大きな窓ガラスを覆うカーテンの隙間から、すがすがしい朝の光が射し込んでくる。すうっと真っ直ぐに伸びた一筋の光はベッドで眠る二人を照らし、夢の世界からの覚醒を促した。
瞼を開ければすぐ横には穏やかな顔で眠るミニョ。テギョンは手を伸ばすと幸せを抱きしめるようにその身体を腕の中に閉じ込めた。
まったりとした朝。
早朝から深夜まで連日仕事に追われていた日々を振り返ると、毎朝思う存分まどろみを満喫できる今の生活は悪くはない。しかしその生活も自由を束縛された籠の中でのものとなると話は別。何より汚名を着せられたまま、いつまでもここにこうしているつもりはない。
テギョンには計画していることがあった。おとなしくホテルにこもっているのはアン社長の指示に従っているだけではなく、相手を油断させる為でもある。
そして今日が計画を実行する日だった。
ミニョを起こし食事を済ませると、スーツケースに荷物を詰め込んだ。
「おうちに帰れるんですね。」
にこにこと嬉しそうにテジトッキを抱きしめながら迎えの車に乗り込むミニョに、テギョンはいいやと首を横に振った。
「家には帰らない、アメリカに行く。」
「アメリカ!?」
まるで散歩にでも行くようなテギョンの口ぶりにミニョは目を丸くした。
「コンサートに出るのにここじゃ練習出来ないだろ。」
「だからって、何もアメリカに・・・」
「こっちじゃ騒がしくて集中できないし、向こうに行けばいろいろと勉強も出来る。俺もみっちりピアノの練習が出来るしな。」
「でもそれじゃあオッパのお仕事が・・・」
「何の問題もない。依頼されてた曲は全部アン社長に渡したし、ドラマはなくなった。」
もともと最近の仕事で大部分を占めていたのはドラマの撮影だった。それがなくなりホテルにこもって曲を作り終えれば今のところテギョンのスケジュールは空いている。
今回の騒ぎで事務所、マンション、合宿所とテギョンが現れそうな場所にはマスコミが張りつき、今までのように合宿所に自由に出入りできなくなってしまったミニョ。チャリティーコンサートは来年の春だが、それまでの間、静かな環境で落ち着いて練習させてやりたい。そしてテギョン自身も自分から伴奏すると言い出した以上、完璧な演奏をする為に集中して練習できる場所が欲しい。
アメリカにはテギョンの父親が滞在中に住んでいる家があった。周囲を畑と草原に囲まれた田舎で韓国のアイドルのことなど誰も気にしないだろう。すでにドイツへと発った父親には話がつけてあり、家は自由に使えることになっていた。
「テギョンさん、着きました。」
スンウの運転する車が停まるとテギョンは窓にかかったカーテンをほんの少しだけ開け、そこから外を覗いた。その横顔を見ながらミニョは膝の上に置いてあった手をギュッと握りしめた。
「オッパ、私このままアメリカには行けません。オッパは何もしてない、あれは罠だったってみなさんに判ってもらえるまでは・・・」
マスコミの前に現れないテギョンに対し世間は冷たい視線を向けているのに、このまま韓国を離れたら逃げ出したと更に非難されるんじゃないかとミニョは恐れていた。
「誰がこのまま行くって言った?」
不安げな表情を見せるミニョに対し、テギョンの口が不敵に笑う。
「この俺がやられっぱなしで黙ってると思うか?」
テギョンはカーテンを大きく開けた。窓の外に見えるのは空港ではなく蔦の絡まるレンガ造りの建物。何かの店のようで、『OPEN』 と書かれたプレートがかかっている。鉄柵の門扉は客を迎え入れる為に大きく開かれていた。
「ちょっとここで待ってろ。」
テギョンは車を降り、鉄の門をくぐった。そこから入口のドアまでは石畳が続いている。乾いた靴音を響かせ、数種類のバラの花が咲き誇る中庭を横に見ながら歩いて行き、重厚感のある木製のドアに手をかけた。
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