ネタバレです。
『命売ります』って書くと何だか極道みたいに聞こえますが、違いますw
以前はそんな事なかったのですが、ここ数ヶ月読む本と言えば、帯に興味を持ったものばかりです。この『命売ります』の帯には
『もっとはやく教えてほしかった・・・
隠れた怪作小説発見!』とあります。また、細かく色々書いてあるのですが、『スリリング&ロマンチック』はぴったりな表現だなと思います。
とにかくカッコイイ。
命を売る事にいさぎよく、誰にも媚びない男。クールです。
ですが最後全てに失敗し、死を恐れ、人間の屑と おまわりさんに一刀両断され、助けてもらおうとプライドを捨てる。面白いです。自分が世間を見捨てたはずが、逆に見捨てられる。この時の惨めな感じが、悲劇というより哀愁を帯びた喜劇のようにも読めます。
本当に殺されるかもしれない時になって、自分の生への執着に気づき、途方に暮れる。
確かにカッコ悪いけれど、最終的に孤独と死を受け入れざるを得なかった男が、泣きながら星を見上げる姿は、バッドエンドなのに絵になるのです。
最近まで、ほぼテンにとって、三島由紀夫は過激な右翼だったというイメージしかありませんでした。
作品は『金閣寺』『潮騒』が有名ですね。ノーベル賞候補にもなっていたとか。
三島由紀夫は、大江健三郎に「君の方がノーベル賞に近い」と言っていたそうです。
後は、太宰治が嫌いだったとか。それを聞いて、わかる気がしました。
話を『命売ります』に戻します。
人の命を利用して、自分の願望を叶えよう なんてお客達は、もちろん変わり者です。妄想が過ぎて「愛人を殺して下さい」と頼む老人とか、殺人犯に狙われていると言う図書館で働く女性。訳ありの少年。どこかの国の諜報員。
主人公は死ぬ事を覚悟しているのに、いつも機会を逸す。依頼者の話では、事件を片付けると主人公が死ぬ可能性があるとか。しかし生き残ったのなら、それでも良いと依頼者から許しをもらう。次から次へとテンポよく依頼者がきて、解決の仕方もスリリング。
ほぼテンの印象に残ったのはドラキュラの息子からの依頼。「お母さんに血を吸わせて、死んで下さい」と。
最初は、空想の生き物が出る事で、話がチープになったら嫌だと思っていたのですが、自然な流れと 幸せそうな主人公が良かったです。
物語だから楽しいんですが、好きな人の為に命を捧げるってほんとロマンチック♡心中じゃないですヨ。
主人公の最後の事件は、以前の事件と関係していて意外性がありました。
それに、敵のデタラメな推理が主人公の身上にピタリと当てはまり、言い逃れができなくなっていくのは、ハラハラするのに笑ってしまいます。こちらの説明とあちらの理論がまったく噛み合わない、平行線な会話。
あなた達とは思想が違うと言おうが聞き入れてもらえない。
自殺ではなく、仕事として死ぬと決めていたのに、拷問されそうになり心底怖くなる。
死にたくない。
機転を利かせて逃げるが、誰にも助けてもらえない。
警察の玄関前階段に座り、煙草を吸いながら泣く。
読者は「あぁ、この男は今度こそ死ぬな」と思います。
命を軽ろんじた人間の末路なんだなーというのが、ほぼテンの感想です。