もちろん、すべての自閉症のかたの特徴ではありませんが、

よく言われることを、以下にいくつか引用してみます。

「よいところ」から書いていきます。

 

 

① 自閉症者の記憶は、正確である。

例えば、「春、4月、サクランボ、並木、ピンク」という、「桜」に似た単語を、定型のかたが覚えたとしましょう。

「桜」は、含まれていません。

しばらくして、思い出してみます。

すると、多くの人は、「桜」も回答してしまいます。

これは「フォルスメモリ(false memory; 虚偽の記憶)」と言われます。自閉症のかたは、「桜」は回答しない傾向があります。

つまり、想起が正確であることを意味します。  *1より 一部改変

 

② 自閉症者の記憶は、高い感覚性に基づく。

 

自閉症児は、見たままを、写真のように記憶することがあります。

写真記憶(映像記憶)、直感像記憶 (eidetic memory)、とも呼ばれます。 

*2 *3

聴いた音も、嗅いだ匂いも、そのままで記憶します。

高い感覚性に結びついた記憶能力と言えます。

定型発達児でも、乳児幼児にはよくある「原始的な記憶能力」が、残存したもののようです。 *2*3

自閉症児・者は、その高い感覚性と「こだわりの強さ」ゆえに、細かな部分をよく記憶することができるとよく言われます。 *4

 

 

③ 自閉症者は、長期記憶がすぐれている。

 

数分前のことを思い出すのに苦労するかもしれませんが、何年も前のことを鮮明に思い出せることがあります。 *5

 

私は、これは不思議だなと思いました。

長期記憶って、短期記憶がしっかりあってから、出来てくるものかと思ってました。

 

僕らが例えば、試験勉強「一夜漬け」で思えた単語とかは、短期記憶であって、

繰り返して勉強しないと、安定した長期記憶にはなりませんよね。

短期記憶から、長期記憶へと変わる過程を、「記憶の固定化」、というそうです。 *6

自閉症児で、短期記憶をすっ飛ばして、長期記憶だけが得意、ということは、あるのだろうか?と思いました。

きっと「記憶の固定化」とは、別のメカニズムがあるはずだと思い、調べてみました。

 

エピソード、体験、を含む記憶なら、

一回きりであっても忘れにくい、つまり長期記憶になりやすいはずです。 *7

これは、記憶のプロセスに、感情を含むからだと考えられています。 *7

ただ、自閉症児・者では、エピソード記憶は、むしろ、損なわれていることが多いようです。 *13

これは、自閉症児が、失感情症をしばしば伴うことと関係しているのでしょう。

私の過去記事(47)もご参照ください。

 

 

 

 

それでは、自閉症児・者で、長期記憶がすぐれている理由は何か。

ecmnesia、エクメネシア、これがそうかな、と思いました。  *8

自閉症児・者が、はるか昔のことを突然に思い出し、まるで、つい先ほどのことのように扱うこと。

フラッシュバックと言ったら、トラウマで嫌なことをずっと覚えているイメージですが、

エクメネシアと言ったら、楽しい記憶も含む言葉です。

写真のような記憶が、次々に、時間軸バラバラに、こぼれ落ちてくるイメージかもしれません。 *9

 

とすると、自分の意志で、思い出そうとして、引き出してくる記憶、ということとは、違うように思います。

 

④ 自閉症者は、一般知識の記憶がすぐれている。

 

長期記憶は、さらに細かく分けることができます。 

以下のような図がありますが、理解があまりにもたいへんです。 *10 *11

 

 

「陳述記憶」と「手続き記憶」だけを理解されることをお勧めします。

一番分かりやすいのは、下記の図と思います。  *12

頭で覚える「陳述記憶」と、身体が覚える「手続き記憶」。

 

 

自閉症者は、頭で覚える「陳述記憶」のなかでも、

エピソードと関係ない、一般知識の記憶(意味記憶)が、比較的保たれています。

*13

自閉症者の多くは、陳述記憶のフレーズや文章を使用します。定型的なスピーチ」と呼ばれるこの戦術は、言語的欠陥と社会的欠陥の両方を補うのに役立つ可能性があります。 *14

 

どこにも「エコラリア」とは、書かれていなかったのですが、

これって、エコラリアのことですよね。

文脈から、自閉症者の得意とする長期記憶に、エコラリアを含めているように読めます。

遅延エコラリアであっても、自閉症者の弱点を緩和する戦略になりうるということです。

 

 

(※注) 私には「エコラリア」を含むものを「意味」記憶と称することに、どうにも違和感がありまして、

陳述記憶のなかで、エピソード記憶ではないものを、「一般知識の記憶」と書いています。

英語では「semantic memory」です。

 

 

 

今回記事のまとめです:

 

自閉症児・者は、その高い感覚性と、こだわりの強さから、見たものを細部まで、写真のように記憶する傾向がある。聴いた音なども、そのまま正確に記憶する。その記憶は長期記憶となり、本人の意思とは無関係に再生されることがある。この特性を上手く使えば、社会性・コミュニケーションの弱点を、代償できる武器になるかもしれない。

 

自閉症児・者には、膨大な量の記憶がストックされているかもしれない、と思いました。ただ、親や他人が、それを知るすべがない場合も、あるのかもしれません。

この素晴らしい記憶を、本人の意思で、または周囲の働きかけにより、

必要な時と場合に、引き出して使えることができるといいなと思います。

よい方法はないでしょうか?

アイディアのある方、教えてください。

 

私は学生の頃、こういうの持ち歩いていました(単語カード)。

表に「国名」、裏に「首都名」(なんでもいいんです)

いつでも記憶を「引き出せるように」トレーニングしていました。

こういうのでもいいと思います。

子どもさんがこういうものを、自分の意志で、持ち歩きたいと思うかどうかは分かりませんが。

 

 

*1.

https://www.nara-edu.ac.jp/PRESS/pdf/book038.pdf

 

*2.

 

*3.

https://omu.repo.nii.ac.jp/record/11822/files/2020000086.pdf

 

 

*4.

 

*5.

 

*6.

 

*7.

 

*8.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/japanacademyofas/13/2/13_5/_pdf

 

*9.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdp/27/4/27_322/_pdf

 

*10.

 

 

*11.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.2011.04153.x

 

*12.

 

*13.

 

*14.