週刊誌に載った写真を撮られた時の状況、ヘジンと食事をした理由、その後のこと・・・
テギョンは今ここに至るまでの経緯をミニョに話した。
ミニョはテギョンの話をじっと聞いていた。
しかし初めはしっかりとテギョンの顔を見ていた目は徐々に伏し目がちになっていく。そして時折ハッとしたように顔を上げ、また顔は俯いていき。
「どうしてヘジンとベッドにいたのか判らない。酒は一滴も飲んでないから酔って記憶がないなんてことありえない。食事に睡眠薬が入ってたとしか・・・信じてくれるか?」
話し終わったテギョンはミニョが何か言うのを待っていた。しかしミニョは俯いたまま思いつめたように一点を見つめ口をつぐんでいる。
二人の間に流れる沈黙。
不意にミニョが立ち上がり部屋から出て行ったかと思うと、数分後、何かを手にして戻って来た。
「右手、かしてください。」
静かなミニョの声。
テギョンは自分の右手を見た。拳が少し赤く腫れている。グーパーと握って開いてをくり返すと鈍い痛みが走った。
子供の頃から手・・・特に指には気を遣っていた。バスケやバレーは体育の授業でもやらなかった。
ピアノを弾く為に・・・・・・
その手で初めて人を殴った。
自分でも予想外の行動だったが、そのことを後悔してはいない。痛む手を見ながらテギョンの口はどこか満足げに笑っていた。
「何も・・・なかったんですよね。」
それは疑いではなく確認の言葉。
「ある訳ないだろ。」
控え目な質問に対して強い断言が返ってくる。
テギョンの右手をじっと見ていたミニョは赤く腫れた部分に湿布を貼った。冷やりとした感触に心地よさを感じながら、テギョンの口からは大きな安堵のため息が出た。
「戻らないかと思った。俺のこと信じられないのかってムッとした。・・・て・・・いて・・・いてて、ミニョ、そこ痛い。」
テギョンの声が聞こえていないのか、ミニョは腫れているところをぐいぐい押し、ぎゅうぎゅうと包帯を巻いていく。
「・・・ミニョ?」
俯いたまま返事をしないミニョの顔をテギョンが覗き込んだ。
「・・・信じてない訳じゃないんです、信じてます、何もなかったって。でも頭ではそう思っても、胸の中がもやもやして、それとこれとは別っていうか・・・そんなに簡単に割り切れることじゃないでしょ。・・・・・・嫌なんです、オッパが一晩中ヘジンといたことが、二人でベッドにいたことが。オッパが眠ってる間、横にはずっとヘジンがいたかと思うと・・・」
巻いている包帯の上に、ポタポタとミニョの目から涙がこぼれ落ちた。
「でもそんなことになったのも、オッパが私を護ろうとしてくれたから。私ってどれだけオッパに迷惑かけるんだろうって、自分が嫌になって・・・」
ヘジンにも言われた。テギョンに迷惑をかけていることが判らないのかと。
ヘジンの言う通りだと思うと、情けなくて涙が止まらない。
「ちょっと待て、食事に行ったとこまでは確かにミニョが関係してたが、その後のことは関係ないだろ。俺だってまさかあんなことになるとは・・・それにだいたい悪いのはヘジンだ。ったく、一体何を考えてるんだか。」
「ヘジンはオッパのことが好きなんです。だからきっとどんな手を使ってもオッパを手に入れようと・・・」
こんなことになる前。数年ぶりに再会したヘジンはキラキラと輝く笑顔でテギョンの話をしていた。本気でテギョンのことを好きになったと打ち明けた顔は、ひどく辛そうだった。
ミニョはあの時のヘジンの表情が忘れられなかった。だからひどいことを言われても、ネックレスを壊されてもヘジンのことを悪く思うことができない。
しかしそんなミニョとは逆に、悪い印象しかないテギョンは眉をひそめた。
「俺のことが好き?そんな風には思えないが・・・」
仮に百歩譲って好きだからだとしても、やることの限度を超えている。
相手を脅して呼び出し、あたかも肉体関係があったかのような小細工をするというヘジンの行動は、テギョンにはとても理解できなかった。
テギョンが暴行事件を起こしたという話は、数日後にはスポーツ紙の芸能欄を賑わしていた。
週刊誌のキス写真だけでも騒がしいのに、更に拍車がかかったように世間が騒ぎ出す。
しかしそれ以上にテギョンが危惧していたのはヘジンとベッドにいたところを撮られたということだった。
絶対にそのことが問題になると思っていたのに、テレビもネットも新聞もそのことには触れていない。
大きくて力のあるヘジンの事務所が圧力をかけたのか・・・
そのことだけが騒ぎにならず、不気味な空気が漂っているように感じられる中、ミニョの携帯が鳴った。
メールの内容を確認したミニョは、テギョンに黙って出かけて行った。
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