好きになってもいいですか? 32 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

翌朝、合宿所に帰ってきた私とテギョンさんを待っていたのは、難しい顔をしたお兄ちゃんと、泣きそうな顔をしたジェルミと、複雑な顔をしたシヌさんだった。


「ただいま・・・」


何となく声が控え目になっちゃうのは、やっぱり、その・・・帰って来た時間のせい?


「ミニョ~、出かけたっきり帰って来ないから、心配したんだよー。テギョンヒョンも病院からいなくなっちゃうんだから」


私達の姿を見るなり、リビングからバタバタと駆け寄ってきたジェルミはホッと息をついた。


「病院はジェルミが勝手に騒いでただけだろ。ミナムにはあとでちゃんとメールしたぞ」


「確かにミニョと一緒だってメールが来たけど・・・朝帰りってのは、どういうこと?」


腕組みをしているお兄ちゃんの頬は、痙攣しているみたいにひくひくと、小刻みに動いてる。


「ミニョ、俺やっぱりテギョンヒョンとのこと賛成できない。別れろ、今ならまだ傷は浅くて済む」


「ミナムが口出しすることじゃないだろ」


「俺はミニョの兄だ、口を出す権利は充分にある」


「だったら勝手に口だけ出してろ、俺は聞かないけどな」


「ヒョンはどうでもいいよ、俺はミニョに言ってるの」


お互いにムスッとしているテギョンさんとお兄ちゃんの言い争いは続いていて、私が何て声をかけたらいいか判らず戸惑っていると、「お茶淹れたよ」ってシヌさんに声をかけられた。


「あの二人なら気にすることないよ。いつものことだし、二人とも結構楽しんでるから」


キッチンのカウンターテーブルに湯気の立つ赤いマグカップがコトリと置かれると、「よかったね」と椅子に座った私の頭にふわりと大きな手が乗せられた。

優しいシヌさんの目。でもどことなく寂しそうな感じのする表情は、何度も見たことのあるものだった。







昨夜、雨に濡れた身体はすっかり冷えきっていて、「寒いな」と呟いたテギョンさんは、私を助手席に乗せると車を走らせた。着いた場所はテギョンさんの泊まっているホテル。

お風呂を借りて、着替えも借りて。

ほんの数時間前には、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかった。

シヌさんへの罪悪感を抱きながらもテギョンさんへの想いは消せなくて。自分の気持ちを伝えて、テギョンさんの気持ちを知って。

辛いと思ったことは何度もあるけど、その痛みも些細なことだと思えるほど、今は幸せな気持ちでいっぱいだった。


「合宿所に帰るのは明日でもいいだろ?」


ソファーに座り、ついさっき起こった出来事に頬を緩ませていた私が声のする方を振り向くと、お風呂からあがったテギョンさんが頭から被ったタオルで髪を拭いていた。



明日ってことは、今日は私はここに泊まるってこと?

えーっと、それって・・・



私はキョロキョロと辺りを見回した。

広い部屋の中、寝られそうなのはベッドの他には四人くらいは座れそうな大きなソファーだけ。


「居眠り運転で事故るのはマズいからな」


タオルの下で拳を口に当てたテギョンさんはあくびをしている。

そういえばテギョンさんはドラマが忙しくて眠る時間もあんまりなくて、しかも今日は倒れて病院に運ばれて・・・


「はい、大丈夫です、テギョンさんはベッドでゆっくり休んでください」


ずいぶんと疲れた様子のテギョンさんを見て、慌てて彼の背中を押すと、私はソファーへと向かった。


「おい、どこへ行く、お前がベッドで寝ろ。俺がソファーで寝る」


「そういう訳にはいきません。テギョンさんは疲れてるんです、テギョンさんがベッドで寝てください。私はソファーでも平気です」


「いや、お前がベッドを使え」「いいえ、テギョンさんがベッドで寝てください」とお互いに譲らない私達は、じゃあ一体どうしたら・・・と考え、同時にとある方向に顔を向けた。

解決策はある。お互いの視線の先に――

でも『一緒にベッドで寝ましょう』なんて言えない私は、チラチラとテギョンさんとベッドを横目で見ることしかできない。

しばらくの沈黙の後、私の視線の意味に気づいたテギョンさんは、少し驚いたように「大胆だな・・・」と口にしたけど、その言葉の意味を私が全く理解していないことが判ると、「はぁ~」と大きなため息をついた。


「お前といると、俺の頭は忙しい」


苦笑いを浮かべたテギョンさんは私の手首を掴み、ずんずんとベッドの方へ歩いて行く。そしてベッドに私を押し込むと、その隣に身体を横たえた。


「眠気がどこかいったぞ、責任を取れよ。お前の望み通り俺はベッドで寝るんだから、文句は受け付けないからな」


そう告げられ、テギョンさんに包まれる。

肌に触れる温もりと、ボディソープの香りが私の心臓を跳ね上げた。







「何ニヤついてるんだ」


不意に声をかけられ、慌てた私は危うく手に持っていたカップをひっくり返してしまうところだった。

半分ほど残っている中身は、驚いた私の心臓とシンクロするかのように、水面がゆらゆらと大きく揺れている。


「あれ?みんなは?」


私の隣ではテギョンさんが頬杖をついてこっちを見ていて、部屋には他に人の気配はなかった。


「とっくに仕事に出かけた。お前のそのニヤけた顔を見てミナムは何だかショックを受けてたようだがな。あいつらはみんな揃ってロケで三日は帰って来ないから・・・その間、ここには俺達二人だけだ」


そう言うテギョンさんの顔は何だか嬉しそう。

”ニヤけた”と言われて一度は引き締めた私の口元も、再び綻んでいく。


あ、別に二人きりっていうのが嬉しいんじゃなくて・・・ううん、確かにそれはそれで嬉しいけど、私が喜んでるのは、テギョンさんと一緒にいられる時間がたくさんあるからであって・・・ああ~、でもやっぱり三日間も”二人きり”っていうシチュエーションは特別な感じがして、何だかドキドキして、嬉しいんだか恥ずかしいんだかよく判んなくて・・・


赤くなった頬をさり気なく両手で隠しつつ、ふと隣に目を向けると、テギョンさんが頬杖をついたまま、うとうとしていた。

無防備に居眠りしている姿も絵になるけど、このままじゃあ、いつそのきれいな顔がテーブルに急接近するか判らない。それに、疲れているならベッドでゆっくりと休んで欲しい。

私はそっと彼を揺り起こし、部屋へ行くように声をかけた。

すると、眠たそうに小さなあくびをしたテギョンさんは、立ち上がると私の手を掴んだ。


「行くぞ」


「行くって・・・どこへ?」


「お前が部屋で寝ろと言ったんだろう」


なぜか、一緒に行くのは当然だという顔つきで階段を上ろうとするテギョンさんに、私はちょっとだけ抵抗を試みる。

だってこの様子だと、連れて行かれるのは部屋の中だけじゃないような気が・・・


「嫌なのか?」


振り向いて私を見るテギョンさんは、それ以上何も言わなかった。その目は静かで、まるで私がどう答えるのか判っているみたい。

何だか心の中を見透かされているようでちょっと悔しい気もするけど、もう自分の気持ちを偽る必要はないんだから、素直になればいい。


「嫌・・・じゃ、ない・・・です・・・」


控え目な私の答えに、テギョンさんの口の端が上がっていく。得意げな・・・それでいて、少し意地悪にも見える顔。

テギョンさんのことが判らないって何度も思ったけど、今なら判る。

だってそれは、本当はとても簡単なことだったから。




『俺が好きなのはお前だ』




「ほら、行くぞ」


繋がれたままの手が軽く引っ張られる。

私は高鳴る鼓動にこっそり笑みを浮かべると、温かな手をしっかりと握り返した。




 ―― Fin ――





。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆



どうもありがとうございました。




宜しければ1クリックお願いします

  更新の励みになります

         ↓

   にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
    にほんブログ村   ← 携帯はこちら



  ペタしてね    読者登録してね