『多くの女性の一人として書かれることになるんですか?』
ミニョもいずれはゴシップ誌に、テギョンの『過去の女』と書かれるだけの存在になるのかと危惧するハン・テギョン。
何を言い出すのかと訝しむテギョン。
二人は事務所の前で互いの心の内を探るように相手の表情をじっと見ていた。
「あの雨に濡れていた日だってテギョンさんが原因なんでしょう?」
バス停で傘も差さずに雨に打たれていたミニョ。ハン・テギョンは放っておくことができず車へ乗せた。
付き合っている男の存在をうすうす気づいてはいたし、時には喧嘩をすることもあるだろうと思った。
ミニョの口から好きな男がいると告げられ、何度か会ったことのある男だと判った時も素直にその事実を受け入れた。
だが相手がA.N.JELLのファン・テギョンだと判ると彼は悩み出した。
記事に載る女性の名前は次々に変わる。
交際発表をしても「どうせ今回もすぐ別れるだろう、ユ・ヘイとがそうだったように・・・」という話が耳に入ってくる。
ファン・テギョンという男とはそういう奴なのか?一人の女性を愛し続けることができないような男が彼女の傍にいるのか?
ミニョのことを忘れられずにいた心が騒ぎ出す。
ミニョが幸せならそれでいいと思っていた。しかし、ミニョが不幸になるのならたとえ相手が皇帝と呼ばれる男であろうとも黙ってはいられない。
「あれは・・・」
テギョンはあの日のことを思い出す。
確かにテギョンのキスシーンを偶然ミニョに見られてしまったからだが、あれはどちらかが悪いとかそういう類のものではない。
「俺達二人の問題だ、あんたが口を出すことじゃない。」
「それはそうかも知れない・・・でも、ユ・ヘイさんとの交際を大きく報道されて、その後すぐに別れるような人とミニョちゃんが付き合っていると思うと嫌なんだ。ミニョちゃんだっていつユ・ヘイさんみたいにテギョンさんに捨てられるか判らない。」
「何?」
ハン・テギョンの強い語尾にテギョンの眉がピクリと動く。
「大勢の報道陣の前で平気でキスして、交際発表したと思ったらすぐに別れるような人が本気でミニョちゃんと付き合ってるとは思えない。」
険しい表情のハン・テギョン。
「違います!誤解です!」
ハン・テギョンがなおもテギョンを責める言葉を繰り返していると、それを遮るようにミニョの声が聞こえた。
「ミニョ、どうしてここに・・・」
「ミニョちゃん・・・」
事務所の玄関前に姿を現したミニョは二人の間に入るように立つ。
二人の男は突然現れたミニョに驚き、互いに向けていた視線をミニョへと移した。
「でも、テギョンさんがユ・ヘイさんとの交際発表をしてすぐに別れたのは事実だろう?」
「あの、それは・・・誤解なんです。」
ヘイとのことはミニョがミナムの代わりをしていたことを隠す為に、ヘイに脅されて恋人のフリをしていただけのこと。
それなのに、テギョンが自分のことを守ろうとしてやってくれたことが今責められている原因なのかと思うとテギョンに申し訳なくて。
しかし、あの時の真相を話すことができないミニョは、誤解ですと繰り返すしかない。
「ミニョちゃんは騙されてるんだよ。A.N.JELLのことをあまり知らない僕の耳にも入ってくるんだ、ファン・テギョンの噂は。どうせすぐに別の女の人と一緒にいるだろうって、ユ・ヘイさんの時みたいにすぐに別れるだろうって。」
「ヘイさんの時のことは・・・」
「ミニョちゃんはこの男のファンだから、この男のいいところしか見えてないんだ。今だってミニョちゃんに弁明させて、自分では何も言わずに黙ってるじゃないか。」
「ですからそれは・・・」
「きっと面倒だと思ってるんだよ。」
「そんなことありません。」
「ミニョちゃんは知らないだけなんだ、本当はひどい奴なんだ。」
「違いますっ!」
いつもニコニコと笑みを浮かべている顔とは違い、初めて見る険しい表情のハン・テギョンに戸惑いながら否定の言葉を口にしていたミニョだったが、最後には大きな声でキッパリと言い切った。
ミニョの強い口調にハン・テギョンは驚き口を閉ざす。
「オッパのことそんな風に言わないで下さい!」
ハン・テギョンの正面に立ち彼の顔をキッと見上げる。
「どうしてそんなことを言うんですか?本当のオッパを知らないのはテギョンさんや皆さんです。オッパがどんなに優しい人か・・・どれほど私のことを想ってくださっているのか知りもしないで・・・オッパのことを悪く言うのはやめて下さい!」
強い意志を持った大きな黒い瞳がハン・テギョンを見据える。
ミニョは唇を噛むと溢れ出そうになる涙を堪え、ぐっと息を詰めた。
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