第21回 二人三脚によるAMED支配という圧力  

 

3月19日の衆議院科技特理事会での大坪次長の山中先生への「恫喝」をめぐる審議は「第20回 大坪次長の国会答弁は信じられるか」で紹介した。

 

同審議において、人事を巡る「圧力」についての質疑があったが、人事以外の「圧力」はあったのか。事実として存在したことを明確にしておきたい。(本記事の一部に週刊文春2月27日号の報道と重複するところがあることはご容赦願いたい。)

 

関係者にはよく知られた通称「大坪ペーパー」がある。上記記事にも写真で登場する。

 

 

――ここから――

(全文:ママ)

皆様

とりいそぎ、今朝の補佐官から各省局長への指示について内容を補佐官から伺いましたので共有します。

 

〇当時、官房長官が法律を担いで創設したAMEDの創設趣旨を軽んじられていると感じている。

〇AMEDはFAであって国研ではないので本部の司令塔の指示い従うことが基本。

〇予算決定すると各省はAMEDへ報告に行っている役所があると聞いているがその必要はない。

〇各省は戦略室に来年度の確定予算について説明を行い、戦略室からAMEDに対し執行の指示を行うべきである(その際、AMED幹部を戦略室に呼ぶこと)。

〇各省がAMEDに直接指示することはAMEDの縦割りを促進することにもなりかねず、変更や新規の事案が発生した場合、各省が直接AMEDと交渉するのではなく戦略室に相談の上、戦略室から指示を1本かすること。

 

これを受けて各省から来週AMEDへ予算報告に理事長をお訪ねすることはしませんのでその旨、AMEDへ伝えてください。

そのうえで来週AMEDを戦略室に呼んで頂き予算の執行を戦略室から指示する日程を調整してください(その際、各省が同席することは妨げません)。

以上よろしくお願いします。

大坪

――ここまで――

 

これは2018年12月19日に戦略室の別の次長からAMED理事(いずれも当時)に手交されたものだ。大坪次長はほとんど指示や連絡の類は口頭でなされることが多く、紙になっているものはほとんどない。これは戦略室内部に共有されたメールをプリントアウトしたものだ。現在の戦略室内部にもほとんど残っておらず、逆にAMEDに手交されたことで残ることになったことは皮肉なことだ。

 

このペーパー冒頭の「今朝の補佐官から各省局長への指示」が、次の趣旨(メモ)で裏付けられる。

 

――ここから――

12/19朝、和泉補佐官から各省局長クラスへの話の内容(戦略室の同席はなし)

(趣旨)

・そもそも安倍政権の中で、官房長官が音頭をとって、基礎から出口まで一気通貫に行う組織として医療戦略室とAMEDをつくった。

・その趣旨を忘れ、各省が勝手に医療戦略室に相談なく、直取引をはじめた。AMEDの中に縦割りができつつあり、医療戦略室が形骸化しつつある。

・そこで、各省にお願いがある。予算や大きな方針を決める時にはAMEDと直接に相談するのはやめてほしい。医療戦略室とやってほしい。

・具体的には年末に予算の通知にAMED理事長と会うみたいだが、それをやめて大坪次長に伝えてほしい。もし、AMED理事長と話をしたいなら、大坪次長の面前で行うようにしてほしい。

・調整費も同じ。直に話すのではなく、大坪次長と相談するか、大坪次長の面前で話をしてほしい。

――ここまで――

 

見事な二人三脚ぶりである。そして文脈からすれば、大坪次長が「各省が予算についてAMED(理事長)と直接話をしているが、自分を通してやるように各省に指示してほしい」と補佐官に頼んだことに補佐官が応えたことが明らかである。その補佐官は、最初は「医療戦略室」と言っているが、最後は全て「大坪次長」と言っている。補佐官にとって「戦略室=大坪次長」なのである。

 

二人の連係プレーは脇に置くとして、問題は、その内容である。もっとも重要な予算について各省にAMEDとは直接連絡を取り合うな、と指示しているのだ。理事長を各省から孤立させる方針を明確にしたものといえる。

 

本来なら、戦略室は司令塔として、政策的には各省から力を引き出し、現場の知恵をAMEDから得て、日本の医療研究開発を強力に推進するのが役割である。それをAMEDと各省を分断して何をしようというのか。

 

司令塔として誰も文句のつけようのない見識を示すなら、それに応じて各省が政策レベルで、AMEDが実行レベルでそれぞれ自らの役割を全力で果たして物事が進んでいく、という姿はあるかもしれない。しかし、そのような見識を見せられたこともなければ、民主的に合意を得ながら進めていく実態も存在しない。

 

実際に2018年12月の補佐官指示以降、それまで行われていた各省審議官とAMED理事長との意見交換の場は失われた。そして、それを代替する戦略室が音頭をとって各省とAMED(理事長)が意見交換をする場は一切設けられていない。

 

和泉補佐官と大坪次長の二人三脚によるAMEDへの圧力は明確になった。正常化への道は開かれるだろうか。

 

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

 

第20回 大坪次長の国会答弁は信じられるか

 

3月19日、衆議院の科学技術イノベーション推進特別委員会の理事会に健康・医療戦略室の大坪次長の姿があった。

 

昨年8月9日に山中先生を恫喝したことを意見交換と言い替え、自らが棄損した信頼関係をコミュニケーション不足と説明して切り抜けようとした。しかし、最後まで山中先生との信頼関係を取り戻したとは言い切ることができず(失われたままであるのだから当然だ)、出席した与野党の理事からもその言動が信用されることはなかった。

 

報道では、参考人として出席したAMEDの末松理事長が、機構の人事をめぐって大坪次長から圧力があったと答弁したとされる。それに対して、大坪次長が「そのようなことを申し上げたことはございません」と慇懃無礼に全く食い違う答弁をしたのだ。この点は引き続き理事会で審議されることになろう。

 

末松理事長が発言した「機構の人事」とは昨年夏の泉陽子統括役(当時)の件だ。

振り返ってみよう。

 

昨年9月4日、大坪氏はAMEDの理事長室を訪れた。厚労省大臣官房審議官としてである。ドアが閉じられた執務室の中で末松理事長は大坪氏から一枚の紙を見せられた。「10月人事です。これは通告です。」と言ったとされる。

 

紙には、9月30日付で統括役の泉陽子氏を近畿厚生局長に、10月2日付でその後任として北海道厚生局長のN氏を異動させることが「箱」の線表として一行だけ書かれていた。

 

末松理事長は、言下に却下。「AMEDの役員級の人事は自分が決めてきた。厚労省本省からは何も聞いていない。誰が決めたのか、こんな人事は認めない。」と。

 

泉氏とN氏は医系技官である(大坪氏も医系技官)。本来なら医系技官のトップである医務技監から事前に打診があるはずだった。その段階で理事長が受け入れる意向を示して初めて、次のステップとして大臣官房審議官(ここで大坪次長の出番となる)が詳細に説明するために理事長に人事案と履歴書を一緒に持参する役割を果たす。本来ならメッセンジャーでしかない審議官が自分で決めた人事を押し付けてきたと末松理事長は直感し、受け取ることを拒否したのだ。そもそも大坪審議官は履歴書も持参していなかった。

 

愛想を振りまき、にこやかに挨拶しながら理事長室に入っていったのとは対照的に、一言も口をきかずに憤然として出ていく大坪氏の姿を複数のAMED職員が目撃している。

 

結局、理事長の思いに反して、この人事は実現してしまう。後日、この件について末松理事長は「本当に腕をもがれる思いがした」と周囲に語っている。そして、この人事が実現した背景にもちろん和泉補佐官の存在がある。厚労省の指定局級の人事が絡んでいるのである。大坪次長だけで決めて動かせる内容ではない。和泉補佐官の了承、根回しがなければ実現するはずがないものだ。

 

国会でこの事実が明らかになれば、大坪次長の「そのようなことを申し上げたことはございません」が虚偽答弁であることが明々白々となる。それとも「(iPSストック事業の)予算をゼロにすると発言した事実はない」といったのと同様、「これは圧力ですと言った事実はない」とでも言うのだろうか。

 

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

 

 

第19回 プログラム・ディレクター不在のプロジェクトマネジメント

 

再編された統合プロジェクトが4月からスタートする。

 

第1期の5年間走ってきた9プロジェクトが6プロジェクトとして改めて5年間のスタートを切るのである。新統合プロジェクトを規定する健康・医療戦略と医療分野推進計画の正式な決定は、3月27日の健康・医療戦略推進本部を待たねばならない。正式決定が年度末にずれ込む異例さはすでに述べたのでここでは繰り返さない。

 

ここで指摘したいのは、プログラム・ディレクター(PD)の人選だ。3月中旬を過ぎようとして、いまだに決まっていないのである。戦略室肝いりの6プロジェクトは、PD不在でスタートするのだ。

 

健康・医療戦略室が人選を進めており、室長の和泉補佐官に相談して内定までにはまだ1週間程度かかる見込みだ。各省やAMEDの推薦を踏まえて、候補者リストを作成しているはずだが、戦略室の意向も反映されたリストであり、なかにはなぜこのような人物が、という候補も含まれていると聞く。政府の審議会委員の年齢制限などを参考に、年齢にもこだわっているとも漏れ聞く。6人しかいないのである。形式にこだわる意味がどこにあるのだろうか。論文の本数を調べているという情報もある。優れた研究者が優れたプロジェクトマネジメントをできるとは限らないのである。一体、何をどうやって判断しようとしているのか。

 

いずれにせよ、内諾も得ておらず、AMEDにおける委嘱手続きも必要なため、どんなに急いでも4月冒頭に体制が整っているとは考えられない。

 

これから依頼される有識者も複雑であろう。4月から始まる統合プロジェクトを率いてもらいたい、と頼まれても、すでに各事業は始まっているし、PDを支えるプログラム・スーパーバイザー(PS)やプログラム・オフィサー(PO)も決まっている。そして、なぜ6プロなのか、明確な説明がないのである。PD候補になるくらいである、すでに新年度から新しい仕事を始めているであろう。あるいは従来から継続しているかもしれないが重要な仕事を担っているはずである。そこへ新たな統合プロジェクトの舵取りという仕事が文字通り飛び込んでくるのである。

 

戦略室は専門家に対するリスペクトが欠如していると考えるのは私だけだろうか。自らに対してリスペクトを求める戦略室幹部が、専門家をリスペクトしていないことを自らの行動で証明しているようで、皮肉としか言いようがない。

 

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

 

第18回 AMED理事長人事を通じて官邸が示す見識

 

AMEDの理事長人事が大詰めを迎えている。

 

理事長人事は、以下のように進められる。(再任、新任いずれも同じ。)

 

正式な手続きに先立って、水面下の事前調整・根回しがあるがここでは深入りしない。

 

正式な手続きは、官邸の人事検討会議から始まる。官房長官と3名の官房副長官がメンバーである。

次に、理事長に対して内示がなされる。官邸に出向くことになろう。

そして、閣議了解。

それから、健康・医療戦略推進本部における意見聴取。

日本医療研究開発機構法第8条の「理事長を任命しようとするとき(略)は、あらかじめ、健康・医療戦略推進本部の意見を聴かなければならない」との規定を受けたプロセスだ。

最後に、発令。総理から辞令の交付を受ける。

 

 

具体的な日程も見えてきた。

官邸での人事検討会議が今週開催されるという情報はすでに先週耳に入っていた。

16日は重要な手続きのデッドラインであるが、「狡猾なシナリオ」に関係するため、何の手続きかは今は書けない。いずれ明かそう。

いずれにせよ、内示は16日よりも後のはずだ。おそらく18日か19日である。

そして、健康・医療戦略推進本部は27日開催だ。

閣議了解は24日、あるいは戦略本部と同日だろう。

国民が知るのは3月下旬というわけだ。

 

私の承知する限り、内示があったという情報はまだない。

 

4月からの新体制が3月半ばを過ぎて、いまだに確定していないという異常さ。末松理事長が続投するかどうかが確定していないのである。万一、末松理事長が続投しないとなれば、新しい理事長が着任するのである。

 

健康・医療戦略室はこれまで常にAMEDに「組織のガバナンス」を声高に要求してきた。対して、司令塔としての対応の実態がこれだ。「組織のガバナンス」を最大に阻んでいるのは一体どこの組織なのか。そもそもここまで意思決定を遅らせたのは和泉補佐官の意向であろう。相当部分が、和泉補佐官のシナリオに沿って進んできていると考えざるを得ない。

 

 

しかし、今回の判断は官邸の見識を示すものとなる。

 

私は末松理事長を支持する。続投を渇望している。

このブログでずっと書いてきたように、和泉補佐官と大坪審議官、それに対して、末松理事長と山中先生が対立構造にある。

和泉補佐官と大坪審議官は間違っている。国民を裏切っている。国益を損なっている。それに対して、末松理事長と山中先生は、立場は異なるが、健康医療の研究開発を具体的に進め、自ら担い、良くしようと努力を重ねている。

 

理事長人事を巡る今回の判断は、端的にいえば、末松理事長を選択するのか、和泉補佐官を選択するのかを明確に示すものとなる。果たして官邸は、末松理事長と和泉補佐官のどちらを選択するのか。

 

私が末松理事長を支持するのは、個人的な好き嫌いではなく、理事長が原理原則の人であるからだ。その原理原則とは、日本の医療研究開発の向上を最優先すること、サイエンスに基づくこと、公平であることである。ここでいう医療研究開発の向上とは、患者さん、国民の利益を守るということだ。自分の利益ではない。理事長人事は、官邸が、こうした「原則」を守ろうとする見識を示す機会だ。

 

信なくば立たず、という。官邸が、万一和泉補佐官を「選択」した場合、信頼はどうなるか。立っていられるか。

 

理事長人事を巡る官邸の決断を関係者が固唾をのんで見つめている。

 

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

 

 

第17回 真に必要なのは「日本」の復興だ

 

京都大学の山中教授が、3月5日(木)のNEWS ZERO にパートナーとして出演した。

そこで重要な証言が飛び出した。あなたはご覧になっていただろうか。気付かなかった?では共有しておこう。

 

小栗)iPS細胞のストック事業について、ですけれども、去年の8月に官邸の和泉補佐官と

  厚労省の大坪審議官が先生のもとを訪ねて補助金を打ち切るという趣旨の話をされた

  ということが、国会でもとりあげられたわけですけれども、実際には何が伝えられたんで

  しょう。

山中)3人でお話して、もう決定事項だと、来年からストック事業の部分については国の

  お金を出しませんと、通告されたと僕は理解したんです。が、そのあといろいろお話し

 していると、先方からは、相談に行ったんだということで、かなり認識に差があったんだ

 なと。私たちは国からお金を出していただいている方(ほう)ですから、なかなか、言い

 返せない。そういう認識の違いというのは、3人で会ってしまったのがボタンの掛け違い

 の原因の一つだったかもしれないと、反省しています。

 

どこまでも謙虚な言い方ではあるが、「(和泉補佐官と大坪次長から)iPS細胞ストック事業には国の予算を出さないと通告された」と山中教授は明言している。

 

第12回「結局、8月9日に何があったのか」 

https://ameblo.jp/fumiharu0806/entry-12577480654.html

で詳述した通り、二人が事実上「恫喝」したのだ。その事実を裏付ける重大な証言といえよう。

 

目下、我が国においては新型コロナウイルス感染症への対策が最優先課題である。国を挙げて、与党も野党もなく、永田町も霞が関も、官も民も、対立を超えて知恵を出して乗り越えよう。

 

しかし、その陰で、正義が葬られようとしているなら、それを見逃してはならない。この国に難局を乗り越えるポテンシャルがあることを示すとともに、最後は正義を貫く良心があることも見せなければならない。

 

 

東日本大震災から9年。いまだに数万人の方々が復興住宅にお住まいになっている、一種の避難状態におかれているという。信じがたいが事実だ。この9年もの年月の間、一体私たちは何をしてきたのだろうか。あるいは何をしてこなかったのだろうか。

 

あの日あの瞬間、私は国会にいた。参議院の予算委員会の質疑の真っ最中だった。当時は、民主党の菅政権であったが、総理の外国人献金問題を巡って、連日激しい「菅降ろし」が吹き荒れていた。

 

そこへ国難が襲った。

 

「被災地の復興なくして我が国の復興はない」とは総理の言葉だ。その言葉通り、被災地の復興はもちろん成し遂げられなければならない。新型コロナウイルス感染症によって受けている、さらにこれから受けるであろうダメージも跳ね返さねばならない。そして、その先に我が国が取り戻すべき、もっと基本的な「正義」「道徳」「希望」がある。国が依って立つ基盤なしに真の「復興」はあり得ない。

 

根本的な復興こそが必要だ。

 

 

 

日本の医療研究開発が歪められている。