◯歳月が声を育てる
体から出した声というのは、最初は低く、声域も狭く、音楽的に思えないかも知れません。お祭りでの「ハッ」というかけ声のようなものです。
歌にはどう使えるか、わからないかもしれません。いえ、あなたもこれまで歌に使えるように思えないから使わなかったのです。
しかし、唯一の取り柄は、声が体から出ていて、のどを痛めないということです。それが、あなたにとって本物の声のベースになっていくことは、トレーニングを続けていくとわかってきます。何事も、ものごとが、その人のものになるには体と一つにならなくてはいけません。
そういうイメージで出して、出せてしまった声が一番応用力にすぐれ、いつか、どんなことにも使える万能の声になるのです。
重い砲丸は、力のない人には少しも投げ飛ばせません。持てないかもしれません。しかし、力のある人にとっては、遠く飛ばすために適度に重い方がよいのです。力がついたら、重いものほど軽々しく遠くまで飛ぶわけです。
美しいトランペットのひびきは、小さな部屋のなかで聞くとひどいものです。ところが遠くでは、私たちの心を打つ音色となります。オペラの声も同じです。
遠くまでひびいて聞こえるということは、マイクにも効率よく入り、パワフルに聞こえるということです。音圧を感じさせる声、それは日本人に最も欠けている一流の条件です。
まず、自分の声を、体をしっかり使って、砲丸として出すことです。それが鳥の羽や紙のようなものでは、いつまでも安定しないし、心もとありません。暖簾に腕押しのまま、それでは腕の力がつきません。