜」尻込みしている子の所へ走り寄り「大丈夫。すぐに家に帰れるから」と優しく首をさする。

そして「ホイっ!」と急いでソリを飛ばした。

ヒューー!!

ヒューー!!

ミサイルが遠くから飛んできて、隣国の街の方へ落ちて行くのが見えた。

「あぁ・・・街が・・・」

「・・・」

みんな後ろをチラチラ気にしながら家に帰った。


「テレビでやっとる!隣りの国で戦争が始まったぞ!」

おじいさんが、真っ青な顔をして家の前で待っていた。

「俺たち、その流れ弾に当たりそうになったんだ」

「なんと!どこも怪我はなかったか?」

ぐるぐる私達を見回し、無事だった事にほっとして、でも「なんと恐ろしい事じゃ」と手をおでこに当てた。

テレビを見ると、隣国テンテ国とその戦争相手のホボン国の様子が映されていた。

どちらの国も、建物が崩れ一面瓦礫だ。

怪我をして動けない人、子供を抱えて泣き叫ぶ人、カメラに向かって助けてくれと怒鳴る人・・・。

「・・・」言葉が出ない。

おじいさんが静かに涙を流している。

ヨンタンが「子供だけでも助けてあげたい・・・」と呟いた。


その夜、私は寝付けなかった。

戦争の話は聞いた事がある。

でも、こうして身近で起こると、怖くて そして怒りを感じる。

トナカイが人間の世界に腹を立てるなんて変だとは思う。

政治とか経済とか、ちっともわからないし。

わかるのは、なんの罪も無い人達が酷い目にあっているという事。

私は心を決めて、おじいさんの部屋をノックした。

夜中だと言うのに、数頭のトナカイとヨンタンがいた。 

「おじいさん。俺、何とかして隣の国に行きたい」

「いや、それは無理じゃ」

「私も行きます」ハッキリ声を出したのは、森で震えていた子だった。

「私も」とサンゴちゃんや他の仲間。

「おじいさん。私もじっとして居られません。今ここにあるお菓子とジュースだけでも届けたいです」私はそう言った。

家には、プレゼントしようと思っていたおもちゃとお菓子類と備蓄の缶詰だけはある。

もちろん、これっぽっち数百人分にしかならない。

知ってる。こう言うの『焼け石に水』って言うんだよね。だけど・・・

気がつくと、ドアの外で話を聞いていた仲間が顔を覗かせている。

「私、皆が届けている間に食料を調達してきます」

「2回目に行く時は交代するよ」

「私も、飛ぶわ」

ヨンタンが、いつもとは違うしっかりとした口調で言った。

「おじいさん。俺、自分が何も出来ないやつだってずっと思ってた。でも、わかったんだ。みんなと一緒なら、俺だってできる事があるって」

けれど、優しいサンタさんにしては返事を渋っている。

「しかしのぉ〜」

しばらく話し合いをして、おじいさんはやっと頷いた。

「わかった。じゃがもう少し待ってくれ。クリスマスの間だけでも停戦にならんか訴えてみる」

おじいさんは顔が広いから、色んな人に協力してもらうのかもしれない。


12月23日

ジュースやお菓子、倉庫にあった缶詰をソリに載せられるだけ載せて、いつでも飛べるように準備した。

そして、ゴニョニョ国の子供達に「すみませんがプレゼントは年が明けてからで〜」と謝った。

子供達からは「もちろん良いで〜す」と返事があった。


12月24日

クリスマスイブ。


朝、おじいさんが「何とか、今日明日だけ停戦になった」と言うと、ヨンタンが「完全にやめればいいのに・・・」と苦い顔をしている。

出発の時、おじいさんは一頭一頭の首に赤十字マークの札をかけていく。

「停戦を快く思っておらん奴が、ミサイルを撃ってくるかもしれん。怪我するなよ。無事に帰って来るんじゃぞ」目に涙を浮かべて心配そうだ。

ソリの後ろに赤十字の旗を立てた。

「ヨンタン。君にはサンタクロースを楽しんで欲しかったのになぁ・・・」

「うん、わかってる。

おじいさん。俺、戦争を止める事は出来ないけど、誰かに少し元気をプレゼントする事は出来るんだな。この気持ちって思いやりって言うんだろ?」

「そうじゃな」おじいさんは頷いた。

ヨンタンを抱きしめ「くれぐれも気をつけるんじゃぞ」と背中を叩いた。

サンゴちゃんが言う「ねぇ、おじいさん。いつもの歌を歌って」

おじいさんは、くしゃりと笑う。

「じんぐっべー♪じんぐっべー♪」開いた両手をゆっくり振りながら踊る姿に、私達はクスクス笑った。


「ホイっ!」

子供達の笑顔は見れないかもしれない。

自己満足かもしれない。

でも、これがサンタクロース協会ゴニョニョ支部の今年のプレゼントなんだと思った。


                                                        つづく


🎄🦌🛷🎅🏻⛄️🎄🦌🛷🎅🏻⛄️❄❄❄


今回は元ネタがあります。

そこから想像しました。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、第一次世界大戦のドイツ・イギリス戦の時、

クリスマス休戦というのがあったそうです。

国境を挟んで敵同士で手を振ったり、クリスマスソングを歌ったとか。

良い話だとは思いますが、その後の激戦を考えると切ないなー。


ほぼテンは、この休戦を元ネタにした

SEKAI NO OWARIの『Dragon Night』も好きです。


『Dragon Night』歌詞


今宵は百万年に一度  太陽が沈んで夜が訪れる日

終わりの来ないような戦いも

今宵は休戦して祝杯をあげる


人はそれぞれ『正義』があって 争いあうのは仕方ないのかもしれない

だけど僕の嫌いな『彼』も彼なりの理由があると思うんだ


Dragon Night   Dragon Night   Dragon Night

今宵  僕たちは友達のように歌うだろう

ムーンライト  スターリースカイ

ファイヤーバード 今宵

僕たちは友達のように踊るんだ♪



ちなみに、ヨンタンや〜「思いやり」って、もっと軽くて良いよ〜😅と書きたかったですが、文が変になるので止めました。