You're My Only Shinin' Star (248) 海辺の町で 1 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

夕陽に波が赤く染まる。

冬の低い太陽が、海の彼方へと消えようとしていた。


ザザアァァ、ザザアァァ・・・


寄せては引き、再び足元まで迫りくる波と戯れながら、ミニョは子供のようにはしゃいでいた。


「ミニョ、くれぐれも水には浸かるなよ。たとえ足だけでも濡れてみろ、風邪をひくぞ。」


波打ち際で楽しそうに波を追いかけるミニョに、テギョンが声をかけた。


「オッパもどうですか?楽しいですよ。」


濡れた砂に靴跡をつけながら波を追いかけ、その波に追いかけられているミニョを見てテギョンはぶるりと身体を震わせた。


「こんなに寒いのに・・・よくそんな気になれるな。」


雪は降ってはいないが、だからといって寒くない訳ではない。ピンと張りつめた冷気は、そのまま思い切り吸い込めば肺の中までこごえてしまいそうで、テギョンは白い息を吐きながら首をすくめ、マフラーに顔を埋めた。


「せっかくオッパと海に来られたのに・・・オッパ前に海は夏よりも冬の方がいいって言ってましたよ。」


「あれは・・・星を見るなら冬の方がいいと言ったんだ。今は夕方だ、まだ星は見えない。」


素直にミニョの水着姿を他の男共に見せたくなかったからだとは言えないテギョンは、コートに両手を突っ込みながら口を尖らせる。

そんなテギョンの後ろから砂を踏む音が近づいてきた。


「テギョンヒョンなんかほっとけばいいよ。」


軽やかな足取りで砂浜を走ってきたジェルミは、テギョンの横を通り過ぎざまに、べえっと小さく舌を出してミニョへと駆け寄る。


「俺は寒いのなんか全然平気だもんね~」


「ジェルミ、何でここにいるんだ?」


テギョン達A.N.JELLは今日、旅番組のロケでこの海辺の小さな町へ来ていた。撮影の後、いつもならさっさと帰るぞと真っ先に車に乗り込むのに、今日はテギョンの姿が見えない。どこへ行ったのかとジェルミが辺りを捜していると、砂浜ではしゃいでいるミニョを見つけた。


「俺の方が聞きたいよ。どうしてミニョがここにいるの?」


「私はこの近くの聖堂に歌いに来たんです。」


「それってもしかして・・・急に決まったこと?」


「はい、つい最近です。」


なるほどね・・・とジェルミはテギョンの方を意味ありげに見た。

海沿いの小さな町を紹介する旅番組。といっても、その海でとれたカニやらエビやらをひたすら食べるという内容に、俺は必要ないだろうと初めは断っていたテギョン。

数日前、手のひらを返したように出演OKの返事をしたテギョンに、ジェルミは首を傾げていたのだが・・・


「ミニョとデートするつもりでOKしたんだ。」


「仕事はきちんとこなしたんだから、誰にも文句を言われる筋合いはない。」


エビもカニも食べられないテギョンは、それなら他のものを・・・と、なぜだかそこの特産物だというほうれん草を大量に食べさせられ、機嫌だけでなく胃の調子も最悪。

待ち合わせたミニョと会うことで、やっと体調も気分もよくなってきたのに、これ以上俺を不快にさせるなと口の片端をフンと上げた。





赤く染まる海をバックに、波と戯れ、楽しげに笑うミニョ。と、どうしても視界に入ってくるおじゃま虫ジェルミ。

以前ならそんな二人を見ているだけで眉をひそめていたテギョンだが、今はそれほどイラついた気分にはならない。

それは結婚したという充足感からか、いつもミニョが傍にいるという安心感からか・・・

ジェルミのミニョへの接し方が以前に比べ、幾分あっさりとしているからというのもあるかも知れない。それに加え、ミニョがしきりにテギョンへと視線を向けている。

波と遊び、輝く水面を見つめ、ジェルミと笑いながらも、チラチラとテギョンを気にしているミニョの姿に、今のテギョンがイラつく理由など、どこにもなかった。

しいて言えば・・・そのミニョの仕種が、”早くテギョンと二人きりになりたい”と言っているように見え、おじゃま虫はさっさと帰れと心の中で思う程度。

もっとも、そんな状態もそれほど長くは続かなかった。

靴が汚れるのが嫌で波打ち際から離れた場所で身体を震わせていたテギョンは、なぜ俺がこんなところで一人でいなければならないのか、とハタと気づいた。

テギョンの明日の仕事は昼からで、今夜はすぐ近くのホテルに部屋をとってあり、本当なら今頃は海の見える部屋で、ミニョと二人、のんびりと過ごしていた筈なのに・・・と口元が歪んでくる。

暫くしてマ室長が慌てた様子でジェルミを捜しに来た時には、「早く連れて帰れ」と、いつものように軽く睨みつけた。






「ジェルミが相手をしてくれてよかったな。」


笑顔でジェルミを見送るミニョを見て、テギョンの口が尖る。

何だか嫌味のようだと思いつつ、ジェルミに向かって手を振っているミニョを見ると、つい冷たい口調になってしまった。

そんなテギョンの様子を見て、ミニョはクスリと笑う。


「はい、久しぶりだったんで、楽しかったです。でも・・・」


ミニョの手がテギョンの腕に絡められる。寒さに震えているテギョンを温めるように寄り添い、テギョンを見上げたミニョは、白い息を吐きながら静かに微笑んだ。


「こうしてる方が楽しいです。」


普段人前では自分から腕を組んでくることはないミニョ。ひと気のない冬の砂浜だからなのか、拗ねているテギョンを気遣ってのことか。

少し恥ずかしそうに、でも、ぴったりとくっついて離れないミニョの姿に、テギョンの尖っていた口の両端は、ゆっくりと上がっていった。




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