You're My Only Shinin' Star (217) ミナムの心 3 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

「ちょっと待って・・・私、相談されるのって苦手だから、アドバイスとか期待しないでね。」


先手を打つようにヘイにそう言われた。

どこか申し訳ないような、でも無理だからと主張している目を見ると可笑しくてクスッと笑ってしまう。


「いいよ別に、相談じゃないし、ただの呟きだから。」


そう、これはただの呟き。どうすればいい?とか、そういう話じゃあない。

全ては自分の心の問題なのだから・・・






母親の顔も知らず、ミニョと二人養護施設で育ったが、母親に捨てられたんだとよくいじめられた。

泣いているミニョに、「僕が有名な歌手になれば母さんに会える」と言って慰め自分でもそう信じていた幼い頃。

ミニョもミナムに期待し、「早くお母さんに会いたい」といつも言っていた。



明日になれば母親が迎えに来るかも知れない。そう思いながら過ごした小学生時代。

学校から帰ると優しい顔をした女性が「お母さんよ」と待っているんじゃないかと何度も思った。

しかし何年経ってもそんな女性は現れなかった。



中学生になり高校へ通うようになってもミニョは母親のことを時々口にしていた。「いつか絶対に会えるよね」と。

だがその頃になるとミナムはミニョとは逆に、母親のことは全く口にしなくなった。


「俺とミニョはずっと養護施設にいたんだ。俺達にはあそこが家だったし、今さら母さんなんて必要なかった。」


現れて欲しくなかった。


顔も名前すら知らない母親を慕っているミニョ。もし母親が現れれば幼い頃からずっと一緒にいて自分が守ってきた妹を取られてしまうような気がして。

どんなにしっかりミニョの手を握っていても、母親を見つけたらミニョはその手を振りほどいて母親のところへ駆けて行く、そう思うと怖かった。

「捨てられたんだ」と何度も言われ、「違う!」と口では言っていても、心のどこかで、もしかしたら・・・という思いが芽生える。

ミニョを守ることで、ミニョに頼られることで、親に捨てられた自分の存在意義を見出そうとしていた。



いつまでも母親のことを口にするミニョに苛立つ。

母さんなんていらない、俺がいればいいだろ?そんな思いを知られたくなくて、いつしかミニョと距離をとるようになった。




母親に会いたいという想いで目指した歌手だったが、純粋に歌うことが好きになっていたミナムは高校の卒業と同時に養護施設を出て、A★Nエンターテイメントの練習生になった。その後三年間ミニョに連絡をしなかった。




子供の頃は大きくなって施設を出たらミニョと二人で暮らすつもりでいた。


『ミニョが結婚するまで俺が傍で守ってやる』


そんな約束を思い出したのは施設を出た後だった。


「俺一人の勝手な感情で一方的にミニョを突き放して俺はミニョをあそこに置き去りにしたんだ。後ろめたくて・・・ずっと連絡できなかった・・・」


レッスンで忙しい日々はミニョへの負い目を忘れる口実にもなった。

A.N.JELLのメンバーに選ばれたがマ室長の口車に乗せられた末のアクシデント。図らずもミニョと連絡を取ることに。


もともとミニョはカトリックだったが修道院にいるのはシスターの手伝いをしているだけだと思っていた。今までミニョの口からシスターになりたいなんて一度も聞いたことがなかったから。

ずっと連絡もせず、残されたミニョがどんな思いでシスター見習いをしていたのかと思うと胸が痛んだ。でもせっかくのチャンスを逃す訳にはいかない。韓国に帰るまでは何としてでもミニョに身代わりをしてもらうしかない。

悩んだ末、マ室長に母親の話をした。


「俺が歌う理由は母さんを捜す為、歌い続けていればいつか母さんに会えると信じている、そうミニョに伝えてくれって、心にもないことを・・・。そう言えばミニョは引き受けると思った。俺はミニョの母さんへの想いを利用した・・・」


シスターになることを諦め、髪を切りミナムとして生活をすることになったミニョ。

マ室長からミニョの様子を聞く度に後ろめたさが募っていく。


「でも俺はミニョに助けてもらっておきながら、ミニョの声を妬んでたんだ。」


ずっとレッスンを受けて三百人の中から選ばれたミナム。

たった一度の歌でテギョンに認められたミニョ。

ふつふつと沸き起こる醜い感情。


どうしてミニョが?


ボイストレーニングなど受けたことがないミニョ。そのミニョが何故・・・

判っている、テギョンが認めたのは歌のテクニックではなく声の質。

しかし、もしミニョがきちんとしたレッスンを受けたら、自分はいらないと言われるんじゃないかと思うと、怖かった。


「確かに俺は大勢の中から選ばれた。でも『皇帝ファン・テギョン』が認めたのはミニョの声なんだ、俺じゃない。」


今でも時々思う。

四人で動き出したA.N.JELL。今更三人に戻すことは出来ないと、そのまま自分を入れてくれたんじゃないかと。


後ろめたさ、心苦しさ、負い目、後悔、懺悔、妬み、恐怖・・・


「色んな感情が俺の中にはあって、それを知られたくなくてミニョにあまり近づこうとしなかった。でも、やっぱり気にはなるんだ。ミニョが傷ついたり悩んでたりすると何とかしてやりたくなる。自分でも何やってるんだろうって時々思うよ。それに今度は結婚するって聞いて。そりゃいつかは・・・って思ってたけど、相談とか全くされなかったことにショック受けてるんだから・・・俺が自分からミニョの傍を離れたのに・・・ホント、俺って自分勝手だよな。」


ミナムの声は次第に小さくなり、最後には独り言のように呟かれた。


突き放したり近づいたり、他人にミニョのことを言われると妙に苛ついたり。自分のとった言動に何であんなことしたんだろうと後悔することばかり。



でも・・・



自分のせいで余計な苦労をかけた妹。

ミニョには幸せになって欲しい。


心の底からそう思う。





「呆れた?俺ってこんな男だよ。臆病で、ずるくて、自分勝手で・・・」


今まで誰にも言わなかった、見せなかった心の内。


「そうね、不器用だってことは判ったわ。呟きだって言ってたから聞いてるだけにしようと思ったんだけど・・・一つだけ言ってもいい?」


ミナムは不安な面持ちでヘイを見る。


「テギョンのことだけど・・・あの男が音楽に関して妥協するとでも思ってんの?実力がなきゃ、即メンバーから外すわよ。あっさりと、冷徹にね。だから・・・仕方なくとか、ミナムの声を認めてないなんてありえない。・・・変なこと考えて落ち込むのはやめなさい。」


ミナムの口の端に微かに笑みが浮かんだ。






「お酒くさいの嫌いだから、今日はベッドに入ってこないでよ。」


顔をしかめてリビングを出て行くヘイの後ろ姿を見送り、ミナムは新たに開けたビールを一口飲む。

口内に広がる苦味が不思議といつもより美味しく感じられた。


「あ~あ、またここで寝るのか、あんまり飲むんじゃなかったな。」


飲み過ぎたことを反省している口ぶりだが、口につけた缶はどんどん傾けられていく。

心の底に淀んでいたものを吐露したせいか、今は体内に入ってくるアルコールに気持ちよく酔えるような気がした。





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