体の力とリラックス
トレーニングなので、しぜんにはできません。そこでは、お腹に力を保って、リラックスして声を出すようにしたいのです。しかし、力を保ちながらではリラックスできないものです。
実際に、リラックスしたら力が保てない、ということも少なくありません。
これは、初めてのスポーツをやるときに誰もが経験することではないでしょうか。野球、水泳、スキー、スケート、テニス、柔道、何でも、最初は部分的に力が入ってうまくいきません。力を抜けとか、リラックスと言われてもできません。防衛本能も働きます。
要は、力が働けばよいところだけ、そのときだけ、しぜんとうまく力が伝わって、あとは自然体、つまり、リラックスできればよいと考えることです。
声を出すには、リラックスすればよいと言われてきたでしょう。
しかし、それだけで歌うのに充分な声が出ますか。
リラックスすると、日常に不自由しない声は出るかも知れませんが、それによって、プロとして使える声も出るようになるとは思えません。もしできたとしたら、使える声をどこかで知らずとトレーニングした人です。育ちのなかでの差ですから、大変な時間を必要とするでしょう。
リラックスするための方法の一つは、力を入れて抜くことです。ストレッチはその原理を応用しています。手足の力を抜きたいと思ったら、思いっきり手足に力を入れてみてください。脱力したことがよくわかることと思います。
しかし、のどにそれを行ってはなりません。のどに力を入れて声を出していたのでは、たまったものではありません。発声の原理は、スポーツのように筋力を発揮するのとは異なるからです。そのときに感じなくとも、のどは疲れてしまいます。何よりも明日のためのトレーニングになりません。
リラックスして声を自由に使えることは、最終的な目標であり、多くの人には理想です。フォームができ、呼吸が深くなるにつれ、体が少しずつ自由に使えるようになります。少しでもよくなっていけば、そこを使っていくとよいのです。そして体に覚えさせていくのです。
ですから、体中に入っている力を、まず体の中心に一つに集めます。
つまり、リラックスするために、力を保てるところを見つけるのです。これは腹式呼吸を支える呼吸筋、そして背筋や側筋といった腰のまわりの筋肉です。ここは鍛えられるほどよいでしょう。筋肉は使うことで強くなるからです。
喉頭など、声帯まわりに力を入れてはいけないのは、笛のリートみたいなもので、筋肉といっても筋トレのようにストレートに鍛えられませんし、痛めかねません。
何よりも力でなく息を声にするのです。
将来的に発展する可能性のあるところを鍛えていくのでなくては、トレーニングとはなりません。
力が全てに、あるいは部分的に入るのが、初心者です。そこから意識を丹田(へそ下五寸のところ)あたりに集中し、背筋や側筋に負担を引き受けさせようとしているうちに(つまり、体から声を出そうとしているうちに)、力の必要なところだけ必要な分の力が働き、リラックスのなかで、できるようになります。それが無意識でできるようになればよいのです。そのために、日常から動きやすくしておくということです。
[リラックスのためのストレッチ]
1)右手、左手、右足、左足と順に力を思いっきり入れて脱力してみてください。
2)両手をつかんで、強くひっぱってから、脱力してみましょう。
3)次の箇所は、力を加えて痛ければ、常日頃からほぐすようにしておいてください。
(1)首の筋
(2)肩と首の間
(3)胸の上(わきの方)
4)頭の頭頂からつま先まで、ていねいにマッサージしておいてください。
5)ストレッチしたすぐ後は、よい状態ではありません。
時間をおいて、その感じがなくなるまでは、行なわないようにしましょう。☆