車で待っていろと言われたミニョだったが、店の中にヘジンがいることをスンウから聞き出すとじっとしていられなくなった。
そっと店のドアを開け中の様子を窺うと、奥のテーブルにテギョンが見えた。向かい側にはヘジン。ミニョは静かに近づいた。そして二人の会話を聞く。あくまでもテギョンと関係があったかのような口ぶりのヘジン。その上とんでもないことを口にした彼女に対し、ミニョは黙っていられなくなった。
「ヘジン、もうこれ以上オッパを侮辱するようなこと言わないで。全部ヘジンが仕組んだことでしょ。私、レストランに行って聞いてきたんだから。オッパはお酒は全然飲んでないってお店の人が言ってた。ヘジンはオッパが酔って寝ちゃったって言ってたけど、オッパを車まで運んだ人は、オッパからアルコールの匂い全然しなかったって。」
ミニョの言葉にヘジンは少しも表情を変えなかった。いや、どちらかといえば笑っているように見える。
冷ややかな目は楽しそうにミニョを見つめていた。
「みんなの前でウソついて、引っ込みがつかなくなったのは判る。でももうこれ以上ウソつくのはやめて、オッパに手を出さないで。私が憎いなら直接私に何かすればいい。」
「それができれば苦労しないわよ。それに今の台詞、何だか寝取られた夫を返してって言ってるみたいよ。」
ミニョの表情を見ながらクスクスと笑うヘジン。
ミニョはテギョンの手から奪うようにUSBを取ると、ぎゅっと握りしめた。
「本当はこんなことしたくなかったけど、今からテレビ局行ってこれ流してもらう。そうすればオッパが強引に部屋に入り込んだっていうのはヘジンのついたウソだって判ってもらえる。レストランのこともお店の人にお願いしてカメラの前で証言してもらう。ヘジンの言ってることが全部ウソだって判ればみんなだってヘジンのこと信じないし、オッパを陥れる為に仕組んだことだって判ってもらえる!」
はぁはぁと肩で息をするミニョの頬には涙が一筋伝っている。
「ミニョ、もういい。」
テギョンは優しくそう言うと、ミニョの肩を抱き寄せた。
「何を言っても無駄だ、ヘジンにとっては引っ込みがつかないとかそういう問題じゃないみたいだからな。今ここには客のフリをした記者が何人かいる。今日のことをどう書くか、それは任せればいい。」
テギョンはミニョの固く握りしめられている手を開かせ、取り出したUSBをポケットの中へ入れるとゆっくりと視線をヘジンへと向けた。
「さっき言ってたよな、ミニョの周りは男ばっかりだって。確かにその通りだ、俺も時々腹が立つ。でもそれだけいい女なんだから仕方ない。ミニョは人を傷つけるようなウソはつかないし、騙したりもしない。誰かに傷つけられても相手の悪口すら言わない女だ。こんなことされても謝ればすぐに許すだろう。だが・・・俺は違う。どうやって仕返ししてやろうかずっと考えてたんだが、やっと思いついた。・・・しっかり見てろよ。」
ヘジンを見下ろすテギョンの目が不敵に光り、静かに話していた口がわずかに笑った。
テギョンはミニョの身体を自分の方へ向けさせると、目尻に残る涙を親指で拭った。そして額にそっと唇を押しつける。
たとえおでことはいえ人前でいきなりされたキスに驚き、恥ずかしさからとっさに離れようとしたミニョの身体をテギョンは逃がさないぞと抱きしめた。
「オ、オッパ、ちょっと・・・」
捕らわれたまま、チラチラと周りを気にしながら真っ赤な顔で胸を押すミニョに、俺を見ろとテギョンは言う。
ミニョは俯けていた顔を上げた。
すぐ近くにテギョンの顔。
その目は優しく、熱くミニョを見つめている。
この先のテギョンの行動が何となく判ってしまったミニョは、まさかと思いながら更に顔を赤くした。
「周りは気にするな、俺だけ見てればいい。」
形の良い唇が囁くように言葉を紡ぐ。
すぐ傍にはヘジンがいる。他にもたくさん人がいる。気にするなと言われても気になってしまう。
それでもまるで金縛りにでもかかってしまったかのように、テギョンから視線が外せない。
ドクドクと壊れてしまいそうな速さでミニョの心臓が脈を打つ。
「サランヘ・・・」
愛の言葉を囁いたテギョンの唇が触れる瞬間、ミニョは瞼を閉じた。
そっと触れた唇は一度離れ、そしてすぐにまた重なる。
ミニョの腰を抱いていたテギョンの手は、片方は背中にもう片方は後頭部にと回され、深くなる口づけにテギョンの胸を押していたミニョの手からは徐々に力が抜けていく。
二人の甘い吐息が聞こえてきそうなほど静かな空間で、驚く周囲の視線の中、テギョンはヘジンに見せつけるようにキスを続けた。
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