あきらかにさっきまでとは違うミニョの反応。
不意打ちを食らった俺は焦った。
そんなつもりじゃなかった、という言い訳が通用するだろうか。
いや、言い訳も何も、本当にそうなんだから仕方ない。
「ヘンなとこ触ってましたね」「手つきがすごくいやらしいんですけど」そんな風に言われるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていた俺は、「終わりましたか?」と何事もなかったかのようにバスローブの裾を引き下ろすミニョに、ほっと胸をなで下ろした。
「あ、ああ・・・後は自分で塗っとけ、俺は喉が渇いた」
「はい、ありがとうございました」
声が上ずる。何だかまともにミニョの顔が見れない。
ミニョも俯いたまま、俺の方を見ようとしなかった。
冷蔵庫から取り出した青いビンで喉を潤すと、大きく吐き出した息とともに、速くなっていた鼓動が徐々におさまっていくのを感じた。
「ふうっ、危なかった・・・」
シルクのように滑らかな手触りは指先で感じるだけでも気持ちいい。シャワーの後だけあって、しっとりと水気を含んだ肌は、ふわふわもちもちしていていつまでも触れていたくなる。時々漏れ出る短い声は甘さを含み、俺の鼓膜をくすぐり誘惑しているようだった。
自分の体温が上昇していくのが判る。鼓動が速くなり、息苦しい。
悩ましげな表情。
思いもかけない反応。
あれは・・・・・・
椅子でよかったと、つくづく思う。もし座らせていたのがベッドだったら・・・・・・
あんな姿を見せられて、俺の高ぶった気持ちと身体を抑えられたかどうか。下心などないと、きっぱり言い切っておいて、すぐに押し倒してたんじゃ恰好がつかない。
雑念を振り払うように頭を振り、ごくごくと水を飲んでもう一度大きく息を吐いた。
心を静めて、熱を鎮めて。
「・・・よし、落ち着いた」
最後にもうひと口、と水を含んだ時、玄関の方からこっちに向かってくる足音が聞こえた。
みんなが出てってから、ここに来るのはマ室長くらい。マ室長の足音はもっとバタバタとしてるから彼じゃないことはすぐに判る。不審に思いそっちの方を見ていると、廊下を通り、姿を現したのはシヌだった。
それ自体は俺は驚かなかった。遅かれ早かれ来ると思ってたから。
ただ時間が早過ぎる。
その事実はまさかと思っていたことを裏付けるには十分で、シヌに対する不信感は大きかった。と同時に、身体の奥底からふつふつとした怒りが込み上げてきた。
それはバーで感じたものよりもはるかに大きく、俺の全身を呑み込もうと口を広げる。
怒りに呑まれるのは簡単だ。しかしあえて俺は抗った。
A.N.JELLとして過ごしてきた日々。数ヶ月前までひとつ屋根の下で暮らしてきた仲間として、シヌのことを信じたいと思う気持ちが、”とりあえず落ち着け”と俺の拳をなだめる。
あの男たちを金で雇ったのはシヌじゃないのか?という疑念を抱きながら、もう一方で、そんなはずはないという願いにも似た思いが俺の中で葛藤していた。
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