ちょっと出かけてきますと言って出て行ったミニョが暗い顔をして戻って来た。ヘジンと会っていたことを知るとテギョンは何があったのかを問い詰め、ミニョの話す内容に渋い顔をした。
「で?ヘジンにそう言われて、何て答えたんだ?」
「あの、えーっと、その・・・これ以上オッパのことみんなに誤解されない為には、報道されちゃマズいと思うんです。でも・・・・・・・・・すみません、どうしても別れるなんて言えませんでした!」
ミニョはぎゅっと目を瞑り、硬くした身体を二つ折りにした。
「あたりまえだ!そんなこと言ってみろ、俺の方から離婚してやるぞ!」
思いがけない強い口調に、ミニョは身体を縮こまらせたまま上目遣いでテギョンを見た。
テギョンは短いため息をつくと、どっかりとソファーに座り口元を歪ませた。
「どうして俺が怒ってるか判るか?別れないと言ったことを、お前が謝ったからだ。」
テギョンはフンッ!と鼻息を荒くし、ミニョを軽く睨んだ。
「俺をバカにしてるのか?たとえその場しのぎだったとしても、俺が喜ぶとでも思ったのか?」
「でもヘジンは流すって。オッパは何もしてないのに、みんなに誤解されちゃう・・・」
週刊誌に載ったキスの写真。不倫疑惑の記事に世間はざわめきつつも、またいつもの誇張か?と冷めた雰囲気もあった。しかし今度ヘジンが流そうとしているのはそれを裏付ける決定的証拠のようなもの。自分から流すと言ったヘジンがそれを否定する筈もなく、逆にありもしないことを事実としてべらべらしゃべる可能性が高い。テギョンがいくら否定しても一枚の写真の前でその言葉は無力に等しい。
一度悪い噂が流れればそれを覆すのは難しい。メディアは煽り、その波に乗った大衆は臆測を交えながら個人の解釈をそれがあたかも真実であるかのように拡散する。垂れ流された悪評は隅々まで行き渡り、噂の人物を蝕みながら人々の娯楽になっていく。
ミニョはテギョンが非難されるのは黙って見ていられないし、何とか阻止したかった。
「ミニョは俺のこと信じてるんだろ?」
「はい。」
「だったらそれでいい。」
テギョンは身体の中から絞り出すように息を吐くとミニョの手を取り自分の脚の間に座らせた。
後ろから回した手がふわりと柔らかな身体を包み込む。世間の反応がどうであろうと、信じて傍にいてくれるこの温もりがあればいい、そう言われているようでミニョは背中を広い胸にもたれさせ、肩口に頭をあずけた。
「ヘジンは私を苦しめたいって、だからこんなことしたって・・・・・・ごめんなさい、私オッパに迷惑かけてばっかり・・・」
「ミニョのせいじゃないだろ、それにヘジンだってスキャンダルは困る筈だ。流すと言ってるのもただの脅しかも知れない。ミニョを苦しめる為のな。」
ヘジンがなぜミニョに敵意を抱いているのかは判らないが、テギョンを苦しめる=(イコール)ミニョが苦しむという図式に、なかなか痛いところを突いてきたなとテギョンはため息をつく。
ヘジンはモデルとして雑誌の表紙を飾るだけでなく、最近ではよくバラエティー番組にも出演している。仕事が順調な今、スキャンダルは避けたい筈。あの時のマネージャーの反応は至極まともで、とても言葉通りの行動をヘジンがとるとは思えないとテギョンは考えていた。
しかし・・・
翌日テギョンの予想を裏切り、新聞の芸能欄はファン・テギョン不倫の現場という記事が紙面を大きく占領していた。
その内容は酔ったヘジンをテギョンがホテルまで送って行き、そのまま部屋で一晩過ごしたというもの。しかもベッドの中で・・・
数日前に出た週刊誌が小さな煙草の火なら今回のは強風にあおられた山火事。あっという間に広がり、火の手をどんどん伸ばしていく。
そこへ油を注ぐようなヘジンの発言。
『次の日、お仕事が朝早いから帰ってくださいってお願いしたんですけど、一杯だけ飲んだら帰るからって部屋で飲み直すことになって、気がついたらあんなことに・・・・・・。断りきれなかった私が悪いんです、きっと私の行動がテギョンさんに誤解をさせてしまった・・・テギョンさんは悪くありません』
テレビをつければワイドショーが記者に囲まれたヘジンを映し出す。カメラのフラッシュの洪水の中、マネージャーにかばわれながら車に乗り込むと、それを追いかける記者たち。
当然テギョンの事務所にも記者が押し寄せてきたが、テギョンは姿を現さずファックスのみの対応。
”食事はしましたが、彼女とはそのような関係ではありません”
しかし動かぬ証拠とばかりに二人でベッドにいる映像がある以上、どんな言葉も言い訳にすらならない。
ヘジンは素直に認めたのにテギョンは隠れたままごまかすのかと、マスコミのバッシングは日に日に強くなっていった。
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「ミニョ?」
「は、はい?」
早く帰って来た俺に、笑顔で出迎えてくれると思っていたミニョの顔は予想に反して笑みがない。
いや、一応あることはあるがそれは作り笑いのような引きつったもので、その顔はほとんどが驚きと焦りを映し出してていた。
「俺に見られたくない物でもあるのか?」
「い、いえ、そんなことは・・・」
中が見えないように俺の視界を遮り玄関に足止めしようとするミニョに、ふと昨日見たドラマを思い出した。
それは夫の留守中、妻が浮気相手の男を家にあげていたという話。ちょうど今みたいに突然帰って来た夫に慌てた妻は、夫を玄関に足止めし、その間に男をベランダから逃がすという・・・
まさかそんなことあるはずないと思いながらも、俺は急いで靴を脱ぐとミニョが止めるのを振り切り、中へ入った。
そしてそこで見たものは・・・
「な、なんだ、コレは?」
「オッパと初めて会ってもうすぐ7年です。記念日は秋ですけど、それまでにパーティーのメニューをいろいろ考えておこうと思って。とりあえず、デザートから作ってみました。レインボーパンケーキです♪」
ニッコリと笑うミニョとは反対に俺の顔は引きつっていく。
クリームに突き刺さっている旗の 『7』 の文字は7年目と言う意味だろう。それはいい、それはいいがパンケーキの数まで7枚にする必要があるんだろうか?
高く積み上げられたパンケーキからたらりと垂れるフルーツソースとたっぷりのったホイップクリーム。そのボリュームを見ただけで食欲減退間違いないのに、口へ入れるのに躊躇しそうなその色!
「内緒にしておいて、びっくりさせようと思ったのに・・・」
見られてしまったことを残念がっているミニョには悪いが、俺は今日見ておいてよかったと心の底から思う。近づけば近づくほど甘ったるいにおいが俺の嗅覚を占領し、いくら記念日のメニューでも、俺にコレが食べられるとは思えない。
「ミニョ、デザートは俺が用意しよう。ほら、お前の好きなあの店のシャンパンゼリー、あれがいいんじゃないか?」
「え!でもあれは予約できなくて、開店前から並ばないとすぐ売り切れちゃう人気商品で・・・」
「任せておけ、必ず買って来るから」
喜ぶミニョを横目に、危険を回避した俺は当日誰を並ばせようかと考えていた。
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ピグのお部屋にレインボーパンケーキ、ありがとうございました。
テギョンはあんなこと言ってたけど、私は美味しくいただきました♪
美男ですねが韓国で放送されてから、秋には7年になりますね。
ピグでいただいたパンケーキが「7」だったんで、こういうお話にしてみました。
おまけなんで、さらっとスルーしちゃってください(・・。)ゞ