ミニョのイギリス滞在も残すところあと二日。
ミニョは朝食をとった後、離れにある部屋でカトリーヌと声を出すのが日課になっていた。
「伸びのある高音を出す為には肩の力を抜いて。背筋を伸ばして顎を引いて目線を遠くに。姿勢を正せば余分な所に力が入らずに正しく発声できるわ。」
カトリーヌのアドバイスを真剣な表情で聞くミニョ。
一時間ほど発声練習をした後、カトリーヌはミニョを誘い家を出た。
バスに乗り暫く揺られて着いたところは大きな教会。
立派な時計台が目立つ教会は昔から王室ともゆかりが深く、王室の大きな紋章が掲げられている。
教会の中を案内してくれるのかと思ったが、カトリーヌは地下へと下りて行った。
ミニョもそのまま後をついて行くとそこには広いカフェがあった。
「ちょっと早いけど混む前に食べましょう。」
昼時には近くのオフィスの社員も利用するというカフェは昔は地下聖堂だったらしい。
こんな場所で食事ができるなんてと驚いていたが隣にはギフトショップもあるという。
教会に関連したギフトだけでなく本、CD、文房具、アクセサリー等もあり、軽くランチを済ませた二人は店の中を覘いていた。
「ねえ、ミニョ・・・アフリカで会ったイギリス人の男性に歌を聴いてもらいたいって言ってたわよね。」
アクセサリーを見ていたミニョにカトリーヌが話しかけた。
「その気持ちは今でも変わらない?」
「はい、アメイジング・グレイスを聴いていただきたいです。」
棚に並んだネックレスの中から銀色の十字架を手にすると、ミニョはそっと目を瞑った。
アフリカで見たビル・アーリスの表情とアメイジング・グレイスの歌詞を思い出す。
少しでも心が救われますように・・・
一通り店内を見た後地上へ戻って今度は教会の中へ。
「ここで開かれるコンサートはレベルの高さで有名なの。」
ミニョはぐるりと辺りを見回した。
建物は石造りで天井の装飾とシャンデリアがとても美しい。正面祭壇上のステンドグラスは網の模様で大きな十字架が作られていた。
「有名な教会でのコンサートっていうと服装が気になってなかなか行けなかったりするでしょう。でもここはマナーさえ守れば普段着でも楽しめる所なの。」
そのまま真っ直ぐ歩いて行き祭壇へ近づくと、祭壇前には椅子が四脚並べられていた。
ランチタイムコンサート
チケットを購入してのコンサートは夜行われるが、昼は新鋭アーティストに演奏の場を与えるという目的で、入場無料の演奏会が行われている。
カトリーヌが時計を見ながら「あと三十分もすれば弦楽四重奏が始まるわ」と言い、足を止めるとすぐ横の椅子に座っていた一人の男性に声をかけた。
「お待たせしました。」
「どうもありがとう。」
声をかけられた男性はゆっくりと立ち上がるとミニョの方へと向き直った。
「こんにちはミニョさん・・・私の顔を憶えているかな?」
顔に刻まれたしわ、白髪交じりの髪。
一瞬考えたミニョだったがすぐに誰だか思い出し、顔をパッと輝かせた。
「ビルさん!」
ビル・アーリスは口元に笑みを浮かべるとミニョに優しい眼差しを向け、ミニョとカトリーヌを自分の隣へ座るよう促した。
「どうしてここに?お待たせしましたって・・・お二人はお知り合いだったんですか?」
ミニョは目を丸くして自分の右隣に座るビルと左隣に座るカトリーヌを交互に見る。
カトリーヌはミニョから彼のことを聞き、何とかミニョに彼の前で歌わせてあげたいと捜し出したという。
「居場所を捜すのはそれほど難しくはなかったんだけど、いきなり訪ねて行って会って下さるか判らなかったわ。」
「私もまさかソプラノ歌手のキャサリン・ロット・・・いや、キャサリン・ジョーンズが私のもとを訪ねて来るとは思ってもみなかった。」
ミニョの両隣で二人が笑う。
「私のことを憶えていてくれて嬉しいよ。」
「あの、私のことも憶えていて下さってありがとうございます。」
ミニョはビルに向かってペコリと頭を下げる。
「さあ、じゃあ挨拶も済んだことだし、行きましょう。」
「え?」
カトリーヌは立ち上がるとミニョの腕を摑んで引っ張った。
「そんな、せっかくお会いできたのに・・・もっとお話ししたいです。それに弦楽四重奏も聴いていきたいし・・・」
「ねえ、ミニョ見て。」
おたおたと慌てるミニョにカトリーヌは上を指差し、自分でもその先を見上げた。
「高い天井よね。祭壇のところはドームになっていて音響がとても良いのよ。」
突然何を言い出したのかと首を傾げながらミニョも天井を見上げ「はあ・・・」と頷く。
「ミニョの出番は弦楽四重奏の後よ。」
「はい?」
「話なら終わった後でゆっくりできるわ。向こうに控え室があるの、準備しなくちゃ。」
「え?」
「ランチタイムコンサートよ。ビルさんに聴いてもらいたいって言ってたでしょ。私も昔、ここでお世話になったことがあるの。もともと今日の予定は弦楽四重奏だけだったけど、ミニョのことお願いしちゃった。」
ミニョにはニッコリと笑うカトリーヌがいつもの優雅な微笑みというより、悪戯っ子がにんまりと笑うように見えて・・・
「あ、あの、ちょっと、そんな、いきなり・・・」
腕を摑まれたままのミニョは引っ張られるとカトリーヌとビル、教会内に集まりつつある人々に順に目を向け、おろおろしながらカトリーヌの後をついて教会の外に出た。
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メッセ送ったんですけどお返事がないようなので、再度こちらからご連絡します。
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よろしくお願いします。
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『アメンバー申請について』っていうタイトルで記事を書くより、こうしてお話の後にお知らせとして載せた方がきっと気付いて下さる・・・よね?
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