短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★27
違う世界が見えた気がした。
薄皮一枚ほどしか隔たりのない向こう側の、こんなにも近いところに、私一人では到底たどり着くことのできない知らない世界があることを、リツの声が私に教えた。
リツの歌声は圧倒的に、私の鼓動までも支配した。ぎゅっと締め付けて血流が止まったかと思うと、ほどかれて一気に全身に熱いものが流れる。
その流れは、体の中に淀んでいた重苦しいもの、体を重たくするじっとりとしたなにか、チクチクする記憶、そんな言葉にできず吐き出せないでいたものたちを、涙にして体の外へとほとばしらせた。
気がつくと、爆音と暗闇と人ごみに包まれて、私は赤ん坊のように泣いていた。