佐野元春「No Damage deluxe edition」後編 | 戯れ☆ぷかぷか見聞録

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前回に引き続き、佐野元春の「No Damage deluxe edition」について、てんさいふぁっきゅー少年愛原福くんにうかがいます。

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ー後編ということで、改めてよろしくお願いします。

「大瀧詠一が死んだな」

ー突然、大晦日に亡くなりましたね。

「呆然としたよ。で、大晦日は紅白のサブちゃん見て、そのあと散歩に出たんだよ。散歩っつーか、音楽を聴きながら歩きにな。そん時ノーダメージを聴いててよ。三曲目のサムデイのイントロが鳴った時、大瀧詠一が現れたんだよ。おれの脳内に。佐野元春ってセカンドアルバムまでさっぱり売れなくて、そんでナイアガラトライアングルで大瀧詠一とレコーディングして、ノウハウを吸収して、そんでセルフプロデュースして録音したのがサムデイ。そのサムデイにはやっぱりちゃんとナイアガラサウンドがあって、なんかよ、大瀧詠一がいたんだよ。おれ、なんかよくわからんけど号泣して。年明け早々に。なんで泣いたんだろな。って後から考えて、大瀧詠一は死んだけど、全くもっていつだって生きてるんだってわかって、嬉しかったんだよ」

ー佐野元春にも、小林旭や森新一や松田聖子、その他たくさんの人たちが受け継ぎました。

「50歳くらいで隠居して、65歳で死んで、もっとたくさんの曲が聴きたかったと思ったけど、充分過ぎるほど作って、充分過ぎるほど与えたんだなって。少なくともセックスピストルズとかニルバーナとかに比べりゃ」

ーなるほど。2014年はそのようにしてノーダメージで号泣して幕を開けましたか。

「全く大瀧詠一のこと考えてないところに大瀧詠一が現れたから、なんか嬉しくってな。「佐野くん、サムデイよくできたね、おめでとう」なんて感じで」

ー福くんさんも、ひとり餅つき卒業おめでとうって感じですか?

「ばかやろう。おれの大晦日のご馳走は鮭の缶詰めだったぞ」

ーなんでそんなものを?

「大晦日にいつものようにスーパー行ったら何もねえんだよ。や、何もねえっつうか、でっかいオードブル、でっかい寿司、でっかいおせちばっかでよ。なんかアッタマ来たからいちばん侘しいもの食ってやるって思ってよ。鮭の缶詰め。これとクリームチーズと和えて紅白って、めでたくなっちまったけどよ」

ー福くんさんの侘しい正月料理、なんて本出したら日本全国の侘しい人たちの共感を得て大ヒットするかもしれませんね。

「や、マジで。正月だからって家族と過ごしてるヤツばっかだと思ったら大間違いだっての。スーパーも侘しい人たちの面倒も見てくれよな」

ーなんか他に正月侘しレシピないんですか?

「なんかあったっけ?特に思い浮かばねえけど、あ、侘しいってのとまた違うけど去年の正月はモツ煮込みでよ。スーパーで1キロくらいのモツが安くなってたから大鍋で作ったんだわ。それが、まあバンド演奏だと思ってくれ」

ーバンド演奏?

「一日目はまだ探り探りだ。ちょっとおっかなびっくりで、演奏もバラバラ。二日目は昨日の反省を活かして味の調整だ。三日目、こっからバンドは目的をひとつにして徐々にギアを上げて行く。四日目、もうノリノリだよ。失敗なんかもおかまいなしに突っ走る。五日目ともなると、鉄壁のグルーヴ!モツが、大根が、人参が、コンニャクが、ひとつのかたまりとなって昇天する。客もハイボルテージ!最高潮で幕を下ろす、ってな」

ーあぁ、バンド演奏ですね。

「そして、聞こえるだろ。客席からの鳴り止まないアンコールが」

ー聞こえるとして。

「颯爽とステージに現れるメンバーたち!まぁ、おれはまたモツを1キロ買って来たんだよ」

ーモツ煮込みのネバーエンディングストーリー。無限ループに入ったんですね。

「だけどこれが、ちょっとな。六日目、七日目と続けてやってもなかなかギアは上がらず、十日目にはもう飽きて空中分解の解散だよ。おれはアメリカツアーでバラバラになったセックスピストルズの気持ちがよーくわかったよ。しゃがみこんだジョニーロットンのあの空虚な顔」

ー希望が現実に打ち砕かれたんですね。グルーヴの再現はならなかったと。

「おれはモツ煮込みになんか学んだ気がしたよ」

ー引き際が肝心だぞと。

「モツ煮込みって、パンクだなぁって」

ー正月早々やっぱり侘しいんですね。

「五日目でやめてりゃ侘しいどころか最高だったんだけどな」

ーそれができないのも、福くんさんらしくていいじゃないですか。

「まぁ、止めろっつっても止めらんねえけどな。つか今なんかバカにした?」

ーさて、佐野元春「No Damage」後編ですけど。

「前回はDVDについてだったな。ちょっと追記的に言いたいことあんだけど。最後の方、元春とギターの伊藤銀次が肩組んで楽しそうにジャンプしてんだよ。銀次だって「ごまのはえ」で大瀧詠一に認められて、ナイアガラトライアングルで大瀧とレコーディングして、元春のプロデューサーになった。元春と言えば、大瀧詠一に世話になったけどそれとは別にはっぴいえんどについてはどうもなぁ、ってスタンスで。
どうもなぁってのはな、すごくクリエイティブで金字塔ではあるけど、ですます調の歌詞と古臭い風景描写がどうもなぁって。
そんで大瀧詠一門下生の銀次と元春が、新しいロックを、ビートと言葉で作った。その最後の子どものようなはしゃぎようが、大瀧さん、見てる?おれたちやったよ、すげえだろ?って言ってるみたいでよ。、、、なんかよ、大瀧詠一死んだからよ、どこにでも出てくるんだよ」

ーZOOEYのポーラスタアって曲にもありますね。「ほら見上げてごらん、冬の星空あれはポーラスタア、二人の行方見守るように、輝きを繰り返してる」

「大晦日に大瀧詠一に捧げるって演奏したみたいな。なんかなぁ、元春って家を飛び出した不良息子みたいなんだよな。さっきも言ったけどはっぴいえんどには否定的だったし。否定的って言っても悪い意味じゃなくて、もっと都会の風景をビートに乗せて疾走したい。その音楽をおれは作るんだって。元春が大瀧詠一から受け継いだのは音楽とか録音の技術だけじゃなくて、新しい音楽を作る意志なんじゃねえかなぁ」

ー前田日明みたいな感じでしょうか。

「誰だマエダって?」

ーいや、猪木の弟子のレスラーです。すみません、余計な例えで。

「あぁ、前田日明ね。クイックキック・リー。パイプ椅子の」

ー猪木に何度も裏切られてるんですが、前田曰く「誰よりも猪木さんの言ってることを忠実にやってきた」と。それで日本の格闘プロレス、新たな総合格闘技の礎を拓いた人です。

「若くして猪木の元を離れたけど、歩んだ道は猪木そっくりだったな。二回も古巣を追い出されて、しょうがないからエースとして団体作って、カールゴッチの薫陶を受けて大人気。前田も不良息子だけど、猪木を否定することで猪木と同じ道を歩んだと。そんで今回はライブCDのことな」

ーお願いします。

「1983年3月18日、中野サンプラザホール、ロックンロールナイトツアー最終日の音源。CDには14曲収録。これはよ、かなりヤバいブツだった」

ーどんなところが?

「いやぁ、日本のバンドのライブ音源でこんなにすげえのおれは聴いたことない。例えて言うなら、サムクックのハーレムスクエアみてえな?」

ーハーレムスクエアライブは、あまりにも激しすぎてサムクックを温和なイメージで売りたいレコード会社がお蔵入りさせて、20年後に発表されたんですよね。

「そうそう。で、元春のこんな素晴らしい音源がなんで30年後の今になって出てきたか?おれは思うんだけどよ、当時の元春がお蔵入りさせたと思うんだよ。
ってのは、元春はこのライブを最後に一年間ニューヨークに行っちゃうんだよ。そこで現地の生まれたばかりのヒップホップカルチャーにヤられて、ヒップホップのアルバムを作るんだわ。つまり、サムデイもアンジェリーナもロックンロールも、もう元春の中では過去になっていたんだ。そうして新しい音楽をやろうと思ってたのに、こんな素晴らしいロックンロールのライブ盤なんか出せない、ってな具合によ」

ーまさに「素晴らしすぎて発売できません」ですか。

「真相は知らねえけどな。ともかく、このライブ盤は素晴らしい」

ー褒めちぎってますね。

「まず古田たかしな。古田たかしってのは元春のバンド、ハートランドのドラマー。アルバムじゃあそんなに派手なプレイはしてねんだけど、ライブじゃあバスドラフル回転の、小技使いまくりの、暴走機関車なんだわ。最新の音でリマスターされてるから、ドラムとベースの重低音がすごい」

ー音が良いと。

「あとやっぱり元春の歌がいいよな。今じゃあ絶対に出せない声だろうけど、やっぱり当時の元春はロックンロールシンガーだわ」

ー全くハラハラすることなく聴けるって、嬉しいですね。

「そうそう。ハラハラしない。今の元春って、大丈夫?声出せる?ってハラハラしながら見てるんだよな」

ー武藤敬司のプロレスをヒザ大丈夫?って見てるような感じで。

「誰だ武藤って?あれか、スペースローンウルフか。光る女」

ー(よく知ってるじゃねえかよ、どうでもいいとこばっかり)

「で、このライブ盤、ロックンロールナンバー四連発で始まるだけど、「彼女はデリケート」はいつもどおり、ツイスト&シャウトなんか織り交ぜながら。で次の「バック・トゥ・ザ・ストリート」が原曲と全く違くて、辛うじて歌詞と一部のメロディが同じなくらいで全く別。これがまたいいんだよ。この一曲だけで元春ファンはこのライブ盤買う価値はあるよ」

ーめちゃくちゃかっこいいロックンロールですね、これは。

「そんで「イッツ・オールライト」。原曲はライトなロックンロールだけど、ジャングルビート風にアレンジされて、スウィングしてる。んもう、またかっちょええ。んで次は「スターダスト・キッズ」。この街のノイズに?に客席がカンパイ!って応えるんだけど、みんな若い若い、黄色い」

ー元春ってアイドルだったんですねぇ。

「で、次「サムデイ」な。サムデイができたばかりの時期の貴重なライブ音源。だけどまた元春アレンジいじってて。若干だけどよ。これは原曲どおりやってほしかったな」

ー曲を作った人には、曲の完成形ってないのかもしれませんね。

「次はジャジーに「ドゥ・ホワット・ユー・ライク」。ジェリールイスのマネをして、って歌詞のとこウディアレンのマネをして、に変えてな。おれウディアレン大好きだから嬉しいんだけど、どうなんだ?ウディアレンのマネをして通りを歩くって」

ーやたら神経質ですからね、多分カッコ悪いでしょうね。

「なぁ。職質されるぞ。で「ガラスのジェネレーション」からの「ソー・ヤング」でまたロックンロールやって。で、こっから大作が連発。「ハートビート」10分、「ロックンロールナイト」12分、「悲しきレディオ」10分」

ーオールマンブラザーズみたいですね。

「「ハートビート」は、おれ初めて長距離バスに乗った時に聴いてた音楽だったから。初めて見るハイウェイの朝焼けにハートビートなんてかっけえなぁなんて思ってたんだよ」

ー(ダサっ!)かっこいいですね。

「「ロックンロールナイト」はあまり一般には知られてねえけど、サムデイと同じくらい重要な曲で。これは色んな街の描写を山ほどたくさんの言葉で元春は表しているけど、おれのアタマにはその風景が浮かぶ。そんで聴いてる人みんなも浮かんでるはずだよ。どんな風景なのか見てみたいな。みんなこの歌の世界の主人公なんだよな」

ーロックオペラ的なナンバーですね。

「ロックオペラ的ではあるけど、元春の歌って物語はあまりないんだよ。たくさんの写真があって、それをリスナーがそれぞれコラージュして物語を作るって感じ。だから何通りもの物語があんのかななんて思うんだよ」

ー確かに佐野元春の歌って、ひとつひとつの場面を切り取った表現が多いですね。

「<オイルにまみれたモーターバイク>も<ボロボロな誰かのレザージャケット>も<瓦礫の中のゴールデンリング>も、何もつながってない。だからリスナーはそれをコラージュして物語を作る」

ービートニクス的なやり方で。

「で、ロックンロールナイトでおしまいかなと思ったのよおれ。DVDじゃあそうだから。そしたら「悲しきレディオ」が始まって、狂喜乱舞よ。多分アンコールなんだろうな。静かにピアノから始まって、弾けるようなピアノリフを叩きこんで、オルガンが重なって、ドラムが段々おっきくなって、ギターがガーンって鳴らされる時にはもう一丸の音のカタマリ。弾丸のようなロックンロールの始まり」

ーモツ煮込みで言うと?

「五日目よ。ハートランドってバンドがパートなんてもう関係なく溶けあって、ひとつの生命体になって昇天していく。これ、DVDでもやってる、なぜか一曲目でやってるんだけど、その映像がアタマん中で再生されて、元春とサックスのダディとのやり合いのあと、銀次がマイクスタンドぶん投げて間奏に突入して、元春がステージ走り回りながらメンバーひとりひとりにスポットライト浴びせて。もう全部全部、何度も見た映像だから全部再生されてよ。懐かしいなんてもんじゃねえよ。いまだに生々しく、激しくおれをキックしたよ。おれまた泣きながら歩いてたよ。口あけて、笑いながら泣いてたよ。なんてロックンロールって素晴らしいんだよ!って」

ーそんなにですか。

「なんたっておれが初めてロックンロールにヤられた、その音源がこれだからな。もうビデオも失くして、見る機会もなくなってたけど、思わぬところでこんな形でCDとDVDになって。なんとも言えないよ」

ー発売日までなんとも思ってなかったとは、不思議ですね。

「DVDの方はまだ予想通りだったけど、ライブCDの完成度がこんなに高いとは思わんかった。77分目一杯。これはもう事件だよ」

ーロックンロール殺人鬼、逮捕するぞ!なんて(笑)

「また飽きてきたんだろ。もうすぐ終わるからよ。そんで「悲しきレディオ」のあとは怒涛のように「アンジェリーナ」。もうバンドの血管がブチブチ切れてる。そんで「ナイトライフ」のあと、元春のニューヨーク行きの発表があって「グッドバイからはじめよう」で静かに終了。もうおれは何も言うことがないくらいに満足だよ」

ーもうモツ1キロは買わなくていいですか?

「余韻を楽しもうと思ってる」

ー福くんさんらしくないですね。なんか自爆してくださいよ。

「なに言ってんだよ。おれも今年は小学六年生になるんだからよ。そうそう自爆もしてられない」

ー(その設定まだあったのか)そうですか。

「余韻といっちゃあなんだけど、このライブ盤とDVDにどっぷり浸かったあとに、改めて去年のアルバム「ZOOEY」聴いてみたら、これもまたやっぱりなんつうか、変わらない佐野元春がいて。変わらないっつうか、そら変わってるけど、全く姿勢はひとつも変わってない。まだ疾走していたよ」

ー古きを訪ねて新たな発見がありましたか。
それでは今日はどうもありがとうございました。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

ーなんですか?

「これ言わないと締まらないだろう?」

ー2014年もよろしくお願いします。