「ミニョ、これ。」
キラリと輝く星のネックレス。
ミニョはソンジェが取り返してくれた星を、両手で包み込むように受け取った。
「ありがとう、ソンジェ君。」
「大丈夫?」
「うん・・・」
「にしても、酷いことする女だな。」
「ううん、私が悪いの。私がもっと早くちゃんと説明してれば・・・」
そう答えたが、切れたチェーンを見てミニョの心はひどく痛んでいた。
テギョンがくれた大切なネックレス。銀色の細い鎖は引っ張られると首にとどまることなく、ヘジンが言ったようにあっけないほど簡単に切れてしまった。
『テギョンさんの心がミニョから離れたがってる証拠』
そんなことないと思いつつも、さっき見せられた週刊誌とヘジンの言葉がよみがえり、ミニョの心を重く沈ませていく。
「それ、見せてくれる?」
暗いミニョの表情からその心の内を読み取ったソンジェは、まずはネックレスを隅から隅までしっかりと見た。そして、ちょっとごめんとことわると、ミニョの襟を軽く広げ、首の後ろを見た。
「さっきの感じの悪い彼女が言ったことはウソじゃないみたいだな・・・って、ああ違う、そういう意味じゃないから、そんな泣きそうな顔するな。」
ヘジンの言葉に怯んでいたミニョに追い打ちをかけるようなソンジェの言葉。ミニョの目はたちまち溢れそうな涙でいっぱいになり、ソンジェはわたわたと慌てた。
「今日は店、休みなんだ。」
鍵を開け、自身が経営するアクセサリーショップに入って行くと、ソンジェは一本のネックレスをミニョに手渡した。
「ちょっとこれ、引っ張ってみて。」
ソンジェにジェスチャー付きで言われ、何だろうと思いつつもネックレスの輪を両手で掴むと、広げるようにぐっと左右に引っ張った。
「もう少し力入れて。」
言われるままに従い、更に少しだけ強く左右に引き・・・
ぷつん。
「え?あ!ごめん、ソンジェ君、切っちゃった!」
ミニョの手の中で、ネックレスは輪ではなく一本の線になってしまった。
「ごめん、ごめんね、そんなに力入れたつもりないんだけど。」
細いとはいえ金属の鎖を切ってしまうほど力を入れたつもりはない。
ぷつん、と切れた時の感触が、まるでネックレスの命を絶ってしまったような感じがして、慌てて何度も謝るミニョだが、ソンジェは気にしないでと笑顔を見せた。
「さっきの店で言っただろ、彼女の言ったことはウソじゃないみたいって。ミニョの首見せてもらったけど、全然跡がついてなかった。だから軽く引っ張ったっていうのは本当だと思う。ネックレスってね、そういう風に作ってあるの。使う人を護るために一ヶ所だけ切れやすい鎖が使ってあるんだ。何かに引っかかって首に圧力がかかった時に怪我をしないようにって。でもあんまり簡単に切れちゃ困るから、軽く引っ張った程度じゃ切れないくらいの強度はあるんだけどね。」
ソンジェは線になってしまったネックレスを受け取り、切れた部分をミニョへ見せた。
「さて、ここでミニョに問題。ミニョのネックレスは、すごーく軽い力で切れました。でも普通はそこまで簡単には切れません。じゃあどうしてミニョのネックレスは簡単に切れちゃったんでしょう。」
ミニョの視線がバッグに流れた。その中に入っているのはハンカチに包まれた星のネックレス。
『テギョンさんの心がミニョから離れたがってる証拠』
簡単に切れたという言葉にヘジンのことを思い出し、ミニョの表情に再び影が差す。するとソンジェは顎に生えた短い髭を指先で触り、やれやれと小さく息を吐いた。
「さっき彼女に言われたこと思い出したんだろ。ミニョの場合、テギョンさんのことを疑うっていうより自信のなさからそんな顔したんだと思うけど、それって結局テギョンさんのこと疑ってるのと同じだぞ。幼馴染が手ぇ置いただけで怒るくらい愛されてるんだ、もっと自信持てよ。」
今でも時々ミナムと連絡を取り合っているソンジェ。そこからミニョのこともソンジェの耳に入って来ている。
ミナム曰く「不思議なことに少しも変わらずミニョはテギョンに愛されている」と。
「で、さっきの答えだけど・・・ミニョのネックレスって、テギョンさんの心そのものだと思うよ。簡単に切れたのは、彼女の悪意に反応したネックレスがミニョを護ろうとして首から離れたんだ。テギョンさんの心がミニョから離れたがってるんじゃなくて、テギョンさんがミニョのことを大切に思ってるから、少しも傷つけたくないから切れたんだ。」
俯くミニョにソンジェは笑顔を向けた。
ソンジェの言葉に、重く沈んでいたミニョの心が浮上していく。明るい水面を目指し、駆け上る。
「俺が直してやるよ、修理もやってるから。ただ・・・同じデザインのやつがないから手に入れるのにちょっと時間がかかる。違うのでもいいならすぐに直るけど・・・」
ソンジェは作業場のパーツケースを覗いた。
違うとそこだけちょっと目立つと言われたが、ミニョはすぐに直してもらうことを選んだ。
いつでも自分のことを想ってくれているテギョン。その証のようなネックレス。
アフリカにいた時は毎日星を握りしめ、テギョンを思い浮かべていた。
ヘジンの言葉には傷ついたし、週刊誌の写真には息が詰まりそうになったけど、真実は別のところにあるとミニョは強く思う。
「はい、できたよ。」
手渡されたネックレスは確かに一部分だけ少し目立っている。しかしテギョンが自分を護ってくれた証だと思うと、愛おしそうにその部分を撫でミニョの頬は緩んだ。
「やっと兄貴になれた。」
ポツリとソンジェの口から出たひと言。
「え?」
「いや、何でもない。」
ソンジェは首を軽く振る。
ミニョはネックレスを首にかけると輝く星を見つめた。
「ありがとう、ソンジェ君。」
ミニョのとびきりの笑顔にソンジェはどういたしましてと大きな手をミニョの頭に乗せ、満ち足りた気分でくしゃくしゃっと撫でた。
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