青くキラキラと輝く水の中を身体をくねらせ泳ぐ魚達。
素早い動きで右へ左へと忙しなく向きを変える小魚や、ゆったりと尾びれをゆらして悠然と泳ぐ大きな魚。
天井まで届く巨大な水槽はそのまま外につながっていて、太陽の光がほの暗い水底を淡く照らしている。
「オッパ、後ろ。」
水槽のガラスにもたれていたテギョンはミニョに声をかけられ、何気なく後ろを振り向いた。
すると目の前には大きな魚の顔が。
「うおっ!」
テギョンに向かって泳いできた魚はガラスにぶつかる直前で身体をくねらせると、垂直上昇する戦闘機のように白い腹を見せながら、ガラス面すれすれを上へ上へとのぼっていく。
いきなりの巨大魚のアップと、自分の身長よりも大きな魚の姿に不意を突かれたテギョンは思わず声をあげると、のけ反りながら半歩後退った。
「プッ・・・カッコわるぅ。」
クスクスと笑うミンジュンはテギョンに睨まれ、「おねぇちゃ~ん」とミニョの後ろに隠れた。
朝起きて、テギョンとミニョは今日一日をどう過ごすかを話し合った。
家でまったり、といってもミンジュンが一緒ではそうもいかない。それに事務所のように部屋を汚されてはたまらない。どこかへ出かけようといくつか候補を出したところで、「おさかな見たい」とミンジュンが言った。
テギョンは思案する。
子供向けのアニメ映画など一緒に見るつもりはないし、遊園地へ行ってもミニョとミンジュンだけがはしゃいで自分は単なる付き添いになりかねない。その点水族館なら、ミンジュンが一人でべっとりと水槽にはりついて見ていれば自分はミニョとデートできる。
という訳で水族館へ来たのだが、テギョンの考えは少し甘かった。
ミニョになついているミンジュンは、水槽ではなくミニョにべっとりとくっつき、どの水槽を見るのにもミニョの手を離さない。
あっちこっちとミニョを引っ張っていき、とり残されたテギョンは結局ただの付き添いになってしまっていた。
そして今、ミニョとミンジュンは、海の生き物を直接触ることができるタッチプールに釘付けになっている。
「オッパ、ほら、ヒトデです。初めて触りました、可愛いです。」
可愛い?とテギョンの首が少し傾く。
ミニョはちょうど手のひらに乗るくらいの大きさのヒトデを触っていて、初めての感触に小さな子供のようにはしゃいでいた。
「オッパも触ってみませんか?」
「い、いや、俺は、いい。」
テギョンにとっては付き添いを脱する絶好のチャンスだったが、もぞもぞと動いているヒトデは何だか気味が悪くて、頬を引きつらせながらふるふると頭を横に振る。
一方本物の小さな子供の方も、初めて触る海の生き物にすっかり夢中になっていた。
「カッコいい・・・」
小さな目をキラキラと輝かせたミンジュンが手にしていたのはナマコ。
ミニョの可愛いよりも更に理解不能な形容詞にテギョンの首はもっと傾く。
他にも貝やカメなどもう少しマシなものがいるだろうと浅い水槽を覗き込むが、ミンジュンはひたすらナマコを掴んではキャッキャと喜んでいた。
「ミニョさん、どうもありがとう。」
夕方、ミンジュンを迎えに来たマ室長はペコペコとミニョに頭を下げる。
「俺には感謝の言葉はないのか?」
「どうせ面倒をみてたのはミニョさんで、テギョンはそれを横で見てただけだろ。」
確かにマ室長の言う通りテギョンが直接ミンジュンの世話をしていた訳ではないが、それでも大変だったんだぞと昨夜のことを思い出し、テギョンの口元が歪む。
「貴重なオフが台無しだ。」
「あはは、悪かった。この埋め合わせは何とかするから。」
頬を引きつらせながら笑うマ室長は手をこすり合わせると、ナマコのぬいぐるみを大事そうに抱えているミンジュンを連れて帰って行った。
「やれやれ、やっと帰ったな。」
「お疲れさまでした。」
どさりとソファーに身体を沈めると、ミニョがテーブルにビールとグラスを置いた。
「せっかくのオフだったのにな、マ室長のヤツ・・・」
チッと舌打ちをするテギョンの横に静かにミニョは腰を下ろした。
「でも楽しかったですね。」
水族館はミンジュンだけでなくミニョも大いに楽しんでいた。あまり楽しめなかったのはテギョン一人。
それでも、魚を見て喜んでいたミニョの笑顔に、それほど悪い日でもなかったなと今日一日を振り返る。
「俺よりもミニョの方が疲れただろ。」
「私はいつももっと大勢の子供たちの相手をしてるんで、これくらい何ともないです。今からサッカーやっても平気ですよ。」
えへんと得意げに胸を張るミニョを見てテギョンは立ち上がる。持ってきたのはカクテルの缶とグラス、それとチョコレート。
「それはよかった。だったら今度は俺の相手をしてくれよ。」
チョコを一粒つまんだテギョンの口元には意味あり気な笑みが浮かぶ。
二人きりになった部屋に、二色のグラスが輝いた。
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