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朝、洗濯しようと脱衣所の扉を開けると、父親が向こう側に来ていて

「うわぁっ!」

と随分な驚きよう。




足音したでしょ?

そのデカイ声にこっちがビックリするっつうの。

自分だけが驚いたみたいに被害者面しないでくれる?


同居人がいるんだから、自分が開けようとした扉を相手が向こう側から開けることもあるでしょ?

いい加減、それくらい覚えてくれ……






夕方、乾いた洗濯物を取り込んで、取り敢えず茶の間と床の間の間の欄間のような部分に、ハンガーをかけておいた。

父親は、その部屋の仕切りを平然と通った。

洗濯物がかかっていない所か、下をくぐらなければ触れずには通れないのにだ。


「洗濯したんだから触らないでよ!」

と注意してみたものの、

お決まりの言い訳。

「いや、触るつもりなかった」

という言葉だけを残して逃げて行った。




何て言い草だ……

この屁理屈でしかない言い訳は何だ?


父親は言い訳してるつもりはないのだろう。

触るつもりはなかったから、正直にそう言ったまでだ。


でも、この言い分は何かズレている。

触るつもりなんてあったら、それこそわざとではっきり悪意がある。

そうではなくて、父親は最初から洗濯物を避けるつもりがないのだ。

そんな隙間を通れば、嫌でも洗濯物に触れてしまうことをコイツはわかってない。


わからないなら、もういいのだ。

70になるジジイに今さら期待などしない。

判断能力ないんだから、黙って人の判断に従えよ。




何が触るつもりはないだ。


避ける気ないからベタベタ触ってんだろうが!






今日の昼間は30度を超える暑さで、夕方になってもあまり温度が下がっていない。

なのに、黒の長袖に黒いジャージ。


「真っ黒で暑苦しいね」

「いいんだ!」


何がいいのだ。

いいと言えば何でも通ると思ってやがる。


だったら、暑いって文句言うな。

お前は、長袖着込んでたら暑いということも覚えてないのかよ。






法事の時も、ピチピチの三つ揃いを着て、ベルトをギュウギュウ締めたまま飯を食ってたっけ。


隣で母親が、

「そんなにキツくしてたら苦しくなるから、脱いだら?」

と言った。


他の男連中は皆ワイシャツになって、首元のボタンをゆるめて食事をしている。


なのに、父親はお決まりの「いや、い~い」という台詞と共に、ガッチリ着込んだまま食い始めた。




そして、3分後、何事もなかったかのように苦しいとわめきだした。


「脱げばいいじゃん」

もういい加減にしろよと思った。

すると、

「いや、いいんだ!」


まだ言うか……

何がいいの?もう、訳わからんし。






毎日こんなです。
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自閉症のニキ・リンコ氏は、「○○っていいなぁ」ぐらいの空想を、現実にしないと嘘つきになると思っていたらしい。




嘘は良くないと頑なに信じていた彼女が、ある時、小説家なら嘘をついてもいいということを知る。

作り話を書くのが仕事だからと、母親に教わったのだ。


そもそもこういう発想が自閉症やアスペルガー特有のもので、何ともユニークではあるのだが……




おかげで彼女は、「○○っていいなぁ」と思ったら小説にすればいいと思いつく。

そうすれば、嘘つきだと責められることがないと考えたのだ。


しかし、今度は小説として仕上げないと、自分は嘘つきだとかぐうたらだと責めてしまっていた。


思わず笑ってしまうのだが、本人は至って真剣だ。




そもそも「○○っていいなぁ」と、誰かに言ったわけでも何でもない。

自分の心の中で呟いただけである。

いいなぁと思った何かを実行する計画さえないのに、責任も何もない。


本当がないのに嘘もないもんだ。






とはいえ、かくいう俺も実は嘘を恐れる傾向は少しある。


一度感じたものを、考えたものを、自分の中で変更するのが怖い。

それは、元からの性質なのか環境でそうなったのか定かではないが、自分を責めることから解放されたいのは確かだ。






そして恐らく、この空想と計画、実行、約束の混同は、母親が顕著だ。


母親は、どう感じているのかを聞いてもほとんど答えない。

自分の感じていることを話すのだから何を言ってもいいのに、正答を探るようにものすごく考える。

もしくは、感情を言葉にして伝えることに不慣れなので、ぱっと言葉が出てこない。


俺と同等かそれ以上のボキャブラリーを持っているのにだ。




さらに、厳密になりすぎるので、少しずつ話してだんだん正確になればいいというのがなく、一発で100点満点を出そうとしているきらいがある。

50点しか出す能力がないのに、天才のように一発で、それも一人の力で100点を狙っているのだ。


無茶でしょ。






で、そんな母親の感覚は、自分の中だけに止まらないから厄介。


ぼんやり思ったことでも、世界に誓いを立てたように感じる母親は、俺の言葉も同じように拾うんだよね。




「だから、ちょっと感じたことを口にしただけじゃん」


定型から見れば、約束でも誓いでも、はたまた計画の発表でもないことは歴然としてるのだ。

しかも、気が変わったとして何がいけないの?




しかし、母親には区別がつかない。


「あんたが前にそう言ったんだよ?」

そうやって平気で人を責める。


だから……、別に「○○します」って約束した訳じゃないじゃん……




おかしいのが、俺が口走った内容をしようがしまいが、母親には何の関係もない話でこうなるのだ。

そんなところに注意を払う暇があるなら、もっと大事なところを見ておけよって思うくらい、どうでもいい話。






中学生くらいの時、俺は「もう少し背伸びたらなぁ」ということを呟いた。

(当時は150cm前後)


また同時期に、「目が良ければやっぱり楽だよなぁ」なんてことを言った。

(当時0.3くらい)


確かに言った。




それを聞いた母親からの台詞は、

「こないだは背が伸びたらなんて言ってたのに、今度は目が良くなったらなんて……」


その後、いい加減だと呆れられたのか、嘘つきだと説教されたかは定かではない。

が、なぜか身長と視力の話を混同され、ただの戯言を努力目標のように言われた。




頑張ったって身長も視力も変わんねぇだろっつうの!


それこそ、意味がわからんよ。

もう、わざわざイチャモンつけるために絡んでるように感じる。






小柄なのが、父親がチビだからと責めた覚えもないし、眼鏡やコンタクトを催促したことだって一度もない。


文句を言うなら自分の母親に言えばいいだろ。

俺が小さいのは父親のせいとか適当なこと言ってるのは、ババア(母方の祖母)の方だぜ。


ババアもさ、遺伝を疑うならまず自分が原因だと思えよ。

自分は140cmそこそこしかないのに、よくそんなこと言えるよな。






視力だって、何だかおかしなことを言ってたな。


「○○(弟)は私に似てるから心配してたけど、あんたは何でだろうね」

俺の視力低下は納得行かないらしい。


俺はあんたの子じゃないのかよ。

似てたらいけないわけ?


そもそも遺伝病とかじゃないし……




その後も、レンズが合わなくなってもそうそう新しくしてくれる訳でもなく、なぜかしょっちゅう失くす父親だけは、3年に一遍は買い替えてた。

それも必要のない高級フレームで7~8万かけて。




こないだ、何でなの?って聞いたら、車の運転とかあって困るでしょとか何とか。


俺だって困ってたけど?

黒板見えねぇし、チャリ一つ乗れないんですけど?




コンタクトは、大学でサッカーをやるようになって、やっと母親に頼むことが出来た。

ルール上、眼鏡では絶対にプレー出来ないので、そう話したら渋々承知した。


俺の言うことは信じないが、それが規則だとか言うと何でも従うのが、また感じが悪い。




それまでも、俺のクラスメイトがコンタクトにした話を、母親から散々聞かされたっけ。

高いしなくすと大変だが、高校生にもなればやっぱりコンタクトが便利だとか何とか……

自分の子供も同じ立場だということを想像出来ないって、素晴らしい……


何も考えてないんだろうけど、そんな何も考えてない話すんなよ。






事ある毎に嘘つき呼ばわりする母親のせいで、俺は自分の感情を出せなくなった。


感じていることなんていつも不確かだし、たとえ確信が持ててもそれを正確に言葉に出来るとは限らない。

相手の受け取り方もある。

常に動いているのが感情だろう。


なのに母親は、絶対不変の感情というものがそこにあると思っているようだった。






もう嘘つきで結構です。


あなたの言う俺の本当の感情は、この世には存在しないですから。


世界に誓いを立てられるような不変の感情は、俺にはありません。
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カムアウトという作業で書いたように、カムアウトは言って終わりじゃなくて、そこから新しい関係を築くことだ。

そしてそれは、性同一性障害の当事者が色々教えたり気持ちを訴えたりするだけじゃない。

カムアウトされた側も、カムアウトされた混乱とか、非当事者から思うことを伝えることが大事だと思う。


要するに、俺たちが自分の悩みを聞いてもらうだけじゃなく、カムアウトによって生じた相手の悩みも共有することが理解だということ。

一緒に距離をつめて行こうとするのが、いい関係なんだと思う。






その前の性同一性障害カムアウトのリスクと利点では、俺はほとんどカムアウトしないという話を書いた。


これは特に、初対面の時の話ね。

相手がどんな人かわからないのにセクシュアリティを明かすのは、今の社会ではまだリスクがある。

それから、興味がないとか性同一性障害を知らない人に『性同一性障害』という言葉を使って説明しても、あまり意味がないから。


「よく女に間違われるんです」「男性ホルモン少ないもんで…」とか言っておく方がいいような気もする。


とにかく、最初は男で通してしまった方が楽だ。






でも、俺が絶対にカムアウトする場面がある。


それは、パートナーを持つとき。


真剣に付き合うことを考えたら、その時点で必ず言う。

理由は、相手に対する誠意とかそんな格好いいものじゃない。


単に怖いから。




例えば、恋人同士と疑わない関係になってから、相手が自分の性別もしくは体を疑い出すとする。

そこまで来てカムアウトなんて、俺には怖くて出来ない。


カムアウトして、

もし、相手が男の体じゃなければ嫌だと言ったら?

結婚を強く望んでいたら?

どうしても俺との子供が欲しいと思っていたら?


俺の努力でどうにも出来ないことなのに、今更そんなことで別れるなんてショックがデカ過ぎる。




それは、体や戸籍を理由に別れようとする相手を責めたいんじゃない。

寧ろ、自然な感情だと思う。


そうじゃなくて、もしそれらが致命的な要因なら、相手にとっても時間を無駄にする可能性があると思うんだ。


どうしても男の体の相手じゃないと体の関係は持てないとか。

形じゃないけど、籍を入れて結婚することが出来ないことに不安を拭えないとか。

親が賛成するわけがないし、やっぱり祝福されるパートナーを持ちたいとか。

好きな人との子供が欲しい、子供は諦めきれないとか。




俺たちだって受け入れられずに来たものを、相手がいきなり全部受け入れられるはずもない。

だったら、友人関係でいるうちに、どうにもならない現実についても小出しにして、お互いのジェンダー観などを確かめておくのがいいと考える。


俺は男として見てほしいけれど、女の過去もこの体も含めて俺だから、それをある程度受けとめてくれないとパートナーには出来ない。

それが厳しい理想だとしても、ここは譲れないんだよね。

妥協して誰かといる方が疲れるので、一人が長くなるのも仕方ないと思ってる。




相手にだって選ぶ権利はあるわけだし、それなら、ないものをあるかのように見せるのは俺には出来ないんだよね。

体だって戸籍だっていずれバレるよ。


俺は、FtMであることは本当は秘密でも何でもないと思ってる。

だから、必死にそれを隠すなんて、結局耐えられないと思うんだよね。

一番大事な人に、一番大事なことを隠してるってやっぱり無理だ。






中には、普通の男だってことにして付き合ってるFtMがいるみたいだけど、どうしてるんだろうって思う。


しんどくないのかな。

怖くないのかな。


楽しくH出来ないでしょ?(笑)




変な話、裸になるのは平気なんだよね(苦笑)。


Hの時は別物って言うか、こんな時まで体を気にしたくないというか。

あんまり否定されたことがないからかもしれないけど、裸になれない相手とはそういう関係にならない感じだよ。


脱げないとか、道具使ってという話も聞くけど、俺にとって大事なのはそこじゃなかったりする。

もともと、挿入とかイクことにこだわらないこともあって、俺はお互いに肌で感じることを大事にしたいんだよね。




これは、さほど性欲の強くないだろう俺だから可能なのかもしれない。

でも、本当に好きなら、形や肉体的快楽より精神的満足の方が上回ることはあるんじゃないのかな。






本当の自分で勝負しようとか綺麗事言うのは簡単。

だけど、実際はそのどうしようもないFtMという事実の為に、悲しい思いをすることも結構ある。

まだまだ、FtMであることが問題みたいに言う人がいるし、FtMもその通りだと諦めてしまうことがあるよね。




ただ、間違って欲しくないのは、FtMじゃダメだと言うのは好みの問題だということ。


お金や容姿や性格、職業などと同じで、相手に求める条件の一つだと思う。

子供が出来ないのはFtMを選んだ女性の問題でもあって、FtMが悪いわけではない。

子供が欲しいなら子供を作れる相手を選ぶまでだろう。






俺たちは出来ないことも多い人生だけど、それを受け入れて生きるしかないと思う。


それを少しは共有してくれるのが、真のパートナーなんじゃないのかな。