『インビジブル・スパイ』

2019年製作の香港・中国合作映画。

「中国」と入ってきてるけど、メインの出演者3人は香港映画で見知った香港人だし(俺は香港と台湾は中国とは別物だと思っている)、製作がアンドリュー・ラウ(有名なやつだと『インファナル・アフェア』の監督)、舞台も香港を拠点としてるんで「香港映画」という感じ。

 

(以下、ネタバレあり)

邦題からもだし、ジャケ表(レンタル版)にもでっかく「予測不能」と書かれてるからサスペンスだろうとは観る前から察しがつくけど、

まぁとにかくまずは脚本がひねり過ぎで、誰の正体が何なのかが終始不確定で、観ていて登場人物に追いついていくだけでライフ値を削られる(笑)。

もうね、サスペンスがあまりにやり過ぎで煩わしいことこの上ない(苦笑)。

2度3度観ないとわからない。でもそれは単にわかりづらいからであって、内容が重層的とかいうわけじゃない。

人物的にも攪乱させまくりやがるが、さらに後出しジャンケンのように次から次へとネタバラシ場面が続く(苦笑)。

どんなに凝ったところでサスペンスってのは結局一発芸みたいなもんで(2度目に見る時はもうタネを知ってるから)、基本繰り返し鑑賞に向かない。

だからサスペンスはテレビドラマ向き(テレビ番組は基本消費物だから)。

 

なのにさらに加えて現代の映画の悪癖、カット数が物凄く多い!=切り刻みまくった編集。98分の映画なんだけど、もう何千カットあるんだろうっていうぐらい頭から終わりまで短いカットの連続で、3秒以上あるカットが2割未満?

3秒以上あるカットでも、カメラがトラックアップしてたりレール移動して撮ってたりで静止してない映像なんだよ。

俺はこんな映画観たことないね。

これは異常だよ。当ブログでは口酸っぱく言ってるけど物語を楽しむテレビドラマと違って映画とは映像を堪能するものであり、デカいスクリーンで観て疑似体験するものなんだからカット割りまくり過ぎってのは映画として失格。

本作を映画館で観た人で具合悪くなった人いないのか? 人間の視覚は本来こんなガチャガチャしたものを見るようには出来てない。

テレビ番組やネット動画ならいいよ別に。映像を堪能するものでもないし疑似体験するものでもないし、モニターも小さいし。

でもデカいスクリーンでコレを98分間は酷い。映画としてこの編集は成立してない。まぁタルコフスキーの対極だよな(苦笑)。

DVDで観たからまだしも、映画館で観てたら俺 激怒したかもね。

無理矢理好意的に捉えればテンションが寸時も落ちず、特級のサスペンスフルとかスリリングを目指してこうなったのか?

にしたってね、

「香港の人気テレビドラマ『Line Walker』のスピンオフ映画『ダブル・サスペクト 疑惑の潜入捜査官』のシリーズ第2作。」だそうだけど、基がテレビドラマであっても、劇場版をやるなら映画に転換しないとならないんだよ。映画とテレビドラマは別物なんだから撮り方も編集も変わってくる。テレビのやり方をそのままやっちゃいけない。(テレビシリーズ見たことないけど。)

加えて時系列もシャッフルしてる。

脚本も編集もとにかく落ち着きがない映画。

アクションシーンでCG使ってるのもマイナス点だね。香港映画は(撮影も)命知らずってとこが特長の1つだったけど。時代も変わったよな。

 

というのが観てて思った悪い点なんだけど、いいトコもあんのよ。

登場人物の関係性が混乱しすぎなわけだけど、意外に観てて非常に強く印象に残るのは男の友情。

『男たちの挽歌』再びを目指す映画がその後いくつも作られてきたけど、『挽歌』に匹敵するのは本家ジョン・ウー以外だとせいぜいジョニー・トー監督作品ぐらいだった。

でも本作は結構肉薄してて見応えがあった。香港警察の情報課ニック・チョンと保安部ルイス・クーの友情はベタだけど、ここに2人の先輩である警視のフランシス・ンが加わった友情トライアングルがなかなかいいんだよ!

もう誰がホントの味方で誰が実は敵なのかワケわからなくなった状況の中で、ニック・チョンとルイス・クーが密会してるのを目撃して落胆したフランシス・ンの哀切溢れる演技がいい!

俺はフランシス・ンはどうにも悪役のイメージが強いんだけど、今回はずーっとイイ人。善人のフランシス・ンもいいわぁ~。(悪役のフランシス・ンを知ってると今回の役と演技はなお味わい深い。)

対立してたフランシス・ンとルイス・クーだが、それでもルイス・クーを信じてたフランシス・ン。途中から疑惑が生じてきてたニック・チョンだが、それでもフランシス・ンはニック・チョンを信じてた。そしてニック・チョンとルイス・クーの言うに言えない正体と本音。

どれだけ状況が錯綜しても、どんなに世の中がテクニカルになっても、最後に問われるのは真心。

なんか久々に良い“男の友情映画”を観た気がする。

先述したように非常にガチャガチャしてる映画で、サスペンスフルでもあり(←やり過ぎ)、テクノロジーもいっぱい出てくる映画なんだけど、

「どれだけ状況が錯綜しても、どんなに世の中がテクニカルになっても、最後に問われるのは真心」

これを描くために意図的に脚本も編集も混乱の極地にした&テクノロジー描写も盛り込んだのか? …まぁそれはうがった見方だと思うけど。結果的にそう取れなくもない。(でもやっぱりこの編集は「映画の編集」足り得てないけどね。)

テレビドラマみたいな映画だし、現代映画の悪習に満ちた作品だけど、人としての信頼関係のドラマが本作を人間の手に繋ぎ留めている。

 

もう1つ凄くイイのは、クライマックスのカーチェイスがスペインのサン・フェルミン祭=牛追い祭りの真っ只中で炸裂する。牛を巻き込んだバトルがとんでもない!

ジャケ裏に「ラスト15分、絶対予測不能」と書かれてるが、牛が参戦なんて誰も予測つかないっつーの!(爆笑)

 

いい映画とは素晴らしい画の芸術的鑑賞であれ疑似体験で体感アミューズメントチックであれ、繰り返し鑑賞に耐える。

本作は編集が映画足り得てないけど、(サスペンス部分を確認するためではなく)アクションが多々あることと男の友情ドラマが良いことで繰り返し鑑賞できて、3流でなく2流の映画といったとこか。

 

あぁ、あと記者役の女のコが結構かわいくて清潔感ある。このコは中国人みたいだけど、このコ結構良かったっスよ。

あと警察庁長官のメガネの男もビジュアルが なんかいい感じだったな。

 

…まぁ良くも悪くもトンデモ映画。狂ってる(笑)。結論としては、手元に残しときたい(笑)。