日蝕 60 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

芸能界はいいことも悪いことも、話題には事欠かない。

海外へ行くと決めた俺は、何か大きなネタにマスコミが集中している間にひっそりと韓国を出るつもりだった。


「一緒に行かないか?」


数日間の旅行ではない。場合によってはもう韓国には戻ってこないかもしれない。

俺の誘いにミニョは困った顔をして言葉を濁した。


「ごめんなさい、今はまだ・・・店長にはすごくお世話になったんで、もう少しお手伝いしたいんです」

 

今はまだ・・・ということは、完全に断られたわけではない、ということだよな。

しかし、すぐにいい返事がもらえると思っていた俺の口は尖った。

もう少し、というのがどれくらいなのか俺には判らない。一ヶ月か二ヶ月か、それとも半年なのかそれ以上か。もしかしたら、ミニョ自身も見当がつかないのかも。

急かすつもりはないが、今のままというのも・・・






夕方店に行き、そのまま閉店までいてミニョをアパートへ送り俺はホテルへ戻るという生活を続けていたが、その日はちょっと違っていた。


「あれ?道が違いますよ。・・・やだなあ、もしかして迷っちゃったんですか?もう、何回も通ってるのに」


「ち、が、う!迷ったんじゃない、ちょっと寄り道だ」


「本当ですか?」


疑いの眼差しを向けくすくす笑うミニョを睨みつけ、俺は車を走らせ続けた。

窓を開ける。

入り込んできたのは、この世に作り出されたばかりのような穢れのない澄んだ空気。時折強く吹く風が、ザワザワと木の葉を揺らす。

いつもならその音も躍動的なメロディーに聞こえるのに、今の俺にはそれを楽しむ余裕はなかった。

しばらくして車を停めたのは、一軒の家の前。門扉から玄関へと続く道はソーラーライトで照らされている。辺りは暗いが俺でも十分歩けるほどの光を放つ道を、ミニョの手を引き歩いて行った。


「中古を買ってリフォームしたんだ。あのホテルにいたら、いつまた喉をやられるか判らないからな」


だからといって、家を一軒買うなんて・・・とミニョは驚きながら呆れていた。それでも”俺の家”に興味津々みたいで、「あっち見ていいですか?」「こっち見ていいですか?」と好奇心いっぱいの目で、部屋をのぞいていた。


「水回りは全部新品に交換したし、床も壁紙も張り替えた」


「意外ですね、模様が可愛いです」


ミニョは壁をひと撫でし、くすりと笑った。

家は二階建て、そして屋上もある。

屋上へと続く階段を見つけると、ミニョは嬉々として上って行った。


「うわぁ、すごいです!」


屋上に出たミニョは夜空を見上げ、感嘆の声をあげた。


「そんなにすごいのか」


「はい、星がたくさん見えます」


「店やミニョの家からでも見えるだろ、俺には見えないが」


店やミニョの家も、ついでに言うなら俺の泊まっているホテルも周りは山ばかりだ。星を見るのに邪魔な光はほとんどない。


「でも坂道を登ってきましたよね」


確かにこの家は高いところに建ってはいるが。


「少しでも空に近い方が、星はよく見えるんです」


胸を張って答えるミニョ。

たかだか数十メートル高いからといって、星の見え方に違いがあるとは思えないが、どこにいても見えない俺には判らないことだった。

まあそんなことはどうでもいい。ミニョがこの星空を気に入ってくれたのなら、俺はそれだけで嬉しいし、満足だ。

ミニョは両手を空に伸ばし、小さな子どものようにはしゃいでいた。




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