「ミナムさん、この間の話、考えてもらえました?」
ドラマの撮影が終わり、スタジオから出たミナムは後ろから服をぐいっと引っ張られ、強制的に歩みを止められた。
「おい、それやめろって言っただろ.。」
振り向くとそこには不機嫌なミナムの声音を全く気にする様子もなく、ニコニコと笑っている女の姿が。
女の名前はミア。
今撮影しているドラマに出ている女子大生グラビアアイドル。ほんのチョイ役でミナムと直接絡むシーンもない。
初めて口をきいたのはひと月ほど前。その時も今日のように撮影の終わった後、ミナムが廊下を歩いていていきなり後ろから服を引っ張られた。ミアは何度も声をかけたが気づいてもらえず、仕方なく服を引っ張ったと主張しているが。
それ以来、何度かこうして歩みを止められていた。
「何か用?」
「だから、この間の話、考えてもらえました?」
「前にも言っただろ、俺彼女がいるって。」
「ユ・ヘイさんですよね。知ってますよ、有名だから。でも最近噂になってますよ、二人の関係ギクシャクしてるって。」
初めて服を引っ張られた日、ミナムはミアに告白された。「つき合ってください」と。
彼女がいると断ったが、ミアはそれでもいいですとしれっと答え、アドレスの書いた紙をミナムに手渡した。ミナムはそれを彼女の目の前でゴミ箱に捨てたが、ミアはめげる様子もなくその後も話しかけてきていた。
ギクシャク・・・
ミアの言葉にミナムは苦笑いを浮かべた。
ヘイと最後に会話をしたのは二週間前。ずぶ濡れになったあの日以来、ミナムはヘイを避けていた。
今までは暇があればヘイの仕事場へ顔を出していたのに、ぱったりと足は遠のき、同じ番組に出演しても目も合わせようとしない。
ヘイに声をかけられても、ミナムは冷たい背中を向けるだけ。
そんな二人の様子に、”破局か?”と噂が立つのにそれほど時間はかからなかった。
「別れた訳じゃないんだけど。」
それは決して強がりではなかった。確かに考え方の違いに愕然としたが、今でもヘイのことが好きだという気持ちに変わりはない。ただ今は、ヘイの言ったことをよく考え、自分の心を見つめ、この先どうするかを考える為に距離を置いているだけ、とミナムは思っていた。
「私そういうの気にしないんです。」
ミアの言葉にミナムは眉根を寄せる。
「俺に二股しろって言ってんの?変わってんね、普通自分以外につき合ってるヤツがいたら嫌だろ。」
「私普通じゃないんで。」
ミナムの顔を見上げ、ニッコリ笑うミアは、本気なのかふざけているのかミナムにも判らない。
「じゃあ相談、相談なら私の話、聞いてもらえますか?」
ミアは返事を聞く前にミナムの腕を掴むとズンズンと歩き出す。
「宗教の勧誘か?それともそういう強引なのがお前の”手”なのか?」
ミナムは掴まれていた手を振りほどくと、軽く睨むようにミアを見るが、その睨みも全く気にならないようで、ミアはきょとんとした顔をしている。
「手、って言われても・・・私は思ったこと言ってるだけです。」
初めて声をかけられた時から何となく気に障った。断ってもしつこくて、邪険にしても平気な顔をしているこの女。
どことなく俺に似ている?
自分が今までヘイにしてきたことを思い出し、近親憎悪かと苦笑いを浮かべる。
「判ったよ。でも俺この後も予定が詰まってるから、手短にして欲しいんだけど。」
このままほっといてもどうせつきまとわれるだけだと、ミナムは取り敢えずミアの言う話とやらを聞くことにした。
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