(よっしゃー!行ったれ!)
たぶん滑空比6:1の頼りない初級機を駆る勘違いした初心者は行ってしまう。
機首をヨーダらが辿ったと思われる方向へ向け走り出した。
走っている道中もバリオからは上昇を示す電子音が鳴る。
高度はすでに1250mに達していた。
(余裕ぅー。)テンパってもサーマルソアリングを経験した口臭岳で変な度胸が付いたのか、ぱんぱんのエンドルフィンで脳が逝ってしまったのか不思議と落ち着いている。
ガッ…おいっ!シグマ!行く気か!おいっヨーダさん捕れる?(受信できる?)シグマが走りやがったぁ。
(なんか言ってるけどシカトしとけ。今怒られるんも後怒られるのもいっしょ。)
無線からはヨーダかタイメイケンがフガフガ言ってるのが聴こえるがフルシカトをキメる。
(大したことないわ。結果出せばいいのよ。ウヒョー)
いつものランディング場からは3キロ以上は離れている。この時点でそこに帰るには向かい風の中進むこととなり容易には辿り着けない。
賽は投げられた。最早いつもの安全に降りられる場所へ引き返す事は出来なくなっていたのだ。
ピッ…
ピュィィィィー。
うおっ!強烈なシンクが機体を堕とす!
身体に悪寒が走りフリーフォールで経験するあの「タマヒュン」が襲う!
上昇気流がある周りは下降気流(シンク)が存在する。
また、上がる力が強ければそれに反比例し強く下げる力となる。
このシンク帯を素早く抜けることがより良いソアリングに肝要だが、それは機体の性能やフライヤーのスキルに大きく影響する。俺の初級機のスピードは遅い。それだけシンク帯に留まる時間が長くなり、大きな高度ロスを生む。事実1250mあった高度は1100m程になっていた。
ピュィィィィー。
(くそっ!いつまでも落ちやがる。やべーぞ。)
コントロールバーを引き気味にスピードを上げる。機首は更に下を向きスピードは上がるが下降率も上がっていく。
高度はどんどん下がっていく。(怖えー。よし引き返そう、怖くてしょうがないわ。)
はっ!あれ、あそこ?えらい遠いやん!ダメだ!ここまで来たら引き返せない。降りる所を探せ!
血眼で探す。降りる所もそれなりの条件が必要。地上の風向きを知る手がかりはどれだ?
障害物がなく最終アプローチにはある程度の直線がいる。
どこだ!条件に見合った場所は。
その21につづく。