日蝕 61 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


「きゃっ!」


「おっと」


空を仰ぎ過ぎたんだろう。バランスを崩したミニョの身体が後ろへ倒れかかり、俺は慌てて抱きとめた。


「そんなに手を伸ばしてどうするつもりだ」


「何だか届きそうで」


「星でも取るつもりか?欲張りだな、お前の星はここにあるのに」


「でも・・・」


腕の中で俺を見上げるミニョに、触れるだけのキスを落とした。


「仕方ない、俺が取ってやろう」


俺は夜空に向かって思い切り手を伸ばすと、宙を掴み、握った手をミニョの前に出した。


「ほら、取れた」


手は握ったまま、中は見せない。


「何が入ってるか、当てたらやる」


合宿所の屋上を思い出したのか、ミニョがくすっと笑った。


「えーっと、そうですね・・・」


今、ミニョの胸元には、以前俺がプレゼントした星のネックレスが再び輝いている。


「イヤリング・・・ですか?」


「ハズレ、これはやれないな」


「えーっ、残念」


ミニョはがっくりと肩を落とすと、上目遣いで強請るように俺を見た。


「・・・もう一回、いいですか?」


「ああ」


しゅんとしていた顔が輝き出す。


「じゃあ、えーっと、えーっと・・・・・・ブレスレット!」


「残念」


「んー・・・ヘアピン!」


「不正解」


「チョーカー!」


「違う!」


一回と言いながら何度も挑戦するが、一向に当たらない。そのうち、アクセサリーだったものがチョコとかアメとか言い出して、ミニョの頭の中には俺が”アレ”をプレゼントする可能性は少しもないのかと苛立ってきた。

このままでは哀しい気分に包まれてしまう。俺はなおも考え続けるミニョの言葉を遮った。


「もういい、特別に今から俺が言うことに正直に答えたら、コレをやる」


俺は深く息を吸うと、ミニョを見つめた。


「結婚して欲しい」


ミニョは知らないだろう。

今日ここに連れてくる車の中、俺がずっとそわそわしていたことを。

この言葉を口にしている今、どれほど緊張しているかということを。

心臓は痛いくらいにバクバクと暴れ、やけに喉は渇くし、さっきから握った手のひらは汗でべとべとだ。

コンクールも、俺は何点かと聞いた時も、これほど緊張してはいなかった。

俺は固唾をのんで、ミニョの返事を待った。

「はい」という返事がどんなに小さくても聞き逃さないように耳に神経を集中させ、わずかに頷く動作を見逃さないように瞬きもしないで。

しかしミニョははっきり聞こえなかったのか、余裕のない俺の顔を不思議そうに見ているだけ。

俺はよく聞けよと、もう一度自分の気持ちを口にした。


「結婚しよう」


小首を傾げたミニョは、やがて、ん?と少しだけ眉が寄った。視線は言葉の意味を探るように上へ向けられ、その後、しばらくして目と口が大きく開いて。


「・・・・・・・・・・・・ええーっ!!」


夜空に響き渡るミニョの声。

ミニョの驚きようはすごかった。

俺のプロポーズをこれっぽっちも予想していなかったような驚き方に、俺の方が驚いた。


「どうしてそんなに驚く」


「へ?え?あの、そんな、でも、だって・・・」


俺が幸せになるにはミニョは欠かせないと話した。

一緒に海外へ行かないかとも誘った。

家だって、俺が一人で住むならこんな大きな家はいらないし、壁紙だって可愛い柄は選ばない。

屋上も必要ない。

俺としては一緒に暮らしたいという意思を、少しずつ見せていたつもりだった。

まさかそれに少しも気づいていないとは予想外だった。

だがそんなことで落ち込んではいられない。


「返事が欲しい」


俺はミニョを見つめた。

さっきよりも緊張が激しさを増す。緊張しすぎて息をするのも忘れるくらいに。

ミニョは悩んでいるようだった。

それとも困っているんだろうか。

口をきゅっと結び、ついさっきまで俺に向けられていた視線は宙を彷徨いながら段々と落ちていく。

流れる沈黙が息苦しい。

しばらくしてミニョが肩で大きく息を吸ったのが判った。

俯けていた顔が上げられ、何かを決意したかのような強い眼差しが俺に向けられた。

俺は手の中の指輪を握り直した。

そして・・・・・・



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