ロッケンロール!
(テイクオフするときに俺が発する呪文。ちょっと照れてるので小声。)
しばらくまっすぐ進み右へ体重移動する。
機体は右方向の尾根を目指し滑空する。
ピッ…ピッ…ピッピッピッ…。
バリオから上昇を知らせる電子音が鳴る。
バリオメータ(昇降計)。体感だけではわからない機体の昇降を数値、目盛り、音で知らせる。
今ではGPS機能やその他モロモロついてるのが普通。
当時、トオルが使用してた同型。今見たらヤフオクで250円スタートしてた。
ピッピッピッピピピィィィー。
グンッと機体と体が持ち上げられる。
(うおっ!きたぁー。とりあえず回せ。)
リフトの幅は大きく、俺のつたない旋回でもコアを捉えることができた。
この時テイクオフから200mのゲイン。ランディング(着陸場)から約700m上空という事になる。
(やった!初めてこんなに高度獲得できたわ。見てるかトオルー。ウッヒョー!ロッケンロール!)
まだ上昇は続く。700m、800m、900m…。1100mまで上昇した。
(…すげー。海見えるわ。)
更クサ山から一番近い海岸線まで直線で約20キロ。眼下と言っていいほど近く感じる。
ちょっとめんどくさい話になるが、グライダーの性能を評価する材料として滑空比と言うものがある。簡単に言えばどのくらい遠くに滑空できるか。良く飛ぶかってことだ。
例えばタイメイケンのグライダーの滑空比を10:1とする。
10:1の1を今いる高度1100mとし10倍する。
すると11000:1100となり、今いる高度1100mから理論上は11㎞先へ滑空することが可能。
上記の理屈なら20:1の滑空比のグライダーなら海岸にたどり着けるということになる。
あくまで気象条件等は加味しない数字の上の話な。
俺の機体は初級機でよくて多分6:1。そのまま海岸線に向かうと理論上は山にツッコみ、ヨーダらにアサヒスーパードライをおごらなくてはいけなくなる。(ビールで済めばって話もあるが)
山にツッコむ(山沈)のペナ詳細は、その11参照よろしく。
https://ameblo.jp/ftft2323/entry-12673055156.html?frm=theme
(ひょっとして…行けちゃうんじゃねーのかコレ!)
時として素人と言うものほど怖いもの知らずはない。
無知とは恐ろしい。
飛んだら最終的には降りなければいけない。
そこをまず確保しなければ安全には楽しめない。
先にテイクオフしたヨーダらのコースを辿るとすれば、そのコース上は10㎞までは比較的広い田んぼが在りおそらく安全に降りられる。
しかし、そこを超えると30㎞先に行くまでは経験者でも難しいランディングを強いられる。
(いける!チャンスだ!オッサンらに一泡吹かしたるわ!)
この時点で俺の更クサ山からの飛行は10本足らず。
高高度飛行を経験してから2ヶ月足らず。向かう先の情報はほぼ未知。
俺はいま生きている。
その20へつづく。