ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 27 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

「あっ、すいません」

 

ちゃんと目を開けて歩いているのに近づいてくる人が見えていなかったのか、自分の進むスピードが速すぎてうまくよけられなかったのか。肩がぶつかると反射的に言葉は出たが衝撃でよろけた相手の方をまったく見ることもなく、とにかく進み続ける。一刻も早く帰るために。

 

「おいおい一体どういうことだ?どうなってんだよっ!」

 

ミナムは頭の中で処理するには難しすぎる問題に、ブツブツと独り言を言いながら足早に歩いていた。

 

 

 

 

 

数分前。ロケから帰国するヘイをこっそり迎えに来たミナムはベンチで飛行機の到着を待っていた。

ヘイといるところを誰かに見られてもまったく気にしないが、久しぶりの再会をキャーキャーと騒がれて邪魔されるのを避けたいミナムは帽子を目深にかぶり、寝たフリをしてひっそりと座っていた。

しばらくすると一つ間を空けた横に男が座った。それだけなら特に気にすることもなかったが、その男が背中合わせに座っている女と顔を合わせず話し出したのが気になった。普通話をするなら正面に来るか隣に座るのに、お互いに振り向くこともなく前を向いたまま話している姿はわけありとしか思えず、何となく二人の会話に耳を傾けてしまった。

初めは病気か事故で入院している知人がいるんだなくらいで聞いていた。しかし話が進むにつれどうやらそれは二人の子どものことだと判るとミナムの眉間にはしわが寄り、チラリと覗き見た二人の顔に息が止まりそうになるほど驚いた。

そこにいたのはギョンセとファラン。

二人のことはテギョンから聞いて知っていた。だから二人がどこで会おうが話をしていようがどうでもいいことだったが、問題はその二人の会話の内容だった。

二人はテギョンのことを話している・・・

ギョンセははっきりと「意識は戻ってない」と言っていた。今週中にアメリカの病院へ移すとも。ファランもはっきりとテギョンの名前を口にしていた。

つまりテギョンは行方不明ではなく、とっくに見つかっていたが重体で意識不明のまま入院している――

しかしつい先日、シヌの中にいるというテギョンから自分は死んだと聞いたばかり。

どういうことなのかと聞こうとしたがいつの間にかベンチに二人の姿はなく辺りを見回しても見つけられない。ミナムは混乱する頭を抱えながら歩き出した。

 

 

 

 

 

「生きてる?でも死んだって・・・いや、さっき入院してるって・・・じゃあ死んだってのはウソか?」

 

タクシーに飛び乗ったミナムは小声でブツブツと呟いていた。何が何だか判らないまま家路を急いだが途中で渋滞にはまり、それまでスムーズに走っていた車は市街地へ入るとピタリと止まってしまった。どこから続いているのかいつ抜け出せるのか判らない渋滞はいつものことなのか、「ちょっとかかりそうですね」と言う運転手ののんきな声が焦りをいら立ちへと変えていく。ノロノロとしか進まない今の状況を作り出したのは目の前で鼻歌を歌っている中年男ではないが、この狭い空間では他にいら立ちをぶつける相手はなく、ミナムは運転手を睨みつけるとイライラと足を小刻みに動かした。

 

「ミニョは知ってるのか?いや、知ってたら病院へ行ってるはず・・・テギョンヒョンがミニョを騙してる?・・・何のために・・・?」

 

何を信じたらいいのか判らなくなっていた。重体だということも、死んだということも、しゃべるぬいぐるみも、テギョンだというシヌも。疑問は膨らむばかり。

 

「どうやって確かめればいいんだ?」

 

時々シヌの身体を借りていると言っていた。しかし次にいつシヌの姿で動き出すか判らないテギョンを待ってる余裕はない。今すぐにでも問い詰めたい。

顔をしかめながら外を見れば、ついさっき追い抜いた歩行者に逆に追い越されて行き、その背中はどんどん遠ざかっていた。

 

「まるでウサギとカメですね、あのおばあさんゆっくり歩いてるのにもうあんなとこまで・・・」

 

さすがに運転手もため息を漏らす。

 

「ウサギ・・・・・・そうか、テジトッキ!」

 

何か思いついたのかミナムは大きな声をあげた。

 

 

 

 

 

ミナムが合宿所に帰るとミニョはリビングでテレビを観ていた。ゆったりとソファーに座り時々くすくすと笑うその膝の上には、そこが定位置であるかのように風景にとけこんでいるテジトッキ。

 

「お兄ちゃん、おかえり」

 

「なあミニョ、そこにテギョンヒョンいるのか?」

 

膝のぬいぐるみを指さす。

 

「うん、いるよ、でも私にしか声は聞こえないみたいなの」

 

「それなんだけど・・・」

 

ミナムの言葉を遮るようにインターホンが鳴った。モニターをのぞくと宅配業者のようで、荷物を受け取りに行くミニョにミナムはテジトッキを渡された。

腕の中のテジトッキをまじまじと見る。くるくると回しながら全身を見てみるが、なすがままのぬいぐるみからは何の声も聞こえてこない。「おーい」と話しかけても返事はなく、本当にテギョンがいるのか自分の声が聞こえているのかミナムには判らなかった。

ミナムは顔をしかめながらテジトッキの耳を束ねるようにつかむと顔の前でぶら下げた。ミニョが見ていたら「やめて!」と奪い取りそうな扱いをしつつ、そのまま大きな鼻を指先でピンと弾いた。

 

「ヒョン、俺の声聞こえる?大事な話があるんだ。今夜俺の部屋に来てよ、ミニョには内緒で」

 

ミナムは冷めた目でテジトッキのまん丸の目をのぞきこみ、もう一度鼻を指先で強く弾いた。

 

 

 

                  

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