You're My Only Shinin' Star (279) 疑い 2 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


「セリ!」


名前を呼びながらテギョンは黒髪の女の腕を掴み、掴まれた女は突然のことにビクリと身体を大きく震わせ振り返った。

二人の視線が合うが、時間が止まったかのように動きを止めたまま、数秒の沈黙が流れる。

とっさに腕を掴んだが、テギョンが知っているのは十数年前の姿。目の前にいるのは少女ではなく立派な女性で、その女性にまるで知らない人を見るような目で見られ、テギョンは焦った。


「セリ・・・だよな?」


「え・・・あ、テギョン?」


固まっていた女は自分の腕を掴んでいる人物を見上げたままパチパチと瞬きをし、ハッとしたようにテギョンの名前を呼んだ。


「よかった、反応がないから・・・間違えたかと思った。」


ほっとため息をつくテギョンの脇をブロンドの髪の女が二人通り過ぎていく。

セリと呼ばれた女はまじまじとテギョンの顔を見つめ、驚きながらも笑みを浮かべた。


「テレビで見た時と感じがずいぶん違うから。でも嬉しい、思い出してくれたんだ。」


視線を一度足元まで下ろしたセリは、ゆっくりと顔を上げていく。


「背、伸びたね。昔は私と同じくらいだったのに。」


昔の面影を探しながら、セリはテギョンを見上げた。






「何だかずいぶん感じが変わったな。」


テギョンの記憶にあるセリは中学生。しかし今目の前にいる彼女は当たり前だがすっかり大人になっていた。短かった髪はふわっと柔らかなウェーブを描きながら背中で揺れ、笑う唇はつやつやと紅く輝いている。少女から大人の女性へと成長した姿は、すれ違っただけでは絶対に気づかないだろうというくらい変化していた。


「あれから十年以上も経つからね。でもそれを言うならテギョンの方が・・・変わり過ぎだよ。」


ホテルのラウンジでテーブルを挟んで座るテギョンとセリは、互いの顔を見ながらそれぞれ過去の姿を思い出す。

まさかテギョンが韓国でアイドルになっているとは思いもよらなかったセリは、自分とはレベルの違う変わりように、クスクスと笑いだした。






二人の出会いは中学生の時。場所は病院だった。

その頃のテギョンは複雑な思いからピアノを弾くことをやめ、数年が経っていた。

これといって打ち込むものもなく、友人と騒ぐこともなく、家と学校を往復して勉強するだけの毎日。そんなある日外出先で食べた食事の中にエビが入っており、アレルギー症状が酷かったテギョンは入院することになった。

入院して数日、症状も落ち着き暇なテギョンは病室から出ると、散歩がてら病棟の中を歩き回った。

有名な総合病院は建物も大きく、入院病棟も広い。迷路のような廊下を歩き、エレベーターで別の階に行き、散歩のつもりが迷子になりかけた時、不意にピアノの音が聞こえてきた。その音に導かれるように歩いて行くと広い談話室があり入院患者が数人雑談をしている。そしてそこに置かれているピアノを一人の少女が弾いていた。

自分と同い年くらいに見える少女の指の動きはたどたどしく、お世辞にも上手いとはいえない演奏。

何度もつっかえながらも楽譜を追う目は楽しそうで、失敗しても全く人の目を気にせず笑顔で弾いている姿は、テギョンの目には不快に映った。


人前で弾く腕じゃないな・・・


耳障りとも思える音に顔をしかめると、テギョンはその場を後にした。

翌日、昨日のピアノのことを看護師に聞いてみると、そこは長期入院している人達の病棟で、心のケアの為に楽器が置いてあると教えてくれた。

その日も散歩に出て迷子になったテギョンはピアノの音のする方へ引き寄せられていく。誰もいない談話室では昨日の少女が同じ曲の同じところで何度もつっかえていた。


やっぱり下手くそだ。


そう思ってその場を後にしたが、翌日もテギョンは談話室を訪れた。

ピアノは下手くそなのになぜか気になる。

弾かなくなったピアノに対する未練なのか・・・

初めはよく判らなかったが、二度、三度と彼女のピアノを弾く姿を見ていて気がついた。

確かに最初はピアノの音が気になり談話室を訪れていたが、今では彼女がピアノを弾く姿が・・・楽しそうな顔が気になってそこへ通っていたことに。




「セリはどうしてそんなに楽しそうに弾くんだ?・・・下手くそなのに。」


「だって楽しいんだもん。・・・って、下手くそは余計だよ、テギョン。」


仲良くなった二人の会話。


「テギョンも前は弾いてたんでしょ。もう弾かないの?」


「弾いた方がいいと思う?」


「弾きたくなったら弾けばいいんじゃない?嫌々弾いたって楽しくないでしょ。ピアノにこだわることはないし、好きなことすればいいのよ。人生もそう、好きなことやって楽しまなくちゃ。」


セリは明るい笑顔を見せた。

中学生の少女が人生なんて言葉を使うのはまだ早いのかも知れないが、心臓の病気で何度も入退院を繰り返し、この先成功率の低い手術を受ける彼女の言葉は重みがあった。

そして弾きたくなったら弾けばいいというどこか突き放したような言い方が、弾かないことにある種の罪悪感を感じていたテギョンの心を軽くした。

彼女がテギョンに与えた影響は大きかった。

音を楽しむという基本的なことを思い出させてくれたセリ。

テギョンは二週間ほどで退院したが、その後もセリのピアノを聴きに何度も談話室へ通った。それは数ヶ月後にセリが大きな手術を受けにアメリカへ渡るまで続いた。






「テレビ見てたら韓国の歌手だって紹介してて、ファン・テギョンだって言うから驚いちゃった。アイドルなんて昔のテギョンからじゃ想像もつかない。」


「そんなに意外か?」


「まあね、テギョンっておとなしくて暗かったし。」


「暗いは余計だ。」


「だって初めて会った時はそうだったんだもん。人生楽しくないってオーラ出まくって、眉間に縦じわ入ってたし。でも今は違うね、すごく楽しそう。」


セリには十数年ぶりに会ったテギョンは、昔の、どこか心に影を抱えた表情ではなく、明るくスッキリとした顔に見えた。


「セリは・・・楽しいか?」


「うん、楽しいよ。私ね、治ったの、もう大丈夫。それを伝えたくてこんなとこまで押しかけちゃった。」


明るく笑うセリに、よかったなとテギョンも笑みを返す。


「あれからずっとアメリカに?」


「うん、いつか韓国に帰ったら、テギョンのライブ見に行くね。あ、でもすごい人気なんでしょ、チケット取れるかな。」


「その時は連絡してくれ、チケット送ってやる。」


「やったー、楽しみが増えた。」


そう言って笑うセリの顔はあの頃と同じに見えた。





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