お稽古ごとの師匠は、弟子入りを望んできて、住み込ませた者に、直接、レッスンをしなかったといいます。外から習いにくる生徒のレッスンの様子を、仕事の合間に、戸の外から耳を澄ませて聞いているのです。
師匠と生活するわけですから、その方面のお客さんが来るので、いろいろ裏の話が聞けるのです。「門前の小僧、習わぬ経を読む」ということです。
これは、芸事だけでなく、人間社会での活動全般に通じます。
舞台を支えている力には、他の人とのやり取り、交渉、マナー、感情表現、心配りなど、さまざまなものがあるのです。
ヴォイストレーニングのレッスンが、この内弟子修業のようなものになればよいのですが…。
すぐにでも人前で歌わないと遅れを取ってしまう、と思う気持ちはわかります。
早くから歌い始めている人が多いので、それをみて気持ちだけ焦っている人、バンドや音楽スクールを次から次へ多く変えている人もいます。
しかし、すぐに歌ってしまうから歌がわからないし、いつまでも歌えないともいえるのです。
※今の日本の現状では、皆がうまくて出てくるのが大変だとか、自分はこんなにうまいのに誰も認めてくれないという状況からは、程遠いのではないでしょうか。
最も大切なことを忘れているから、一流と言われる歌い手が出てこないのです。何を焦って、急ぐ必要があるのでしょうか。