声のする方へゆっくりと顔を向けたマ室長の目に映ったのは、入口の壁にもたれ腕組みをしながら口の片端だけを上げているテギョンの姿。そしてその横には、堪えきれない笑いをクスクスと漏らしているシヌ。
「この部屋は夕方から俺が使う予定なんだが・・・いつからここはお絵描き教室になったんだ?」
テギョンはぐるりと部屋の中を見回すと、頬をピクリと動かした。
「え?今日は誰も使わない筈じゃあ・・・」
「今朝決まったんだ。」
引きつった笑いを顔にはりつけたマ室長は、テギョンの突き刺すような視線から逃れようと、ギギギと固まった首をゆっくりと動かし、顔を背けている。
マ室長がこそこそと何かをしていると聞いた時点で、やっかいごとがもれなく付いてくると考えるべきだったと、テギョンは口元を歪めた。
「で、その子は何なんだ?」
「マ室長の甥っ子だって。明日の夜まで預かったんだけど、自分一人じゃ手に余るって連れて来たらしいよ。」
いつの間にか子供と仲良くなっていたジェルミはらくがきを消すどころか、一緒になって絵を描きながらテギョンの方を振り向いた。
「わああ、ジェルミ、一緒になって描いてないで消してくれよ。こんなとこアン社長に見られたら・・・こら、ミンジュン、もう描くのは終わりだ。シヌも手伝ってくれ、できればテギョンも・・・」
「何で俺が。」
わたわたと蒼い顔で慌てふためくマ室長を見て、可哀想だと思ったのかやれやれと動き出したシヌとは対照的に、テギョンはあからさまにムッとした顔をすると、俺の知ったことじゃないとそっぽを向いた。
そんな大人達の遣り取りを見ていたミンジュンは、椅子の上からぴょんと飛び降りると、タタタ・・・と軽い足音をさせてテギョンへと近づいてきた。
「おじさん、あそぼ。」
テギョンを見上げるミンジュンはニッコリと笑いながらテギョンの服を掴もうと手を伸ばす。
その手がクレヨンまみれで異様な色に変色しているのを一瞬で見極めたテギョンは、飛びすさるように後ろへさがった。
「俺はおじさんじゃない。」
「・・・おじいさん?」
「誰が爺さんだ。」
「?」
「ファン・テギョンだ。」
「・・・ハン・テギョン?」
「ファン・テギョンだ!」
「?」
二人は会話をしながら少しずつ移動していた。というのも、後ろへさがったテギョンを掴もうとミンジュンは再び手を伸ばし、その手から逃れようとテギョンは身体を翻し。
なかなか捕まえることが出来ないテギョンを、はじめのうちはキョトンとした顔で見上げていたミンジュンだが、いつしかひらりひらりとかわすテギョンの姿に鬼ごっこをしているような気分になり。
「おい、俺は遊んでるんじゃないんだぞ。」
小さな子供相手でもお構いなしにギロリとミンジュンを睨みつけるが、いかんせんテギョンの格好に説得力がない。
お腹の辺りに伸びてきた手に触られまいと、思い切りおしりを突き出すような格好でよけたり、腰を大きく横に振り、身体をくねらせたり。
その度に、キャーキャーと楽しげな声を上げるミンジュン。
「マ室長、この子を何とかしろ。」
「ちょうどいい、ちょっとミンジュンの相手をしていてくれ。その間に掃除するから。」
「何!?子供の相手なんてご免だぞ。ジェルミ、お前が一番適任じゃないか、精神年齢近いだろ。」
「見て判んない?俺今、机拭いてるんだけど。」
「ミナム、その子を押さえててくれ。」
「いいじゃん、別に今どっか汚してる訳じゃないし。テギョンヒョンの服はもうすぐ汚れそうだけど。」
「シヌ、何とかしてくれ。」
「この機会に少しは子供に慣れておいたらどうだ。」
テギョンの頼みを冷たくあしらう三人は、子供に追いかけられるテギョンの姿をニヤニヤと笑みを浮かべながら見ている。
「よかったなミンジュン、遊び相手ができて。」
マ室長の言葉にニッコリと笑うミンジュンの顔を見て、テギョンは冗談じゃないと逃げるように部屋から飛び出した。
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