【一部の難民申請者を東アフリカのルワンダに移送】
多数の難民問題に、世界の各国は長らく頭を悩ませている。アメリカの民主党政権ですら、メキシコから越えてくるあまりの難民の多さの対処に困惑している。
ドイツのメルケル元首相の難民受け入れ政策は世界で高く評価されたが、それでもあまりの多さに対処しきれないでいる。日本ではほぼ難民受け入れ拒否の姿勢を崩さない。
そんななか英国でも、ドーバー海峡を渡ってくる年々飛躍的に増加する不法難民に手を焼いている。ジョンソン元首相は2022年4月、唐突に難民申請者を東アフリカのルワンダに移送する案を発表し、世界に賛否両論を巻き起こした。
ジョンソン元首相は「『卑劣な人身売買業者』が海を『水の墓場』に変えてしまうのを阻止する必要があり、この計画はそうした業者のビジネスモデルを破壊するために考案された」と述べていた。
2020年には8404人、2021年には28,526人が小さなボートでドーバー海峡を渡ったとされる。
英国政府は、数度議会に移送法案を提出して野党労働党などの反対があっても可決させた。2023年6月欧州人権裁判所は第一便の出発直前に差し止めを判断。英最高裁も11月に「ルワンダに移送される人々を人権侵害にさらす」と違法と判断する。
そのため、政府は更に法案の内容を修正し、4月23日に法案を可決させた。スナーク首相は、ルワンダへの第一便を「10~12週で離陸させる」と発表した。総選挙前に第一便を飛ばすことは政権の最重要課題としている。
これに対し労働党スターマー党首は、「実現しない、非倫理的で不当な」スキームだと批判。英国教会のカンタベリー大主教も「我々の責任を他人に押し付けるべきではない。亡命申請者を海外に送ることには深刻な倫理的疑問がある」と言う。難民支援団体は、この計画は残酷だと批判する。
【ルワンダの今】
1994年ルワンダ内戦でフツ人の過激派が、フツ人穏健派やツチ人などを100日間に約80万人を殺害したというジェノサイトが有名だ。これにより多数の市民が難民となり近隣国に逃れる。
その後1994年7月にツチ人主導の愛国戦線が内戦を終わらせ政権を樹立。急速な国家再建と経済成長を実現する。2003年~2013年の10年間で経済成長率は平均年7.7%に達し「アフリカの奇跡」と呼ばれる。それでも2021年の一人当たりGDPは834米ドルで世界167位と世界最貧国の一角だ。
英国政府は、亡命申請が受理された人々は、ルワンダで「新しい生活」を築き、最長で5年間の教育や支援が受けられる、とする。何万人もの人々を、ルワンダは今後数年にわたって再定住させる能力を持っていると。
2022年4月以降英国は、「経済発展と成長のため」ルワンダに2億2千万ポンド(約420億円)を支払い、27年までに更に1億5千万ポンドを支払い、更に移送人数によって支払額が増える、としている。
英国内務省の昨年6月の試算によると、この移送計画では、イギリスに滞在させるよりも1人あたり6万3千ポンドほど高くつくようだ。
最初の計画は、ボートやトラックの荷台などに乗ってイギリスに到着した独身の男性を対象とすると思われる。
ルワンダは、独裁国家で人権擁護に懸念が大きいとする国内外の強い反対の中、いよいよ今度こそ強行されようとしている。
【他国も続くか?】
スナク首相は「移民に関する世界の方程式を根本的に変えるものだ」と言う。この動きは今後、欧州各国にも広がる可能性があるようだ。イタリアやデンマークなどでも移民や難民の管理を第三国に「委託」することが検討中とか。
難民の人々の声・気持ち・願いが、全く聞こえてこないし、反映されているとは到底思えない、厄介払いのスキームのような気がする。難民条約の締結国としての責務を放棄するような計画だ。