星の輝き、月の光 -32ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

事務所の廊下をシヌと2人で歩く。俺が先頭で数歩後にシヌが続く。

誰にも邪魔されず2人だけで話がしたいからと、適当に空いている部屋へ入った。




小さな会議室は長机がロの字状に並べてあり、20脚ほどの椅子が置いてある。ドアを閉めると電気はつけず、シヌは閉めてあったブラインドを開け眩しそうに外を見た。


「話って?」


シヌは俺の方を振り向かず、射し込む光を手で遮りながら言葉だけを俺に向けた。


何をどこから話そうか・・・

廊下でシヌと目が合った瞬間、きちんと話をしようと思ったが、どう話すかまでは考えてなかった。だがどこから話しても結局は一緒だ。


「俺はミニョのことが好きだ」


俺はストレートに告げた。


「知ってる。それとカフェに通ってたことも、店長を病院に連れてったことも、この間・・・ミニョを泊めたことも」


俺は眉をピクリと動かした。

振り向いたシヌは光を背負っているせいで顔に影が差し、その表情は読めない。だが声は普段のシヌと変わらないように聞こえた。


「ミニョに聞いたのか」


「いいや、店長からだ。俺、店長とは仲がいいんだ。忙しくてあそこに行けなくなってから時々電話でミニョの様子を聞いてた。見かけない男が毎日のように来ていると教えてくれたよ。どうやらミニョの知り合いらしいって。でも撮影で来た男と同一人物だとは知らなかったみたいだけど」


なるほど、シヌは俺の行動を全部知ってたってことか。


「合宿所に泊めたってのは?」


「ミニョは店長を病院まで連れてって、心配だからずっとそこにいたって俺に言ったんだ。でも店長はミニョはテギョンと一緒に帰ったって言ってた。つまりミニョは俺にウソをついたことになる。どうしてそんなウソをついたのかって考えたら、俺の頭は”ひと晩中テギョンと一緒にいたからだ”って答えを出した」


カツコツという靴音とともに窓際の光のもとからシヌが近づいてくる。光から遠ざかることによって表情が徐々に見えるようになったが、そこにはいつも通り、微かに笑みを浮かべているシヌの顔があった。


「案外冷静fだな、もし逆の立場なら俺はきっと今頃シヌの胸ぐらを掴んでる」


「冷静?これでも俺は怒ってるんだけど。テギョンがそう言うなら、期待に応えようか?」


スッと真顔になると、シヌは一気に間合いを詰め、俺のシャツの胸ぐらを掴んだ。

ギラリと光る目が俺を射抜く。


「ずいぶん勝手な男だな。冷たく突き放しておきながら、今度は好きだからってつきまとって、いつの間にか寝取るなんて。最低だな、どんな言葉でミニョを騙したんだ?」


「別れたのは確かに俺の勝手が招いた結果だ。だが勘違いするな、寝てはいない。部屋を提供しただけだ」


「ミニョのことが好きなんだろ。ひと晩一緒にいて何もしなかったなんて信じられると思うか?」


「どう思われようがそれが事実だ。でも・・・今は後悔してる。どうして抱かなかったのかと」


俺はシヌを睨むとシャツを掴んでいる手を引きはがした。

至近距離での睨み合いがしばらく続く。


「仕事場におしかけて今度は病院にまで。ミニョは迷惑してるんだ、避けられてるのが判らないのか。ミニョは俺とつき合ってる。俺のことが好きなんだ」


「それでも俺は・・・ミニョが好きだ」


ミニョが誰を好きでもこの気持ちは変わらない。


俺がはっきりとそう言うと、衝突していた視線がシヌによって外された。俯き加減になったシヌの口の両端が静かに上がる。

笑っているのか、わずかに肩が揺れていた。


「それでも好き・・・か。無様だな、ミニョは俺のものなのに。テギョンの付け入る隙はない、だから・・・俺の勝ち、だ」


くすくすと笑いながら俺に向けた顔は、優越感にあふれて見えた。





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交通量が少なく車を走らせていてもまったく信号機に出会わないような田舎の道沿いに、ポツンと建つ1軒のカフェ。客のほとんどは近所の住民で、しかも年寄りが圧倒的に多いその店に俺が通うようになってどれくらい経つだろうか。

過疎化が進んでいそうなその地域では俺のことを知っている若者自体少ないようで、頻繁に通っているにもかかわらず、誰も自慢話のような目撃情報をネットにあげることはなかった。

コーヒーを飲んでいてもキャーキャーと耳障りな声を聞くこともなく、店内中の視線を集めることもない生活は精神衛生上とてもいい。

しかし外出先を変えた途端、平和な日々は終わってしまった。






「ヒョン、どこが悪いの」


事務所へ入った途端、今にも泣きそうな、いやすでにうっすらと目に涙を浮かべているジェルミが興奮しながら駆け寄ってきた。


「深刻な病気じゃないよね、最近仕事減ってたのはそのせいなんだろ。ごめん、俺、全然気づかなくて・・・てっきりいつものワガママで仕事してないのかと思ってた。そりゃ俺なんかじゃ全然頼りにならないと思うけど、でも黙ってるなんて水くさいじゃないか。俺たち同じバンドのメンバーだろ」


俺は犬のようにつきまとうジェルミをあしらいながらエレベーターに乗った。


「いきなり何のことだか判らないが、いくつか訂正しておく。まず、仕事は減ったんじゃない、露出を抑えてるだけだ。それと、俺はワガママではない、自分の信念に基づく主張を曲げないだけだ。あと、俺は至って健康でどこも悪くない。悪いのはジェルミの頭か?いったいどうしたら俺が病気だなんて話が出てくるんだ」


「だって毎日病院に通ってるんだろ。ネットじゃ見かけたって情報でいっぱいだよ」


「何?」


俺が眉間にしわを寄せながらエレベーターから降りると、今度は社長が焦った足取りで近寄ってきた。


「おいテギョン、ファン・テギョンは何の病気なのかと記者がうるさく聞いてくるんだが、本当にどこか悪いのか?暗い顔で病院から出て来るのを見たって言ってたぞ。アレルギーは知ってるが、それ以外にも何かあるのか?」


なるほど、病院の駐車場に車を停めてるのを見られていたのか。俺はただミニョを待っていただけだったが、どこか悪くて病院へ通ってると思われたわけだ。結局未だにミニョには会えず、車から一歩も降りてないのに。


「病院へは行きましたがそれはただ用があって行っただけで、診察を受けているわけではありません。表情が暗く見えたのはたぶん機嫌が悪かったからでしょう」


会えない上に電話にも出ないミニョ。俺を避けているのかと腹が立つ。

そしてジェルミには病人扱いまでされ・・・

ムッとしながらも俺は丁寧に社長に答えた。

俺の返事に安心したのか、社長は「そうか」と俺の肩をバンバンと叩き去って行く。その社長と入れ替わるように俺に近づいてきたのはシヌだった。


「シヌヒョン、テギョンヒョン病気じゃないって。用があって病院に行ってただけなんだって」


ネットに載ってたとジェルミが騒ぎ、事務所に電話までかかってくるんだから、シヌの耳にも入ってるよな。当然病院の名前も。


「へえ・・・何の用だろな」


数日前、ミニョがいるんじゃないかと合宿所へやって来たシヌ。帰り際の表情と、今目の前で俺を見るその表情は同じで、冷めた目で俺を見ている。


「シヌ・・・話があるんだが」


「その話ってきっとここじゃない方がいいよな」


病気じゃなくてよかったと無邪気に喜ぶジェルミに視線を遣ると、俺たちは静かに話ができる場所へ移動した。





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ミニョが合宿所に泊まった数日後、俺はいつものカフェへ行った。しかし店は開いておらず、ドアには”しばらく休業します”という貼り紙が。

しばらくという期間がどれくらいをさしているのかは判らない。しかし休業の理由を知っている俺は、もしかしたら長引くかも知れないと思った。

撮影でここに来てミニョと再会して以来、ここへ来ればいつでも会えると思っていたし、実際に会っていた俺は、ここ以外でミニョと会える場所を知らない。しかし今の状況で思いあたる場所がひとつだけある。それは病院だ。

ミニョのことだ、必ず店長の見舞いに行っているだろう。毎日ではないにしても、その頻度は高いはず。






「わざわざすまないね」


俺は店長と特に仲が良かったわけではない。店には通っていたが、あいさつをする程度で会話らしい会話はしたことがない。その俺が病院へ運んだだけでなく、後日見舞いに現れたことに店長はすまなそうな笑い顔を見せた。


「ミニョさんも大丈夫だからいいって言ってるのに、毎日来てくれて・・・」


今日も1時間ほど話をし、帰ったという。

俺の思った通り、ミニョは見舞いに来ているようだ。それも毎日。


翌日から俺は車を病院へ走らせた。しかしそれは店長の見舞いにではなく、ミニョに会うため。

病院の玄関が見える場所に車を停め、ミニョが出入りするのを待つ。自分でも何をやってるんだろうと呆れてしまうが、身体が勝手に動くんだから仕方ない。

カフェへ行かなくなってから俺は曲が書けなくなった。メロディーも歌詞もまったく浮かんでこない。

ミニョのせいだ。

あいつに会えなくなってから、俺の心はどんよりと重く、不快な気分に包まれている。毎日いらいらと落ち着かなくて。

こんな状態でいい曲が書けるわけがない。


「はぁ・・・」


俺はハンドルに額をつけると大きく息を吐き出した。

やめよう、ミニョのせいにするのは。あの時のキスも俺がしたかったからしたんだし、こんなところでミニョを待ってるのも、俺が会いたいから。

会ってもう1度「好きだ」と言いたい。

いや言う、何度でも。

またシヌが好きだと言われるかもしれないが、それでも構わない。

どうしてあの夜言っておかなかったんだと深い後悔が俺を襲った。それに拍車をかけているのが、あの日のミニョの様子だった。

何がどう気になっているのか自分でも判らないが、とにかく早く会いたい。というより会わなきゃと追い立てられるような焦りすら感じている。


ミニョが来たらまず車に乗せ、静かに話ができるところへ移動し、そしてそこで・・・と頭の中でのシミュレーションはバッチリなのに、いつまで待っても肝心のミニョが現れない。

俺も暇ではない。メディアへの露出は減らしたが、今は新人のレッスンとレコーディングにつき合っていて、それなりに忙しい。


ミニョが病院へ来る時間と、俺の空いている時間がうまく合わないせいか、俺は何日も待ちぼうけを食わされた。もちろんただぼーっと待っていただけではない。別れてからかけていなかった電話を何度もかけた。

しかしいつも数回のコール音の後、留守電へと切り替わるだけ。

俺はバカだ。

あの晩もう少し話しませんかと俺の服を掴んだミニョ。

その声は戸惑いながらもはっきりとした意志が感じられたのに。ただの暇つぶしのおしゃべりではなく、俺に話したい・・・伝えたいことがあったんじゃないのかと今になって思う。


「チッ」


ハンドルを叩きながら人の出入りをチェックする。

電話をかけるたびに留守電へメッセージを残すが、いつまでたってもミニョからの返事はなかった。







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