第四の壁を破った絵画 | 新産業ブログ

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"MAN_FROM_1999" 越後文晴です。アメンバー登録、コメント、リンクはお気軽にドーゾ。Yahoo!ブログから引っ越しました。

カラヴァッジョ(Caravaggio, 1571-1610)。昨年から今年にかけて札幌、名古屋、大阪の3都市を回る彼の展覧会が開かれ、私も札幌の会場に行きました。展示の他にカラヴァッジョ研究者による講演もあり、絵に詳しくない私も楽しめました。

 

goreで gothic。私の好きなジャンルです。ビジュアルで言うと狭義の gothicではないかもしれませんが、宗教という強大な存在が四六時中どこを向いても視界にあり、 そのおかげで現在より 1.2倍くらい気圧の高そうな当時の社会で、それに拮抗する内圧を持って生きる人々を描いたカラヴァッジョは gothicだと私は思います。

 

かつ、それまで天上の存在だった神を地上に降り立たせるという衝撃的なことをしたカラヴァッジョ。野良着の庶民の前にキリストを抱えたマリアが現れる「ロレートの聖母」(Madonna di Loreto, 1604-1606)、娼婦が神の存在を感じた瞬間を描く「法悦のマグダラのマリア」(Mary Magdalen in Ecstasy, 1606)。私のこれまでの知識で言うとパンクロックとその延長のグランジ、そしてインターネットによってマスコミと市民の言論、セレブ達の生活と普通の人々の生活とが地続きになった1990年代の社会のような変化を、当時の神と人々の間にもたらしたと思います。

 

絵画が重要なメディアだった時代の大スター・カラヴァッジョ。ツアーに出たロックスターのように毎晩盛り場で破滅的な馬鹿騒ぎをし、ヒップホップアーチストのように他の画家を disって beefを仕掛ける。最後は殺人を犯してしまい逃亡生活の末に野垂れ死ぬ。オー、クール! 

 

もしも彼が現代に生きていれば投薬とカウンセリングで長生きできたでしょう。

 

現代の写真、映画、テレビの役割を兼ねる重要なメディアだった絵画。写真のように超絶な技巧でに緻密に正確に描く事と。映画やテレビのようにストーリー(フィクション、ノンフィクション)を説明するため、1枚の絵に時空を越えた要素(人物等)を配置してそれらの関係を明らかにすることが求められました。

 

私のお気に入りは、この一枚です。

「歯抜き」「歯を抜く人」(The Tooth Puller, 1609) と呼ばれる作品です。私が選んだ無料素材の額縁と組み合わせました。歴史的絵画ですからここでカラヴァッジョに無断で公開してもいいでしょう。カラヴァッジョの作品ではないという説もありますけど。

 

この絵で "治療"をされる人は口から血を流してもがいています。多分叫び声もあげているでしょう。そしてそれを興味深く見る人々。かっこうの見世物です。そして印象深いのはこの歯医者の視線です。彼はあきらかにこの絵画を鑑賞する私達の方を見ています。

 

映画や演劇で「第四の壁を破る」という手法があります。それまでお芝居をしていた役者が、突然客席やカメラの方を向いて観客に語りかけるのです。荒井注の「なんだバカヤロウ」みたいに。ビックリしますよね、呑気にお芝居や映画を見ていただけなのにいきなりストーリーに参加させられ、舞台や画面の中で起きていることに責任を負わされる。

私はこの歯医者に「お前こんなもの見て楽しいのか」と疑問を投げかけられているように感じます。ここに描かれている野次馬と自分を同一視し、卑しい好奇心を恥じてしまう。そして浮き彫りになる歯を抜かれる男の苦痛! Pain! Oh sweet pain! 歯科医療の発達した現代に生まれてよかった。