初めての方は注意事項に目を通してからお読みください。

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FtM嫡出子問題① FtMの男としての権利
FtM嫡出子問題② 嫡出子とは何か
FtM嫡出子問題③ 非嫡出子と養子縁組


(※2013/3/29 一部修正)


拙いながら前回二回で、FtMの嫡出子に関する法的な部分を説明させてもらった。

今日は、これまで前田さんにメールで質問させて頂いた中の、訴えを起こすきっかけとなった部分を紹介しようと思う。


なお、なるべく修正せずそのまま載せることを優先した。

また、前田さん本人から指摘があった場合には直ちに修正することとする。




敬省略

泰斗:

まず初めに、子供を持とうと思った経緯から聞かせてもらえたらと思います。
前田さん自身は戸籍を女性から男性に変えたFtMですよね?奥様は一般の女性ですか?


前田:

僕はFTMです。妻は一般の女性です。
僕が子供が好きというのもあり、あと、僕が先に死んでしまったとき、妻を守ってくれるのは親でもなく兄弟でもなく、やっぱり我が子だと思います。




泰斗:

立ち入ったことを聞くようですが、何か持病とかお持ちなんですか?
今の日本だと老後の保障はないので、家族を持って支え合って行きたい気持ちは誰でも同じですよね。


前田:

持病はありませんが、健康な体の人と比べると、やはり色々いじってる体なので、先を考えると・・・ということです。




泰斗:

僕が一番知りたいのは、嫡出子として認められない可能性がある中で、なぜ子供を作ることを選択したのかです。

「腹を痛めて産んだ女性が母親」という判断を下すような社会です。
別に性同一性障害に特化した問題ではなく、頭が固いというか法の整備が追いついてない現状です。
その中で僕らが子供を持つことはかなりリスクがあると思ったもので……。


前田:

子供をつくることに関して、こんな問題がおこると思っていませんでした。
普通に結婚して夫婦になってるんだからなんの問題もないと思っていました。

だから、普通の男女と同じように子供をつくりたいと思う気持ちは当たり前の感情だと思っています。




泰斗:

役所は書類の不備などをチェックするだけで、それ以上詮索する権限はないと聞きました。

「婚姻関係にある夫婦の子供は嫡出子として推定される」
これに該当するかどうかを調べればいいだけです。

出生届を出した際、受理できないと言われたんですか?
それとも保留とかそういうことだったんでしょうか?
差し支えなければ、具体的なやりとりを教えてもらえればと思います。


前田:

市役所は、僕の場合窓口の職員が僕のことを知っていたため、まずそこでひっかかり、法務局に連絡されてしまいました。
そして、受理できないと言われ押し問答しましたが、ダメでした。

性同一性障害者は戸籍に記載があるから、一般の男女の夫婦とは同じ扱いをせず、差別するようです。

僕たちはちゃんと結婚して夫婦になってからの子供なのに・・・。




泰斗:

出生届を出した役所、担当者は、戸籍の性別変更や名前の変更と同じ人だったのでしょうか?
そのため、相手が前田さんを性別変更した人と認識していたということですか?


前田:

僕は田舎で小さな村です。後輩や先輩やほんと知ってる人ばかりみたいなとこです。
そんな中僕のような人は僕だけで、へんな話みんな知ってるくらいの感じなので、名前や性別変更をしたのを知っています。




泰斗:

受理しない理由は何だったんですか?
元の戸籍性は問われないと思うんですが、そこを指摘されたんでしょうか?


前田:

受理できない理由は性別の変更をしたのがあきらかだからです。
法務局は生物学的に無理だと言っています。
しかし、生物学的などどこにも記載されていません。民法772条は血縁は関係ないのに・・・。
一般の男女はAID(非配偶者間人工受精)をしたということがわからないから受理され、GIDはわかるからと言う差別です。




泰斗:

役所でのやりとりでは、性同一性障害だからとか、生物学的に男性ではないからとか、何か言われましたか?


前田:

役所はどう対応していいかわからないみたいで、法務局に連絡し、言われたことを言ってきただけです。
こっちが何を言っても、ロボットのように受理できないやら、事例がないやらと言うばかりでした。




泰斗:

それに対し前田さんはどのように答えましたか?
いくらか譲歩してもらえたことや、受理できなくて申し訳ないと理解してくれたことはありましたか?


前田:

僕たちも結婚してるから、「嫡出子になるやんか」とか「差別するんか?嫡出子の意味にあてはまるやんか!」とか色々言っても、
結局は、権限のない人だからどうしようもできない感じで、僕が説教してる感じ、役所の人間が怒られてる感じになっていました。




泰斗:

対応したのは一人ですか?
少しでも理解してくれた人はいましたか?


前田:

対応した人も、最終的には6人くらいになっていましたかねぇ。窓口の人や係長や、課長や・・・。

理解というより、私らにはどうしようもできないから・・・みたいな感じですかね。




続き⇒ FtM嫡出子問題⑤ 前田さんに質問 嫡出子の訴え
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FtM嫡出子問題① FtMの男としての権利
FtM嫡出子問題② 嫡出子とは何か


(※2013/3/29 一部修正)




前回、嫡出子について説明したが、今日は非嫡出子と養子について整理してみようと思う。

嫡出子と非嫡出子、それから養子縁組した場合、具体的に何がどう違うのか。

まずは、前田さんが問題になった出生届を出す際の違いから見ていこうと思う。

他にも住所や生年月日などの記載事項があるが、ここでは嫡出子と非嫡出子で異なる部分のみ抜粋する。




A(男)とB(女)の間に子C(男)が生まれ、Aが届け出た場合の出生届。


【嫡出子となる場合】

氏名:Cの氏名
父:Aの氏名
母:Bの氏名
続柄:長男
「嫡出子」にチェック
届出人:父


【非嫡出子となる場合】

氏名:Cの氏名
父:(空欄)
母:Bの氏名
続柄:長男
「嫡出でない子」にチェック
届出人:同居者


非嫡出子の場合は父の欄を空欄とし、「嫡出でない子」という方をチェックする。

さらにAはこの時点で父ではないので、届出人は「同居者」としなければならない。

以前は続柄も長男、二男ではなく「男」だったが、嫡出子と同様に改正された。


確かに、この書類ではAを父とは認めていないので、人によっては違和感があるかもしれない。


この他、書類上の違い以外に何が異なるのかと言えば、相続だけと言ってもいいと思う。

相続分が非嫡出子は嫡出子の半分になるのだが、非嫡出子だけなら子供の間(兄弟間)で差は出ない。

それも、遺言や養子縁組でカバーできるので、残る問題は心理的な部分なのだと思う。




AがFtMの場合、これまではいったん非嫡出子で届け出て、後に特別養子縁組をしている例がある。

今回の前田さんに対しても、法務省は特別養子縁組を勧めているのだが、では養子縁組した場合はどうなるのか。






養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組がある。


【普通養子縁組の主な条件】

◆養親は養子より年上で成人している
◆養子が15歳未満なら法定代理人が必要
◆養親・養子に配偶者がいる場合は同意が必要
◆養子は実の両親とも親子関係が継続
◆役所に届出するだけで可


【特別養子縁組の主な条件】

★養親は結婚していて必ず二人とも養親となる
★養親の一方は25歳以上、もう一方は20歳以上
★養子は6歳未満
★養子は実の両親との親子関係が終了
★家裁の審判による許可が必要




子連れで再婚する場合は、基本的に普通養子縁組である。

また、養子が成人している場合は、後の相続を考えて縁組する例が多いだろう。

成人同士なら署名と捺印だけで縁組できるので、それを悪用して事件に発展する例も見受けられる。

実親とも関係は続くので、親が増える形になる。




それに対し特別養子縁組は、虐待などから子供を守るために出来た制度である。

実親に代わって親になるものなので、養親に相応しいかの審判を受け、子供の物心がつかないうちに行うことになっている。


養子縁組すれば、相続などで嫡出子と同じ権利が得られる。

とりわけ特別養子の場合は、戸籍の記載なども嫡出子とほぼ同じになる。






次に、嫡出子と養子に関わる戸籍の記載を抜粋して例示する。




A(男)とB(女)の間に子C(男)が生まれ、Aが届け出た場合のCの戸籍。


【嫡出子の場合】

氏名:Cの氏名
父:Aの氏名
母:Bの氏名
続柄:長男
届出人:父


【非嫡出子の場合】

氏名:Cの氏名
父:(空欄)
母:Bの氏名
続柄:長男
届出人:同居人




嫡出子CがD(男)とE(女)の養子になった場合。


【普通養子の場合】

氏名:Cの氏名
父:Aの氏名
母:Bの氏名
続柄:長男
養父:Dの氏名
養母:Eの氏名
続柄:養子


【特別養子の場合】

氏名:Cの氏名
父:Dの氏名
母:Eの氏名
続柄:長男
(※裁判確定による入籍と記載あり)




特別養子縁組の場合は、「裁判確定による入籍」という記載以外は全て嫡出子と同じになる。

この記載を残すのは、「子の出自を知る権利」を確保する為と言われている。




では、AがFtMで子Cが非嫡出子となった後に特別養子縁組をした場合はどうか。


氏名:Cの氏名
父:Aの氏名
母:Bの氏名
続柄:長男
(※裁判確定による入籍と記載あり)


恐らくこうなると思われる。

一つ特殊な点があるとすれば、Bは実母でありながら養母になるというところか。

これは先に示した通り、特別養子は夫婦そろって養親となるもので、かつ養子縁組した場合には実親との関係が切れることによるものだろう。

不自然ではあるが制度上やむを得ない。


それよりも、性同一性障害にも特別養子縁組が認められるようになったということを、社会の理解が進んだ証として受け止めてはどうだろうか。




また、住民票の続柄も、嫡出子、養子、非嫡出子、全て共通で「子」である。

以前は、嫡出子は「長男」「二女」など、養子は「養子」、非嫡出子は「子」だったのが改正された。


個人的には、戸籍の方も男女の区別や長幼なしに「子」になってくれればと思う。






このように嫡出・非嫡出の区別は残るものの、その差別的扱いについては徐々に変わりつつある。


一昔前は進学や就職の際に戸籍謄本の提出まで求められ、不利になるということもあったようだが、現在ではほとんど見られない。

また、他人が戸籍を取り寄せるにも制限が厳しくなり、本人以外が出自を知ることは難しくなっている。




非嫡出子というと、今でも愛人の子などのイメージで差別する人はいるのかもしれない。

個人的には、親の立場で子を差別する感覚がわからないということもあり、自分なら非嫡出子を受け入れて特別養子縁組の申請をするだろうと思う。






ただ、前田さんにとっては、嫡出子と養子が同等かどうかというような問題ではないのだと思う。

彼は、「同じAID男性でありながら、FtMの子だけが非嫡出子とされることは差別だ」と言っている。


つまり、子の立場や実質的な家族のあり方に違いがあるかどうかではないのだろう。

自分が他の男性と同じ父親であること、同じ男であることを訴える闘いなのかもしれない。




(法に関することなど、誤りがあればメッセージでお願いします。訂正させて頂きます。)


続き⇒ FtM嫡出子問題④ 前田さんに質問 出生届を出すまで
初めての方は注意事項に目を通してからお読みください。

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FtM嫡出子問題① FtMの男としての権利
からの続きです。


(※2013/3/29 一部修正)




実は今回、この問題について書きたいと思ってから、前田良さん自身にメールでお話させてもらった。

不快に思われることを承知の上で、気になったことはかなり率直に聞いた。

加えて法律や医療、それに携わる当事者の意見などを、頭がこんがらかりながら調べさせてもらった。

結婚していると、「実際は誰の子かは問われず、その夫婦の子に出来る」というくらいの認識はあったが、改めて条文などを確認した次第である。

そんな私の拙い説明ではあるが、このブログが理解の足しになってくれればと思う。






今回の問題を知ってから、FtM(体は女性だが性自認は男性の性同一性障害)のブログで署名を募る記事をいくつか目にした。

そこで、自分も同じFtMとして協力できることがあるなら何かしたい思いでいた。

だが、正直、積極的に応援するには戸惑いも生まれてきた。


というのは、賛同するFtMも「FtMだけ父親になれないことはおかしい」と訴えているものの、そもそも「嫡出子」の説明からして不足している感じがしたからだ。

嫡出子が何かわからなければ、それがおかしなことなのか、FtMに対する差別と言えるのかもわからないだろう。

自分では説明が難しければ、リンクを貼るという方法もある。


私としては、どう協力するべきことなのか、FtMの自分や性同一性障害(GID)の今後にどう影響するのか、もう少し考えたいと思った。




また、今回の問題に際して、前田さんは「家族の会」というホームページを立ち上げている。

どれくらいの人が、このサイトを見ているだろうか。


日記は毎日更新されている。

前田さん家族の子供への愛情がとても温かく綴られているし、嫡出子とされないことの怒りも伝わってくる。

仕事や子育ての間に裁判の準備をし、忙しそうに毎日を過ごしていることも見て取れる。


だが、嫡出子問題のページは、医療や法律の知識のない私には、このホームページだけで問題点を理解することは難しかった。

特別養子縁組をした場合との違いなどを書いてもらえると、有り難いと感じた。


GID用語集も拝見したが、当事者以外には中々伝わりにくい印象である。

GID当事者にとって自分のセクシュアリティというのは、これがデフォルトなので非当事者に違いを説明するのは意外と難しい。

だから、その苦労はわかるのだが、GIDを理解する最低限の情報は書いてほしいと思った。


前田さんは、この問題を「GID差別」と捉えているのだから、そこは重要だと思う。


前田さんに賛同している人も、同じFtMだからという理由で署名や寄付をするのでは、ただの同情票ではないだろうか。

同じFtMならなおのこと、彼の訴えに反対する意見に、論理的に立ち向かってほしいと思う。






ではまず初めに、嫡出子(ちゃくしゅつし)とは何か?

嫡出とは「正統な」という意味があるので、最近では婚内子(こんないし)と言うようだ。


民法772条1項に「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」とある。


簡単に言うと、夫婦の間に生まれた子は「嫡出子」とするということである。

事実婚など法的な夫婦ではない親の子は、非嫡出子【婚外子(こんがいし)】となる。




妻が子の母親であることは産んだことによって判断(出生証明書を提示)出来るが、夫が子の父親であると証明することは難しいので、推定としている。

だが、これはDNA鑑定が出来なかった時代の法律がそのままになっており、以前から問題となっている。

母親は出産、父親は夫という立場からの推定で親子関係を規定していて、遺伝的な繋がりは求められない。

よって、代理母出産、卵子提供、精子提供などの生殖医療を利用して生まれた子については想定外で、今もそのことが盛り込まれていない状況だ。






前田さんが差別だと訴えている理由は、民法772条1項の「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」にある。

自分達は法的に認められた夫婦であり、その夫婦の間に生まれた子なのだから嫡出子であるという主張だ。


民法772条は父親に遺伝的な繋がりを求めていないので、父親の生殖能力も問われない。

だから、AIDを利用した男性なら子を嫡出子とすることが出来ている。


前田さんは、「同じAIDを利用した男性なのだから、同じ扱いにしてほしい」と言っている。

それは、もし両者とも非嫡出子になるとしても受け入れるという意味だ。


「生来的男女の夫婦もAIDをして非嫡になるのであれば、ぼくはそれは平等だと思います。

僕は男性です。

だから同じ扱いをうけたいだけなんです。

生来的男女の夫婦がAIDをされて嫡出子なら、僕達夫婦も同じだし、非嫡出子になるなら僕達もそうなるし・・・」


AID男性もFtMの前田さんも、今は戸籍上は男性で、ともにAIDを利用して父親という立場になった人である。

では、なぜ前田さんは却下されたのか。

それは、父親としての推定が及ばないというのが理由だ。




前田さんのようなFtMは、性別を変更したとする記載が戸籍に残されている。

性同一性障害者特例法によって性別変更した場合、「性別変更」などの文字は一切ないが、そのことを示す一文が記載される。

FtMなら、女性の戸籍が抹消されて男性の戸籍が作られるのではなく、飽くまでも女性から男性に性別変更した人になる。

戸籍は「家」の構成員やその出入りを記す履歴なので、ある意味当然かもしれない。


つまり、FtMは生物学的に男性ではないことが戸籍上も明らかである。

よって、精子は作れないという証拠があり、父親と推定できる材料がないというわけだ。




一般男性の場合、たとえ不妊症と診断されても父親になる可能性は0ではないわけで、100%父親ではないと断定できるわけではない。

さらに、不妊の事実は戸籍からはわからないので、父親としない理由がない。


一方は生殖能力がないことが記されていて、一方はその記載がない。

それがこの差別を生んでいる元だろう。


確かに民法772条は、父子の血縁や父親の生殖能力には言及していない。

しかし、FtMには血縁が100%否定される根拠が記されている以上、無視出来ないということだと思う。




同じ男性、同じAIDなのだからという前田さんの訴えは、FtMとして心情的にはわかる。

一方が認められ一方が認められないのでは、確かに不公平だ。


だが、AIDの一般男性は、国に認められているわけではないと思う。

現行法では、国がAIDかどうかを調べる術がないために、見過ごさざるを得ない状況ということではないのか。


もちろん、DNA鑑定が出来る時代になっても民法772条の推定頼みでは、問題もある。

だが、ならばDNA鑑定で明らかにすればいいかというと、そう単純な問題でもないようなのだ。

それらの問題についての詳しい話は次回以降に綴ることとするが、非常にデリケートな問題である。




続き⇒ FtM嫡出子問題③ 非嫡出子と養子縁組