ウチの子供は一日に一回は 学校や教師、友達のことについて その日起こったことのツッコミを夕食の時に口にし

 

他人事の時は笑い 当事者である時は不服そうな顔になる。

 

 

 

 

ある時、『俺さー 今ちょっと悩みがあるんやわー』と切り出したのだけど そういう時は本当の悩みではないと心得ている。

 

 

 

『今度、生徒会の投票があるんやけどさー』

 

『ほう?』 まさか、こいつ 立候補するつもりか?

 

 

聞けば『いや、全然興味ない』とのことで であれば何か?

 

 

 

 

『投票する人が 全然入れてもイイ奴がおらんのやわ』

 

とのことだった。『なんや、そんなことか』と思うだろう。

 

 

 

『選挙ってな、別に”該当者なし”でもええんやぞ』

 

『え、そーなん⁉ じゃあそうするわ』

 

 

こいつ、そんなことで意外と真面目に考えとるのか。 

自分ならせいぜい消去法で いずれかには入れるだろう。

 

 

 

 

それにしても意外だったのは

 

 

 

この時に書いたように クラスの合唱でまともに声を出してるのはウチの子供くらいで(女子にもう一人)

それは他所のクラスを見ても似たようなものらしいので

 

 

そんな総じて覇気のない生徒たちの中から わざわざ生徒会に立候補しようとする人物がいるのか?と極めて当たり前な疑問を感じた。

 

 

 

 

それを問うと 『いや、”内申書(点)狙い”やろ』 

 

ああ、そういうのなら動くのか。 分かりやすい。

 

 

 

『それさ、内申にプラスになるのって 最初に掲げたスローガンに対しての実績とかは見られんの?』

 

『そんな訳ないやん。 とりあえず”やった”かどうかだけさ』

 

『やろな。 ”生徒会ごっこ”ってやつか』

 

 

 

たまの呼び出しに時間が勿体ないと思わなければ 損得で言えば”得”の方が大きいのかもしれない。

 

 

 

 

『で、お前はどういう奴なら入れても(投票しても)ええと思うの?』

 

『まずな、みんな許せやんのが ポスターがほとんど”絵”なんやわ。 どうしたいとかの”字”がほとんどないんやわ』

 

 

 

 

まあ、本気で学校に対して何かを改善しようだとか 問題意識のある子など極稀だろう。

それに問題意識が高く 気付きのある子であっても それと生徒会に出るかどうかは別の話だ。

 

 

『絵なしの字だけで 中身のあること書いとる人しか入れやんわ』 といった基準があるらしかった。

 

 

 

 

『お前はそういうの興味ないの?』 自分は全く興味もないのに聞いてみた。

 

『全くない。 てか、小学校の時に俺らがみんなで先生に”集団登校のヘルメットは要らん”てずっと言ってたのに全く無視されとったのに

親が何人かで言ったら すぐに無しでええことになったんやで。 結局そんなもんなんや』

 

 

 

 

 

若くしてそんな諦めの空気を感じていたので ちょっとした小話をしてみた。

 

 

『ウチのお客さんで2コ上の女の人が 中学の時に生徒会長になったんやけど なんでなったと思う?』

 

『、、、いや、分らんけど なんでなん?』

 

 

 

その方は単に生真面目なのではなく 極めて正義感が強くて”正しさ”を持ち 間違ったことも人を騙すこともやらず

それでいて明るく気遣いの出来る方なので 

 

本来、住む世界の違う水商売にご縁で身を寄せたときは 瞬く間に一位の座に就いた。

 

 

 

投票の末、中学校の生徒会長になったことで それまで坊主だった男子生徒の髪型を 長髪でも可ということに変革させた。

 

 

なぜ女子が男子の坊主を廃止に持って行ったのか?

 

 

それは、同級生の男子に 一円ほどの大きさのハゲがあることでイジられていた子がいたからで そのためだけに生徒会に出たのだ。

 

『世の中には そういう人もおるんさ』

 

 

 

 

もう一つ 子供が許せないことがあるらしかった。

 

『立候補する奴らさ 毎年全員”意見箱を設置します”とか言うとるんやわ』

 

『で、なんで毎年言っとんのに設置されんの?』

 

『先生も面倒臭いんやろ?』 

 

 

 

 

それしかないのは分かってるが 毎年無視とは露骨すぎる。

 

上がってくる意見を検討する手間はかかるだろうが それよりも”合理的かどうか”が基準で生きていない教師たちに 妥当な判断を下せるとはとても思えないので それはそれで仕方ないのかもしれない。

 

 

それでも、とりあえずやってみて 『やっぱりダメだったから元に戻します』というのでも悪くないのにと思う。

 

 

 

 

 

後日、子供がテンション高めで嬉しそうに喋ってきた。

 

『あれからさ、メッチャ完璧な奴が現れたで!』

 

『マジで⁉ 誰なん?』 ほとんどの子は知らないけど。

 

 

『M君さ』

 

『え⁉ そーなん?』 

 

 

その子は同じ小学校で 卒業式の時に”親への挨拶”で ボロボロと泣きながら自分の言葉で他の生徒の3倍以上喋り続けた 今どき極めて珍しい”ピュア”な子で

 

一度、ウチの玄関であいさつした時も どえらい礼儀正しい子だなと感じたことがあった。

 

 

 

 

なんと、家庭ではウチと同じくテレビもなく YouTubeの時間制限もキッチリと設けているそうで 

どう育てればああなるのかと興味があり 機会があれば親とも一度喋って見たいものだなと思っていたくらいなのだ。

 

 

 

M君のポスターは見事に”絵”がなく 本気で掲げる内容という”字”で埋められていたという。

世の中捨てたものではないなと思った。

 

 

 

 

それからM君は生徒会長に当選し ”意見箱の設置”を実現させたらしい。

今までダメもとで言ってみるシャレでしかなかった案件を どういう形で教師に詰め寄り 首を縦に振らせたのだろうか?

 

 

『これからの立候補する奴らは 立候補の口実が一個無くなるな』とニヤニヤしていた。

 

 

 

 

子供は学校に対し 何の期待も要望もないが(あるけど言わない) 

 

新しい生徒会長には いまだに惰性で着け続けているマスクを とりあえず撤廃させてほしいものだ。