ルイ・アームストロングの歴史的名作。今さら何の説明も必要ないほど有名なアルバムで、控えめに表現してもここに収められた曲を一度も聴いたことがないという人はおそらく皆無だろう。
ルイ・アームストリング、通称サッチモは1900年に生まれ、まさに20世紀の音楽史を築き上げた巨人のひとりである。貧しい一家に生まれた彼にとって唯一の楽しみが音楽であり、コルネットであった。そして彼は黒人ジャズの黎明期であった1910年代に黒人ジャズメンたちの憧れであったキング・オリヴァーのバンドに加入し、そのキャリアをスタートさせることになる。キング・オリヴァーのもとで修行を積んだサッチモはシカゴに戻り自身のバンド"Hot Five"をスタートさせる。そこでトランペットに持ち変えているが、彼の音楽への意欲と愛情は留まるところを知らず、ジャズというフォーマットの中で、自ら歌いそして自らMCをとるという独自のスタイルを確立させたのである。
このアルバムはそんなサッチモの代表作として語られてはいるが、実はカバーアルバムである。タイトル曲の"What A Wonderful World"をはじめ彼が生涯をかけて愛しぬいたスタンダードが収められている。そして収録されているのはこの当時からスタンダードとして知られている曲であったが、このサッチモの録音によってさらにその知名度は上がった。今やこのアルバムを知らない人はいなくても、このアルバムに収められた曲がカバーソングであることを知らない人は多いだろう。
サッチもの歩んできた道のりは、ビバップが生まれるまでの20世紀におけるジャズの歴史と重複する。もともとが輸入奴隷としてしか扱われなかった黒人たちの社会的進出や当時の様々な状況を反映して生まれた音楽こそがジャズであって、彼の音楽活動が充実し、セールス的な成功をも収めていく過程はまさに黒人達の身分意識の高揚の変遷と商業音楽としてのジャズミュージックの発展の軌跡と言える。その次の世代であるマイルスは、サッチモの愛嬌たっぷりのエンターテイメント性を白人への媚びだと彼を卑下したが、トランペット奏者としてのサッチモを愛し続けた。サッチモはステージ上で媚を売っていたのではなく、彼の頭にあったのは音楽を愛し続ける喜びであり、その喜びを大衆に向けて発信できることにこの上ない喜びを感じていたに過ぎないのだろう。
サッチモは"真夏の夜のジャズ"という映画のトリを飾っている。この映画に収録されたNewport Jazz Festivalには後年ロッカーたちの神となったチャックベリーも出演するが、まだロックやジャズという音楽のカテゴライズが希薄だった時代で、観客たちはチャックベリーのダックウォークもサッチものトークサービスも同じ次元で楽しんでいる。サッチモが生きたこの時代は、音楽を余計な理屈や音楽体系など気にせずに最も自然体で楽しめた古き良き時代であり、サッチモたちミュージシャンも余計なことを考えず、自分のため、観客のためにストレートに音楽を楽しめた時代であった。彼の音楽の大部分を占めるのはそういうピュアでプリミティブな音楽に対する歓喜である。








