ほとんどの会社は減点主義を採用している | キジバトのさえずり(鳩に執着する男の語り)

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・ほとんどの会社は減点主義を採用している。しかし、ほとんどの会社は、「わが社は、官僚組織のような減点主義ではなく、加点主義で、社員を評価しています」と、のたまう。何で、そんなうそをついちゃうんだろう。減点主義のイメージが悪いからって、実態を無視したことを言っちゃ、駄目だろうに。胸を張って、「わが社は、あの国家のエリート――官僚たちの組織と同じように、減点主義を採用しています。ですから、一度でも失敗した者は、二度と、はい上がれません。永遠に、汚名を返上することはできません。殺し合いと一緒で、失敗は即、死を意味します」って、言えってんだ。その方が、よっぽど正直だ。
 さて、それではなぜ、ほとんどの会社が減点主義なのか? 別に経営者の根性が腐っているから、そうなっているんじゃない。逆立ちしたって、加点主義を採用することができないからだ。
 考えてみてほしい。この世の中に存在する、ほとんどの仕事は、ぶっちゃけ、コンビニエンスストアの店員がしているような、誰にでもできる、簡単な作業にすぎない。特殊な才能など、一切、必要としない。
 俺が明日、いなくなっても、俺の代わりはいくらでもいるし、君が明日、いなくなっても、君の代わりはいくらでもいる。下は平社員から、上は社長に至るまで、この人じゃなきゃ、どうしたって仕事が回らない、ということはまずない。誰が平社員をやろうが、誰が社長をやろうが、同じなんだ。金太郎あめみたいなもん。
 そういう現実がある中で、加点主義を採用しようにも限度がある。
 卓越した新聞配達員って、いるか? お客さまの心をつかんで離さない、コンビニエンスストアの店員って、いるか? 天才的な発想と、鬼神のような働きを見せる、牛丼屋の店員って、いるか? いないよね。
 できて当たり前な単純労働の、どこを加点すればいいというのだ。できて当たり前がマックスなんだから、そこから減点していくしかないじゃないか。


・創造性が求められたり、特別な技術が求められたり、優れた身体能力が求められたりする仕事なんて、わずかしかない。そして、そういった少数の仕事においてのみ、加点主義を採用することができる。理想と現実は、やっぱり違うんだ。
 もしも、あなたが営業マンをやっていて、その営業成績が、会社から評価されていたとしても、それは加点主義とは何の関係もない。あなたの代わりは、いくらでもいる。あなたは、特別なことは、何もしていない。「加点主義らしき人物評価を受けている」にすぎない。
 俺の言っていることがうそだと思うなら、致命的なミスをやらかしてしまったときに、俺の言葉を思い返してほしい。「加点主義を採用している」と、のたまう、アブラぎったオジサン(上司)が、いつまでたっても、あなたがミスしたことを覚えていて、そのことが、いつまでたっても、あなたの出世に響くから。
 本当に加点主義を採用しているなら、致命的なミスをやらかそうが、ミスの清算を済ませてしまえば、評価はリセットされて、マイナスからゼロに戻るはずだ。しかし、そういう風には絶対にならない。
 前回が大外れだった映画監督が、今回、ヒットを飛ばした、なんてことはあるが、普通の会社員が、そういう浮き沈みの中にいることはまずない。基本、一度沈んだら、おしまい、というルートしかない。
 いかにミスを少なくして、いかに上司にごまをすって、いかにお客さまにこびを売るか。悲しいけど、これが一番の処世術だ。