ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 4 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

テギョンを乗せた飛行機は離陸数十分後に墜落した。

ニュースでそれを知ったアン社長はすぐにマ室長に電話をかけ、そこからダンスレッスン中のメンバーたちに連絡がいった。

アン社長は情報を収集しつつマスコミへの対応を考え、メンバーたちは心配しながらもその日のスケジュールをこなした。

 

 

 

 

 

三人が合宿所に帰ってきたのは辺りがすっかり暗くなってからだった。

 

「テギョンヒョン・・・大丈夫だよね・・・」

 

ジェルミがポツリと呟いた。

 

アン社長が動いてはいるが、海外での事故のため、詳しい情報はなかなか手に入らない。

 

「もしかしたら直前になって乗るのやめて、別の便にしたのかも」

 

「だとしてもとっくに帰ってるだろうし、遅くなるなら何か連絡があるはずだろ」

 

「ほら、携帯落としたとか、お金盗まれたとか・・・連絡したくてもできない状況っていろいろあるじゃん」

 

ジェルミの顔が今にも泣きだしそうに歪んでいく。

 

 

“墜落した飛行機にテギョンは乗っていなかった”

 

 

そう思いたいのはジェルミだけではない。しかしミナムには前向きな言葉は浮かんでこなかった。

玄関先の電灯は暗くなれば自動で点灯するため誰もいなくても明るくみんなを出迎えている。いつもならまったく気にしないが、今日はその灯りが妙に寂しく見えた。

 

「あれ?中、電気ついてるぞ」

 

ドアを開けたシヌは家の中が明るいことに少し驚いた。

 

「どうせジェルミが出かける時消し忘れたんだろ」

 

「俺ちゃんと消したよ。それにこれ・・・食べ物の匂いだ。・・・テギョンヒョンだよ!帰ってきてたんだ!やっぱり乗ってなかったんだよ!」

 

クンクンとジョリーのように空気中に漂う料理の匂いを嗅ぎとり、パッと顔を輝かせたジェルミが先頭を切って入って行く。「おまえたちの分はないからな」とそんなことを言いながら振り返るテギョンを想像していたが、キッチンに立っていたのはミニョだった。

 

「おかえりなさい。帰ったらすぐに食べれるようにと思って勝手に作っちゃった。もしかしてご飯もう食べました?」

 

テーブルの上には作るのに数時間はかかっただろうと思われる手のこんだ料理が所狭しと並べられていた。

ミナムから事故のことはミニョに伝えたと聞いている。しかしあまりにも変わった様子の見られない普段通りの笑顔を見せるミニョに、もしかしたら今の言葉は後ろにいるテギョンに向けられたのかとシヌとジェルミは振り返った。しかしそこにテギョンの姿はなく、ただしんとした空間が広がっているだけだった。

ミナムがミニョを抱きしめた。

笑顔の下にどんな感情を隠しているのか、ミニョの身体は小さく震えていた。

 

「大丈夫だ・・・・・・まだみんな食べてないから腹ペコだよ。にしてもずいぶんたくさん作ったな、今日だけじゃ食べきれないぞ」

 

いろんな料理が並ぶテーブル。どの皿にもテギョンがアレルギーを引き起こす食材は使われておらず、苦手なものも食べやすいように工夫され、テギョンの好物が並んでいるテーブル。

昼間合宿所のキッチンで、ミニョがどんな気持ちでこの料理を作っていたかと思うと、ミナムはそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

 

今日はもう遅いからここに泊まっていくようにと強く主張したのはミナムだった。もちろんシヌもジェルミも賛成だった。

 

「遅いって・・・まだバスがあるじゃない。タクシーでも帰れるし」

 

「いいからいいから、部屋は俺の部屋使え、俺はジェルミの部屋で寝るから。いいだろジェルミ」

 

「あ、うん、いいよ。じゃあ俺はミナムの部屋で寝るね」

 

「おいおい、それじゃあ意味がないだろ」

 

ジェルミがボケてシヌがツッコむ。みんなからくすりと笑いがもれる。

ミニョを一人にしたくない。

三人の考えていることは同じだった。

 

 

 

 

 

「なんだかさぁ、痛々しいんだよね。無理に笑顔作ってるとことかさ」

 

本当は心配でたまらないだろうに、言葉にも態度にも出さないミニョにジェルミは胸を痛めていた。

 

「俺たちのこと気遣ってんだよ。心配で動揺する気持ちは同じだからってさ」

 

食事中もその後の片付けの時も、ミニョはひと言もテギョンの話題を出さなかった。

 

「テギョンヒョン・・・生きてるよね」

 

「生きててくれなきゃ困る。俺はテギョンヒョンが「妹さんを俺にください」って土下座するのと、義弟になったヒョンを“テギョン”て呼ぶのが夢なんだから」

 

それはそれで複雑な気持ちだが、今は近い将来そうなることを願いながらミナムは布団を頭からかぶった。

 

 

 

                  

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