静まり返った部屋の中、ジェルミは壁に掛けられた時計の時を刻む音がやけに大きく聞こえるような気がした。
テレビ局の控え室。
音楽番組の出演の為にA.N.JELLのメンバーがこの部屋に入ってからずいぶん時間が経つ。
衣装もメイクもとっくに準備はできているのに、いつまでたってもスタッフが呼びに来ない。
「すみません、まだしばらくかかりそうです」と進行の遅れを伝えに来るだけで、出番だという声がかからない。
大きな鏡の前にある椅子に深く腰掛けているテギョンの後ろからこっそりと顔を出したジェルミは、鏡越しにテギョンと目が合いその眼光の鋭さに声も出せずに後ずさりした。
「あんなに機嫌の悪いテギョンヒョン見るの久しぶりだよ。」
こそこそとミナムに耳打ちをして隣に座るとジェルミは少し離れた場所からテギョンの様子を窺った。
無言で腕組みをしているテギョンは口元を歪ませ目の前の鏡を睨みつけている。
テギョンの発する不機嫌オーラは時間の経過と共にその範囲を広げ、今や同じ部屋の中にいるのさえ息苦しく感じると、ジェルミは大きく口を開け何度も深呼吸をした。
「タイミングが悪すぎたな。」
ジェルミとは反対側のミナムの隣に座っていたシヌがコーヒーカップに口をつけながら小さな声で言う。
「タイミングっていうか、運が悪いんじゃない?」
ミナムがチョコでコーティングされたアーモンドを一粒摘むとポイッと口に入れ、カリカリと音を立て食べ始めた。
今日の収録、酷い渋滞で出演者が集まるのが遅れた。暫く待たされ予定より遅れて収録が始まると、歌っている最中に突然一人の歌手が倒れた。騒然とするスタジオの中、収録を一時中断し、救急車を呼びその歌手が運ばれていった。
緊張した新人歌手はミスを連発し、腹痛を訴えた司会者はトイレに籠ったまま。
度重なるアクシデントにテギョンの苛々は蓄積されていく。
挙句の果てに機材が故障し、控え室で待たされ・・・
テギョンはペットボトルの水を飲むと壁に掛けられた時計を睨みつけた。
「あのグループ、いくら新人だからって緊張しすぎじゃないか?何度撮り直しをするつもりだ。」
収録が再開され、重い空気が充満する部屋にスタジオの様子を見に行っていたマ室長が戻って来た。
「テギョン、廊下ですれ違った時にさっさと終わらせろってプレッシャーかけただろ。多分あれで余計に緊張したんだろうな。」
「何?俺のせいだって言うのか?」
「そんなに睨むなよ、収録が長引くことなんて珍しくもないだろ。まあ確かに今日は何か変だけど・・・」
いつにも増して機嫌の悪いテギョンにマ室長はジェルミの傍で身体を縮こまらせた。
「しょうがないよ、今日からミニョがイギリス行っちゃうんだ。これが終わったら空港まで送って行く予定だったみたい。」
ジェルミはすぐ横で身体を小さくしているマ室長に小声で話しかけた。
「そんな日にこんなにトラブルなんて、ホントついてないよな。」
今日、ミニョがカトリーヌとイギリスへ発つ。
収録が終わったらその足でミニョのもとへ行き、出発までの僅かな時間を一緒に過ごす筈だった。
だが未だに収録が終わらないのではどうしようもない。出発の時間は迫っている。
「マ室長・・・ミニョを空港まで送ってやってくれないか。」
眉間にしわを寄せたまま、思うように進まないことへの苛立ちを腹の中に収めると、テギョンは静かな声で言った。
「俺が?でもまだお前達終わってないじゃないか。俺がいないとマズいだろう。」
「テレビに出るのは俺達だ、マ室長が出る訳じゃない。そういえばこの間俺が渡した楽譜、何故だかミニョが事務所まで持って来たんだが・・・」
なかなか動こうとしないマ室長だったが腕組みをしたテギョンに上から見下ろされギロリと睨まれると、ハハハと乾いた笑いを顔に浮かべ慌てて部屋から出て行った。
テギョンはマ室長が消えていったドアを見て小さく舌打ちをすると、再び椅子に座り携帯を手にする。
「ミニョ、すまない、やっぱり行けそうにない。」
静かな控え室にテギョンのため息まじりの声が響く。
出発前にミニョに会えなくなったことが残念で、行くと言っていたのに行けなくなったことが悔しくて・・・
不機嫌には違いないが、今までの苛ついていた感じから沈んだ感じになったテギョンに、ジェルミがこそこそと近づき始めた。
「あ、いや、今マ室長を行かせたからマ室長に空港まで送ってもらえ。どうせこっちにいたってあまり役に立つとは思えない。」
今日テレビ局に入ってから初めてテギョンの表情が少しだけ柔らかくなり、話をする声にも笑みが含まれて聞こえる。
「こちらこそ、本当にありがとうございました・・・はい、是非。」
テギョンの口調が変わったことにジェルミは首を傾げながらなおも近づいて行く。
ジェルミが丁度テギョンの真後ろに来た時、ドアが開きスタッフがペコペコと頭を下げながらA.N.JELLを呼びに来た。
「ああ、悪い、時間がなさそうだ、出番らしい。」
シヌとミナムが立ち上がりテギョンのすぐ後ろでコソコソと聞き耳を立てているジェルミの襟首を摑むと部屋の外へと引っ張って行く。
ジェルミは「ミニョと話したかったのに~」と、バタバタと暴れながら廊下を引きずられていった。
テギョンもスタジオへ行こうと立ち上がりかけたが、その身体がピタリと止まった。
「ミニョ・・・」
顔を綻ばせながらも少しだけ口が尖り出す。
「電話じゃないのか?・・・そうか、なら俺から電話する。・・・気をつけて行ってこい。」
収録が終わり控え室に戻ってひと息ついていたA.N.JELLのもとに、マ室長の言っていた新人グループがやって来た。テギョンの機嫌がかなり悪いと聞いた彼女たちのマネージャーが謝りによこしたのか、入り口のところで何度も頭を下げている。
テギョンはそんな彼女達の姿など目に入らない様子で携帯をじっと見ていた。
そろそろ空港に着いた頃だろうかと、つい今しがたミニョへ送ったメール。
『ミニョ、サランヘ』
その返信メールに頬を緩ませながら。
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― ピグのお部屋より ―
ピザ、ミニサンタケーキ、クッキー、コーヒー、シュト―レン、緑茶、ホワイトスープ、サボテン、シェイク、でっかいスイカ(黄)
冬にスイカ・・・何だか贅沢って感じがしますね~って、私だけか?
ありがとうございま~す。
― ピグライフより ―
たくさんのクリスマスお菓子、雪タイル、Thank You看板
ありがとうございました。
お菓子の入ったクリスマスブーツ。
うちの子供達はブーツの大きさに関係なく1度は足を突っ込みます(笑)
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