星の輝き、月の光 -33ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

抱きしめた身体と柔らかな唇の感触が頭から離れない・・・

ベッドに入って布団を頭までかぶった俺は、まんじりともしないで朝を迎えた。


あの後俺はミニョをその場に残し部屋へ戻ったが、ミニョはあれからどうしたんだろう。あのまま下にいたんだろうか、それとも部屋へ戻ったんだろうか。


俺は足音を立てないように歩き、ミナムの部屋のドアを静かに開けた。細く開いた隙間から中を窺うが、ミニョの姿は見えない。地下へ下りて行きピアノ室を覘くがそこにもミニョの姿はなかった。


「どこへ行ったんだ?」


俺がいきなりキスしたから身の危険を感じて出て行ったのか?


その答えはキッチンのカウンターの上にあった。



”病院へ行ってきます。私がここに来たことは誰にも言わないでください。泊めてくださってありがとうございました”



残された小さなメモ。


結局ミニョはここの方が病院に近いからという理由で泊まっただけなんだろうか?


俺が首を傾げながらその紙を手にしていると、玄関の方からバタバタと足音が近づいてきた。

ミニョが忘れ物でもして戻ってきたのかと思ったが、入って来たのはシヌで、俺はとっさに手をポケットへ突っ込んだ。

慌てた様子のシヌはキッチンにいる俺に気づいてないのかそれとも俺のことなど気にしてないのか、そのまま走って階段へ向かい、2階へと上がっていった。上の方から何度かドアを開け閉めする音とともに、ミニョの名を呼ぶ声が聞こえる。しばらくして下りてきたシヌは軽く息を切らせながら俺の前に立った。


「ミニョはどこだ」


慌てた様子のわりには静かな口調。

久しぶりに見るシヌはいつものポーカーフェイス。だがその目の奥にわずかだが焦りと苛立ちの色が見えた。


「昨夜から連絡がつかない、ここにいるんじゃないのか」


疑いの視線が真っ直ぐに向けられた。


シヌが合宿所を出て行ってから1度もここで顔を合わせてないが、なるほど、それでここへ来たってわけか。

さて、どう答えるか・・・

ここに泊まったのは事実なんだから、「ここに泊まった」と答えるか。それとも今ここにいないことも事実だから「ここにはいない」と答えるか。


「泊めて欲しいと言われたから泊めた。抱きしめてキスした」と言えば、そのポーカーフェイスは一瞬で崩れるだろうなと頭を過る。

俺はポケットに入れた手をぐっと握った。手の中で紙がくしゃりとつぶれる。

俺が返事を思案していると、シヌの携帯が鳴った。


「ミニョ、どこにいるんだ。・・・病院?・・・ああ・・・判った、今からそっちに行く」


電話の相手はミニョのようで、病院からかけているらしい。

シヌはミニョと連絡が取れたことでほっとしたように表情を緩めた。


「ミニョがどうかしたのか」


ミニョがどこにいるのかもその理由も知っているが、俺はわざと知らないフリをした。


「知り合いが入院して付き添ってるらしい」


そのまま玄関へ向かうシヌ。俺はその背中に声をかけた。


「どうしてここにいると思ったんだ?」


「・・・何となく・・・そんな気がしただけだ」


足を止め振り返ったシヌはそう言ったが、その目は「違うのか?」と冷たく俺に聞いているようだった。






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俺は焦った、本当に焦ったんだ。それなのにこいつはただ眠ってるだけ。

倒れてるんじゃなさそうなのはよかったが、眠れない俺とは対照的に、平和な顔でのほほんと寝ているミニョを見て、何だか無性に腹が立った。

起こすつもりで尻を蹴飛ばしたが、「う~ん・・・」と身体をもぞもぞ動かすだけで、起きる気配のないミニョ。


「ふんっ」


俺はピアノの前に座ると鍵盤を叩いて大きな不協和音をガンガン鳴らした。

今まで静かだった部屋に不快な音が充満する。耳障りな音はようやくその耳に届いたのか、のそのそピアノの下からミニョが這い出てきた。


「やっと起きたか」


「もう、テギョンさん、何なんですか」


「せっかく部屋を貸してやったのに、何でこんなとこで寝てるんだ」


頭の中はまだ寝てるのか、ぼーっとした顔でうるさい音を遮るように、ミニョは両耳を手のひらでふさいでいる。


「まさか俺が夜這いにでもくると思って、ここへ避難してたんじゃないだろうな」


「そんな・・・」


・・・まあ、多少そんな気が起きなかったこともないが。


「見損なうな、俺はそんなことしない」


もちろんミニョが望むなら、積極的にしてたと思うが・・・


心の中で思ってることを俺は微塵も顔に出さず、心外だなと口元を歪めた。


「違います、そんなこと考えてません。店長のことが心配でなかなか眠れなくて・・・で、うろうろしてたらここに・・・」


「ふん、寝れないというわりにはぐっすりだったぞ」


「それは、その、ここにいたら、いつの間にか・・・」


ミニョのことが気になって眠れない俺と、仕事の雇い主のことが心配で眠れないミニョ。

眠れないというのは2人とも同じなのに、この差は何なんだ。

まあ店での様子を見ていれば、ミニョが店長にずいぶん可愛がられてるのは判るし、ミニョのすぐ横で倒れてるんだから心配する気持ちも判る。判るが、やっぱり夜ひとつ屋根の下に2人きりでいるんだから少しは俺のことも意識しろよと、俺は心の中で声を大にする。

あくまでも心の中で。


視線を泳がせ、ごにょごにょと口ごもり、段々顔を俯けていくミニョ。完全に下を向くかと思ったら、不意に思い立ったようにがばっと一気に顔を上げた。


「テ、テギョンさんこそ、どうしてここにいるんですか、夜中なのに」


「俺は・・・」


今度は俺の方が口ごもる番。


お前のことが気になって眠れないんだ。


と言ったら、ミニョは俺のことを意識するだろうか。ここにはいないシヌよりも、目の前にいる俺のことをその心の中にとどめるだろうか。

一気に押し倒してしまえば俺のものになるだろうか・・・


「水を飲みに下りてきたら、ここの電気が見えて・・・泥棒でも入ったのかと思って覘いただけだ」


俺は頭に浮かんだすべてのことを飲みこんで自分の部屋へ行こうとした。しかしその俺をなぜかミニョは引き止めた。


「ちょっと待ってください。もうちょっとお話し・・・しませんか」


ミニョが俺のシャツを掴む。

寝てるところを起こされ目が冴えてしまい、暇つぶしに会話でもしようと言ってるんだろうか。それとも・・・・・・

俺の心が騒ぎ出す。

せっかく飲みこんだものがざわざわと逆流するような感覚。シャツを掴んでいたミニョの手が俺の身体に触れ、意識がそこへ集中する。


「・・・お前が悪い・・・・・・」


ああしようとかこうしようとか何か考えていたわけではない。自慢じゃないが今の俺にそんな心の余裕はない。

ただ、引き止めた方が悪いんだと責任を押し付け、俺はミニョを抱きしめると唇をふさいだ。

柔らかなそれを数度食む。触れているだけで気持ちよくて全身が熱くなっていくのを感じたが、意外なことに俺の頭は冷静で、その熱に支配されることはなかった。

ミニョは俺のキスに応じることなく、ただ身体を硬くして立っているだけ。


「話はできない・・・俺は寝る」


ぐっと奥歯を噛み感情を抑えこむように拳を握ると、俺はその場から去った。






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部屋の中が明るい。でもそれは朝陽が部屋の中を照らしているからではなく、煌々とついた灯りのせい。今の時刻は・・・午前1時。電気さえ消していればカーテンが開いていても真っ暗な時間だ。

いつものように電気をつけたままベッドへ入ったが、いつまでたっても一向に眠気が来ない。

理由は判ってる、ミニョのせいだ。

ひとつ屋根の下、2人きりだと思うと、そわそわと落ち着かなくて眠れない。


・・・くそっ。


俺は布団を跳ね上げた。


ミニョはもう眠ってるだろうか。あたり前だよな、真夜中なんだし。いやでも・・・

ベッドに座ったまま、じっとドアを見る。

もしかしたらあのドアが開いて、ミニョが顔を覗かせるんじゃないかとチラリと思ったりもしたが・・・まずそんなことはありえないだろう。

俺は軽くため息をつき、ふるふると頭を振ると立ち上がった。

なぜだか妙に喉が渇いている。

水を飲みに下へ行こうとした俺の足は、ミニョのいる部屋の前でピタリと止まった。


このドアの向こうにミニョが・・・


こくんと唾を飲みこむ。

ゆっくりと手がドアノブへと伸びていき、冷たい金属を掴み、そのまま・・・・・・俺は手を離した。




「はぁ・・・何やってるんだ、俺は」


冷蔵庫から取り出した青い瓶で喉を潤すと、大きく息を吐いた。

これから朝までどうするか。ベッドで横になったってどうせ眠れないだろう。かといって曲を作る気分でもないし、部屋へ戻ってもうろうろと歩き回るのが関の山。

こうなったら朝までテレビでも観て時間をつぶすかと考えていると、ふと地下へ続く階段に灯りがついているのが見えた。地下にあるのはピアノ室と練習室。

つけた憶えのない灯り。

誰がつけたんだ?と考えるまでもない。今この家にいるのは俺とミニョだけなんだから、不法侵入者でもない限り、つけたのはミニョ。


下にいるのか?


俺は妙にどきどきとしながら階段を下り、ピアノのある部屋を覗いた。

階段の途中でチラリと覗いただけではピアノの前にミニョの姿はなく、誰もいないように見える。しかし近づいていくと、ピアノの下で倒れているミニョが見えた。


「ミニョ!」


俺は慌てた。カフェで店長が倒れてるのを見た時の何倍も何十倍も慌てた。

急いで膝をつき、ピアノの下にもぐった。


「ミニョ!大丈夫か!」


軽く身体を揺すった後、ミニョの顔を覗き込む。

顔色はとくに悪くない。表情も穏やかで、呼吸も規則正しく、まるで眠っているよう・・・


「・・・う~ん・・・もう、お腹いっぱい・・・」


ミニョの口から発せられたのは、苦しい息遣いでもなければ痛みを訴える声でもない。動揺しまくってる俺をあざ笑うかのような平和な言葉。


まさか・・・本当に、寝てる、のか?


俺の首が眉間にしわを寄せたまま傾いていく。

穏やかな呼吸に苦悩のかけらも見られない表情。

落ち着いてよく見ればミニョは倒れているのではなく、寝ているだけということが判った。

そしてミニョはむにゃむにゃと何か言いながらごろんと俺に背を向ける。


・・・・・・・・・こいつ!


俺はミニョの尻を蹴飛ばしてやった。





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