翔くんとのデートはいつも真夜中。

まるで太陽と人目を忍ぶように。





「なんだっけ?こないだおまえが作ったあれめっちゃうまかったから食いたいなー、冷たいやつー」




たいてい汗かきながら元気いっぱいすることしたあとだから、シャワーから出た第一声が「腹へったー!」からはじまる。




「カンツォーネだっけ?カルツォーネ?いやちがうな、カッシーニ?あ、カッシーナか?なーってばー、潤聞いてんのかーー??」




おまけに今夜はけっこう呑んでだいぶ仕上がってからのベッドイン。酔っぱらって乱れまくった翔くんにこっちも悪酔いして延長戦。




「冷蔵庫になんかない?ご自分でどうぞー」


「無理デス、麦茶しか作れないデース♪」


「今までなに食って生きてきたの?」


「潤、いい店教えてやろうか?」


「………」


「コンビニって知ってるか?」




なにを言われるか100%わかる不毛な会話。ベッドに寝っ転がってなぞにドヤ顔で、鼻歌まじりに缶チューハイを揺らしてボタボタこぼしてる。酔った翔くんは手が付けられない。




「仕事だからユウは来れないよ」


「ちがうっつーの!ユウじゃなくて、おまえが作った冷たいパスタが食いたいの!カッシーニッ!!」


「ハイハイ、んじゃ椅子でも食ってなよ」




とかなんとか口では言うけど。

もう一度とおねだりされればそこは応えたい。




「なら買い物行こ。ドンキ」


「でぇ 俺も?そこのスーパーでいいじゃん」


「ダメ、そこ売ってないから。自分が食いたいって言ったんでしょ、ほら起きて、行くよ」




こうやって強引にでも連れ出さないとデートらしいデートもできない。といっても食材の買い出しってだけでデートらしくもないし、おまけにふたりしてTシャツ、ハーフパンツ、ビーサン。小学生か。




「じゅーん」


「んー」


「腹へったー」


「だから買い物行くんでしょ」


「じゅーん」


「んー」


「ねみー」


「腹へったの眠いのどっち?」


「つーか腹へって眠いとかヤバくないか?俺いま遭難したら死ぬな?」


「そうだねぇ 遭難できたらねぇ」




缶チューハイ片手にふらふら千鳥足。ご機嫌で饒舌でどうでもいいことで笑ってる俺のかわいい人。それだけでも真夜中のデートの価値はある。




「翔くん」


「あー」


「好きだよ」




ほらね。酔っぱらって赤い顔して呂律もまわってないくせに、肝心なとこはちゃんと聞いてて急に真顔になるんだから。そのきれいな手をとってつなげば、ほどかれたりはしないのに。




酔いまかせでもその言葉を口にしてくれない理由は、こわくてきけない。嘘でも言ってほしいって、2番目の女みたいなセリフをもう何度ものみこんできた。














俺のかわいい人のかわいいところ。「この商品の陳列すごくね?」と、はじめてみたいに真夜中のディスカウントショップを楽しむところ。ここの人たちの仕事はこうやって報われる。




ひときわ騒々しい男女の集団が通路をふさいでる。笑い声やわめき声があがるなか、ひとりの女が「あー!櫻井くんだっ♡」と、こっちへ向かって黄色い声を飛ばしてきた。と同時に、ほかの女たちもいっしょになってテンションあがってる。




翔くんといるとよくある。大学のヤツら、と、めんどくさそうにちいさくつぶやいて、申し訳程度にはあいさつを交わしてる。




集団を仕切っているらしい男はあからさまに不愉快な表情をした。その身なりや態度から、金にモノを言わせてすり寄ってくる人間たちを自分のそばに置いて『仲間』だと安心したがる小心者。わかりやすい。




櫻井くんのトモダチヤバくない♡超イケメン♡彼女さんうらやましー♡などなど、称賛の声についてはありがたく頂戴する。全方位から超モテまくる俺のかわいい人。そのとなりで見劣りしない超イケメンな俺。ほとんど記憶の薄れた親だけどそこは感謝してる。彼女さんについてはいないと正直に答えた。




「俺、オンナノヒトで勃たないんで♡」




瞬時に固まる女たち。からの、断末魔の叫びよろしく「キャーッッッ♡♡♡」が爆発したのは読み通り。オンナノヒトで勃たない超イケメンな俺のお相手が、となりにいる翔くんだと想像させるには、この服装とカゴの中身はそれなりに効果を発揮したらしい。




横目でこっちをにらんでる俺のかわいい人はとりあえず無視して、チヤホヤしてくれるオネエサンたちとしばしの談笑。いつも人目を忍んでるんだから、たまにはこのくらい匂わせたってバチは当たらない。




「あの成金クンて翔くんのこと嫌ってるでしょ?なんかやらかしたの?」


「んなこと知らねーよ。つーか、おまえにはあいつが金持ちに見えんの?」


「ちがうの? あの腕時計ニセモノ? 」


「おまえ頭わるいな?」


「はいー?」




はじまったよ翔くんの口ぐせが。

なにかっつーとすぐこれ。




「世間知らずって言うんだよ、あーゆーのは」


「ふーん、それってどうちがうの?」




おびただしい種類のキムチを物色してる。

彼の好物。その後ろをついていく。




「潤」


「んー」


「不謹慎なこと聞くぞ?」


「んー」


「おまえの親が死んだらおまえ死ぬ?」


「は? なにそれ?」


「どう? 死ぬ?」


「死なない。今だって生きてんのか死んでんのかわかんないし、そんなこと気にしてないし、でも俺生きてるし。てかそれってなんの質問?」


「あいつは死ぬよ」




キムチをひとつカゴに入れる。

と、こっちへふり返った。




「おまえみたいに自分の意思とか自分のチカラで生きてないから、あいつは死ぬよ」




…ったく。望んでるものはぜんぜんくれないくせに、こっちが想像もしていないものをある日突然ひょっこりくれたりするんだから。成金クンに感謝したい。




そんなこんなで。




帰宅後に料理へとりかかるも、翔くんがお手伝いの姿勢をみせるのは最初だけ。こっちは鍋に沸かしたお湯で扇風機や換気扇なんて意味ないくらい滝汗かいてんのに、あっちは深夜のお笑い番組、チューハイ、キムチ、爆笑。んでさらにベロベロになっちゃって…、わかってるよ、わかってんだけど……、




「……なんで寝ちゃうかなーこの人は…」




すぴー♪すぴー♪   じゃないっつーのまったく…。きもちよさげな翔くんの寝顔を眺めて、真夜中にひとりで頭にタオル巻いて汗だくで2人分のパスタをすする理不尽とかむなしさとか、幸福とか。




「ったく…カッペリーニだよ? 翔くん」




オリーブオイルまみれのくちびるで、俺のかわいい人のまぶたに触れる。くすぐったそうな仕草。そのきれいな手が求めるように俺をさがしてる。ため息。





寝言でもいいから、言ってよ。









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