2014年の音楽レビュー第一弾は前回に続いて佐野元春。
1983年のベスト盤「No Damage」がDVD付きで発売されました。
今回もてんさいファッキュー少年愛原福くんに話をうかがおうと思います。
ーあけましておめでとうございます。
「餅ついたか?」
ーや、さすがについてません。
「おれなぁ、15年前くらいだったか、年末に友人が電話してきてよ。そいつが酔っぱらっててずっと「つきたての餅が食いたい」って言ってるのよ。だから「だったら自分でつけ!」っつって電話切ったんだよ。そんで切ったあとに「あ、自分でつくのもいいかもな」なんて思ってもち米買いに行ったんだよ」
ー餅をこねる機械とか普通に売ってますもんね。
「ウチにはそんなのねえよ。もち米炊いて、炊飯器のカマを小脇に抱えて、空きビンでドッチドッチついたんだよ」
ーもっとマシな方法あるでしょうに。
「そう思うだろ?ねえんだよ。家で杵と臼の代わりになるもの探してみろよ。釜と空きビンしかねえぞ」
ーでもつきたての餅は美味しかったでしょうねえ。
「これがなぁ。おれよくわからないまま餅ついて。でわざわざ小豆2日かけて茹でて汁粉にして、あと芋煮の雑煮も用意して鍋に餅入れたんだけど、餅がもうドロドロでよ。汁粉の中で餅がボヤ~ンとしてて、箸でつかめもしねえ。ナウシカの巨神兵みてえな感じでよ。当時はネットとかもないから、餅のつき方なんてどうやって調べりゃいいかなんてわかんねえじゃん。結局、その餅は食わねえで、サトウの切り餅買ってきたよ」
ーなんか、、、バカですね。
「なにやってんだろうな、ってのは空きビンドッチドッチしてる時から思ったよ。元日に、ボロアパートでひとり。でも失敗から学ぶことも大事だろ」
ー失敗から学んで、克服してリベンジをしたと。
「いや、ひとりで餅つくのはもうたくさんだって学んだよ」
ー(学んだ、、、?)
「で、今回のお題はなんだ?」
ー佐野元春の「ノーダメージ」です。
「前回も佐野元春じゃん。偏りすぎてねえか?」
ーまあ、そこが聞き奥のいいところということで。
「RADWINPSとかもやっとけよ。話題になんないヤツとりあげて、話題になんないからボツとか本末転倒だろ」
ーいやぁ、もうそんなことはしません。
「ノーダメージな。これ30年前のベスト盤つーかコンピレーション盤か。アルバムで言うと3rdの「SOMEDAY」のあと。でこれはベスト盤ってのとはまた違ってて、元春の代表曲が数曲と、あとはシングルのB面とかでアルバムに入らなかった曲なんだよな。で、このB面の曲たちが、いわゆるイカしたロックンロールミュージックで、それが曲間もあまり開けずに連発されるから、かっこいいんだよ。
おれはこれをベスト盤って思ったことはないし、佐野元春の最高のアルバムのうちのひとつだな」
ー私のレコードにはボロボロになったポストカードみたいなものが入ってます。
「あぁ、なんか入ってたな。で、このアルバムが出る直前に元春はニューヨーク行きを発表して、その飛行機の上で初めてオリコンアルバムチャート1位を取ったことを知ったんだよな」
ーそうですね。
「そんなところか」
ーもっと詳しく、聴きどころなどを。
「別にないよ」
ーまたですか。なんかあるでしょう。
「もう30年前のアルバムだぜ。今さら何を言えってんだよ。簡単に言うと、サムデイ、アンジェリーナ、ガラスのジェネレーションが入った、初期元春のイカしたロックンロールミュージック盤のリマスター。以上」
ーええ、まぁ、、、。
「今回取り上げたのはそこじゃねえだろ。
フィルムノーダメージのDVDと、83年のライブ音源がCDになって再発されるっつう、そこが一応売りどこじゃねぇ?おれもまんまと踊らされてるけど、これはおれにとっちゃあ重要なブツなんだよ」
ーどのあたりが?
「あくまでもおれ個人の話なんだけど、おれが生まれて初めてロックというものに震えた作品が、この「フィルムノーダメージ」だったんだよ」
ー1983年当時の映画、らしいですね。
「いや、おれが観たのは映画じゃなくて、それをダイジェストにしたビデオ「Truth」ってヤツだったんだけどな。それまでおれはよ、ユーミンとかオフコースとか山下達郎とか聴いてて、で当時ロックって言われてたのがボーイ。このボーイがおれどうも全くピンと来なくって、なんかロックっつってるけどロックってたいしたことねえなって思ってたんだよ。こう、やたら速いビート、デジタルな音で、まあかっこいいのだろなぁとは思いつつ、なに唄ってんのかさっぱり意味が不明だった」
ーロックと言っても千差万別ありますが、インディーズブーム前ってあまりロックってないような気がしますね。ジャパメタくらいでしょうか。ラウドネスとかVOWWOWとか。
「ジャパメタなんてもう歌ですらねえし。東京じゃあロックなんて山ほどあったんだろうけど、田舎じゃあヒット曲の中からロックを探すしかねえんだよ。それがすべからく全部、デジタルロックだった。そりゃユーミンもオフコースも当時はデジタルだったけど、遡って昔のヤツ聴けたから」
ーロックどころか、まあ全部そうですね。デジタルの、それも今ほど発達してないデジタルをみんなが一斉に。
山下達郎も86年の「ポケットミュージック」で、デジタル録音にかなり苦労したと言ってました。
「あのアルバムはおれもちょっとがっかりだったな。音がのっぺりしてて。曲はいいんだけど、なんか諸手を挙げていい!とは思えんかったな。ボーイなんかもおれはメロディとかいいと思ったんだけど、あの音がな。あと熱狂してる女に引いてな。結局光ゲンジと変わらねえんだって。あと今じゃあ誰も言わねえけど、当時氷室の声っつうか唄い方が西城秀樹にソックリ言われてて。だったら秀樹の方が断然かっこよかったよ」
ーそれでもボーイは大人気でしたからね。確かに「ノーニューヨーク」なんてまず言葉の意味がわからなかったですけど、勢いがすごかったですね。
「シャワーを浴びて?コロンを叩き?で、ノーニューヨーク?おれはよく考えて思ったよ。これはシャワーを浴びる歌で、つまりノー入浴なんじゃねえかって。んなわけねえけどな」
ーんなわけねえと思います。
「んでもよ、大瀧詠一がアルバム出さなくなったのも、デジタルがダメだったからじゃねえか?ジョージルーカスがスターウォーズのエピソード1を作るまでに15年もかかったのとおんなじで。ユーミンだってよ、当時すごく楽しみにしてた久々のシングル「メトロポリスの片隅で」がまたなんかイマイチで。達郎もユーミンも、悪くねんだけど、何か足りない何か足りない、なんだ?って当時は思っててよ。1986年前後。油絵の巨匠たちがみーんなマッキントッシュで絵を描きだした、みてえな。
まぁ小田和正も山下達郎も松任谷由実も、そこからミリオン飛ばしてくんだけどな。
そんで佐野元春。CD聴いて大好きにはなってたんだけど、特にロックなんて思ってなかった。当時は元春と浜省がロックだなんて言われてたりしたけど、cafe bohemia(5thアルバム)じゃあロックのロの字もない。
そんで「Truth」、まあ今回の「Film No Damage」を何気なくビデオで見て、おれはドキドキしたんだよ。ロックンロールでスーツをビショビショにして走り回る元春、どんどん熱気を帯びていくグルーヴ。
や、あとから見るとブルーススプリングスティーンのステージを参考にしてたのはわかったけど、そんでもその熱気と言葉とグルーヴはオリジナルだからよ。伊藤銀次が当時のギターなんだけど、銀次がマイクスタンドぶん投げるところでもう、おれは昇天したんだよ。あと元春がずっと笑顔で、心底ロックンロールで楽しんでる姿に引き込まれたんだよ」
ーこう言っちゃあ失礼ですけど、今の佐野元春とは全く別人ですね。
「言ったら、4枚目のビジターズ以降はずっと試行錯誤してるよ。でもこのノーダメージの頃までは、ただただ吐き出してる。自分の中のパッションを吐き出すのが嬉しくて、笑って走り回ってる。それがおれには眩しく見えたんだよ。なんだよ!ロックってかっけえじゃんよ!って」
ー今日は小ボケもありませんね。
「おれはいつでも真面目だっての。ロックってよ、なんかカッコいいのを通り越してただのカッコつけ野郎の音楽だって思ってたんだよ。それが、この映像見てロックってカッコいいって初めて思ったんだよ。その日は本当に興奮した!」
ーやたらと興奮したんですね。
「音楽聴いて心臓バクバクするなんて思わなかったからよ。初めてだったからよそんなの。そんでその映像が去年のクリスマスに発売されたなんて、また嬉しいよな」
ー素敵なクリスマスプレゼントですね。
「まあおれは年明けてから買ったんだけどな。タワレコ行ったらAmazonで買うより1000円以上高くてよ。結局大晦日の日にAmazonで注文してだな、届くのに一週間かかったよ」
ー全く勉強してないですね。初めからAmazonにしとけば、、、
「そんな30年も前のブツ、発売日に買わなくてもいいと思ったんだけどよ、やっぱレビューとかチラ見してたら俄然欲しくなってよ。ま、タワレコに行くってのは昔から好きでな。あそこに行くととりあえず現在のミュージックシーンがわかるじゃん」
ー今回は何か収穫ありましたか?
「収穫ってアレじゃねんだけどよ、J-POPの「さ」のコーナー探しても佐野元春がねんだよな。ほんで店員に訊いてみたら「大人のJ-POP」ってコーナーにあって。そりゃねえよって思ったよ。シニアリーグみたいで」
ー現在の佐野元春のポジションがわかってしまったと。
「しかし実際30年の開きがあるからな。そりゃまぁしゃあねぇっちゃあしゃあねぇ。そんでそんな佐野元春も最近雪村いづみとトーキョーシックってアルバム作ってるけどな」
ー雪村いづみ、、、?
「江利チエミとかの世代だよ。おれもあんまり知らねえけど、70年代にはティンパンアレイとアルバム作ってるぜ。1952年から歌手だからもう60年だわな。チャックベリーと同期くらいだよ」
ーチャックベリーと同期って、もはや大人のJ-POPですらないですね。
「あとまぁこのフィルムノーダメージの最後に、ツアー会場がエンディングロールで流れるんだけどよ、ほとんどの会場がナントカ市民会館。今で言うようなでかいライブハウスなんてなかった時代で。1988年にクアトロ、パワステ、ピット、エムザがバーッと乱立して、なんとなくかっこ良くなったけどよ、当時の地方の市民会館なんてガラガラだったと思うぜ。おれもデビュー直後のブルーハーツ、山形県民会館で見たけど、1000人規模の会場に200人も入ってなかったもんな。前五列くらいで」
ーJ-POPになってやっとロックは市民権を得た感じですよね。
「それはそれでおもろくないんだけどな。そんなん、ブルーハーツとかをみんなで唄うなんてまた気持ち悪いぜ。基本がカウンターカルチャーだからよ。J-POPってのも、言ってみりゃあそんなジャンルないんだよ。勝手にメディアが括ってんだから。元春だって、普通に自分の音楽をやってたら、ある日にJ-POPなんてのがやってきて、挙句大人のJ-POPにされて、とんだ迷惑だよ。「つまらない大人にはなりたくない!」って叫んだ元春が、大人のJ-POPだもんな。尾崎とかどうなんだ?アレも大人のJ-POPなのか?」
ージャンボ尾崎は、マスターズクラスじゃないでしょうか?なんて(笑)
「ああそう」
ーでも、やたらとジャンル分けされると買う方は大変ですよね。ポストロック、オルタナティブ、グランジ、90年代とか分かれてても何も違いがわかりません。
「あと今回タワレコでなんかよくわからない最近の女の曲視聴してみたんだけどよ、イントロが鳴って唄になっていきなり「ディズニーランドに住みたいの」って始まって、うわっ!って思ってストップボタン押したよ。名前覚えてねえけど、J-POPも大変だな」
ーディズニーランド(笑)!よみうりランドならまだしも、ディズニーランド(笑)!
「そこはどっちでもいいだろ」
ーでも住むなら健康ランドですかね。って、ただのホームレスになっちゃいますか。
「風呂があるから、まぁ住むには健康ランドがいちばんいいな。ディズニーランドは酒も飲めねえし、夜なんて怖えだろ。つかそんなんどうでもいいよ。ノーダメージの話、まだ半分だぞ」
ーえ~、まだあるんですか?
「なんだよ、え~って。なんか飽きてんなとは思ったけど、あからさますぎだろ。じゃあ後編に続く、でいいよ」
ーじゃあ仕方なく後編に続きます。
「ちょ、ちょっと待、、、」
ーごきげんよう、さようなら。
