【国・都への損害賠償訴訟で証言】
国・都を相手とする損害賠償訴訟の証人尋問で、驚きの証言が続いている。東京地裁での裁判で極めて異例な証言が続いているという。警視庁公安部の現職警部補が事件の「捏造」を認める証言も飛び出したのには驚きだ。
事件はこうだ。機械メーカー「大川原化工機」(株)が主力商品「噴霧乾燥機(スプレードライヤー)」を中国・韓国に輸出した。それが生物兵器の製造に軍事転用可能な機器を無許可で輸出したとして、社長など3名が20年3月に逮捕・起訴された。
その後、起訴後の追実験で、菌が死滅せず「立証困難」として21年7月に検察庁が起訴を取り消した。当初から規制対象外の製品と思われたのに11ヶ月も身柄拘束と続けていたことになる。
逮捕の報道により会社の信用は地に落ちる。銀行から取引をストップされ、新規の取引もできず、売り上げも6割減で経営は大ピンチになる。21年9月、社長らは国・都に対し約5億7千万円の損害賠償を提起した。その証人調べの裁判で驚きの証言が飛び出した。
【噴霧乾燥機とは】
噴霧乾燥機とは、ステンレス容器内に噴射した液体に高熱をかけて瞬間的に粉末にする装置。コーヒーやスープの粉末、医薬品、バッテリーの材料など、幅広く様々な用途に使われている機器。同社は、国内シェア約70%を誇っていて、海外にも輸出していた。
経産省では「定置した状態で内部の滅菌、または殺菌ができるもの」を規制の1つの条件としていた。同社の製品は、扉を閉めたままで完全に滅菌・殺菌することはできない機器で、「そもそも危険な粉末を扱うわけではないので、その必要性もなかった」。それなのに、である。
【証人の驚きの証言が続く】
6月30日の裁判では、捜査を担当した警視庁の警察官に対する尋問が行われた。
公安部の現職警部補は、「経産省が解釈を決めていない。公安部がそれに乗じて(事件を)でっち上げたと言われても仕方ないのでは」との弁護士の質問に対し、「まあ、捏造ですね」と認める。
更に、同社側が公安部の見立てと異なる主張をしたことから、別の捜査員が追加実験を提案したが、実施されなかったとも証言した。そして「輸出自体には問題はなく、捜査員の個人的な欲でそうなった」「客観的事実がないのに、これだけの捜査をしたのは、捜査員がこうなりたいと思った、それ以外考えられない」と続ける。
別の警部補も「捜査幹部が、マイナス証拠を全て取り上げない姿勢があった」と証言する。「捜査を尽くすために追加の実験を上司に進言したが、『余計なことをするな。事件が潰れたらどうするんだ』と叱責された」と明らかにした。
極めて異例な証言だったが、大川原社長は「上司の命令は絶対という警察組織の中で、正直に話してくれる人がいたことは、少し安心できた」と話す。
【経産省官僚からも】
7月5日の証人尋問では、輸出規制を所管する経産省の職員だった2人も証言した。元担当者は「同社の機器が規制対象外である可能性を警視庁に何度も伝えた」「非該当の可能性を数多く述べた」と証言。
「警察が熱心だったので、クールダウンしてもらう趣旨だった」とも証言。「警察が該当と勘違いするのが嫌だったのか」との質問に、「そういう気持ちもあった」と語った。
国・都は捜査に問題はなかったと主張していて、今後裁判はどういう形で結審するのかはまだ分からないが、逮捕された3人のうちの1人相嶋静夫さん(72)は、身柄拘束中に胃がんが判明して、逮捕から11ヶ月後の21年2月に亡くなられている。無念の思いのままで。