短編小説 真夏のトライアングル 作:NaNa
★12
「麗子さん。おばあちゃん」
「おばあちゃんを名前で呼ぶの、いいね」
「そうやって呼ぶように言われてるから」
「今、いないの?」優真は部屋を見まわした。
「いないわ」私はぷつりと切るように答えた。やはり、麗子さんのことをきちんと話すことができない。
「『ふたりのシーズン』かけてもいいかな?」
優真が目を輝かせて言った。
麗子さんのレコードをあまり聴く気にはなれなかったが、優真は返事を待たずに盤をターンテーブルに置き針を落とした。
ベースを抱きなおし、曲に合わせて四本の太いスチール弦の上に長い指を滑らせる。低音が増幅されて響くのが心地よかった。無心に弾く優真の恍惚とした表情は、見てはならないものを盗み見ているような気分にさせた。