ブレーキを踏み車を停めるとライトを消しエンジンを止める。
「一応外で座れる人目のない静かな場所と考えたら、こういう所しか思いつかなかった。別に二人でゆっくりと話が出来れば車の中でも良かったんだが・・・空気が悪すぎる。お前のため息で車の中は一杯だ、降りるぞ。」
テギョンは車から降りると深呼吸をするように大きく腕を広げゆっくりと息を吸った。
少し遅れて車から降りたミニョはテギョンに手を摑まれ大股で歩くテギョンに小走りになりながらついて行く。
駐車場から舗道を歩き暫く進むと芝の生えている広場に出た。暗い公園は街灯がいくつかあるだけで人の気配はまるでない。
「ここならゆっくり話せる。」
ミニョの手を摑んだままベンチに座るテギョン。
立ったままのミニョの手を引っ張り座らせると夜空を見上げた。
高い位置に浮かんでいる月は小さく見えテギョンは目を細めると降り注ぐ柔らかな光のもとへと顔を向けた。
「月は見えるが・・・星も出ているのか?」
「はい・・・でも周りが少し明るいせいでしょうか、少ししか見えません。」
雲はそれ程なさそうだが、公園の街灯の灯りであまりよく見えない。
ミニョはぐるりと夜空を見回した後、テギョンへと顔を向けた。
でも私の隣の星はいつでも一番輝いて見えます・・・
「で?ため息の理由は何だ?俺のことが原因なんだろう?」
不意にミニョの顔が曇る。
ミニョの顔を見ているテギョンも徐々に難しい顔になってきた。
ミニョが悩む原因に心当たりがない。ミンジとのことが騒ぎになった件は彼女との関係を完全否定したし、何よりミニョがその場に一緒にいたのだからそのことについて誤解したり、悩むようなことは何もない筈。
ミニョとの交際を公表したことか?しかし、元々アン社長に止められていただけで公表すること自体ミニョが反対していた訳ではないし・・・
まさかマンションに泊まった日・・・
ミニョの身体につけた 『しるし』 を施設のシスターに見られて何か言われたのか?
それともカトリーヌさんか?・・・いや、彼女なら見られてもミニョが恥ずかしいと思うだけで悩むようなことでは・・・
それに第一、ワイドショーを見てため息をついているなら 『しるし』 は関係ないだろう。
一体何なんだ?俺の方が悩むぞ。
ミニョの返事の予測がつかないテギョンはミニョが話し出すのを苛々しながらじっと待っていた。
「私・・・判らないんです。自分で考えろって言われるかも知れないけど・・・一生懸命考えたけど・・・どうしても判らなくて・・・・・・。どうしたら恥ずかしくない私になれるんでしょうか。」
ゆっくりと話し出したミニョは問うような視線をテギョンへ向ける。しかし何のことだかさっぱり判らないテギョンは首を傾げることしか出来ない。
「何を・・・言ってるんだ?」
「私は・・・芸能人でも、年上でも、お嬢様でもないただの事故多発地帯で、オッパに迷惑ばかりかけて自分でも何でこんなにダメなんだろうって思ってました。私がこんなだから、オッパが私のことを恥ずかしいと思っても仕方ないって・・・。でもどうしたらいいのか判らなくて・・・・・・。私はもっとオッパに会いたいのに・・・私はどうしたらオッパにとって恥ずかしくない存在になって、普通にオッパに会えるようになるんでしょうか。」
テギョンの服の袖を摑み縋る様な目で見つめてくるミニョにテギョンの頭の中は疑問符しか浮かんでこない。
「一部理解できて一部嬉しいところはあったが、それ以外は全く判らないぞ。恥ずかしいとかどうしたら普通に会えるとか、何のことだ?」
ミニョの問いにテギョンも問いで返す。
「だってオッパ、恋人がいるって記者の皆さんの前で言ったのに、会えないって・・・。テレビで言ってました、恋人のことについてあまりしゃべらないのは恥ずかしいからじゃないかって。私のことが恥ずかしいから・・・知られると恥ずかしいような存在だから・・・記者に知られたら困るから会えないんじゃないかって思ったら、どうしたらいいか判らなくて・・・」
縋りつくような目でテギョンを見ていたミニョの顔が徐々に下がっていく。
俯き、下唇を嚙み、真剣に悩んでいるミニョには悪いがテギョンはすぐには声がかけられなかった。
一体何をどうしたらそんな考えになるんだ?
テギョンは俯いたままのミニョをじっと見つめた。
ああ、そう言えば・・・こいつは俺が好きになっても構わないと言ったらファンクラブに入会するし、一緒に住もうという言葉をスルーしたと思ったら家賃を払うというし、まったく・・・こいつは頭の中まで事故多発地帯だ。時々俺の予想を軽く超えた考え方をする。
「ミニョ・・・そういう場合の恥ずかしいって、普通照れてるって意味で使わないか?」
まあ俺の場合照れていた訳ではないが・・・
テギョンは、はぁ~~~という長いため息をつくとミニョが悩んでいる理由にクラクラと眩暈を起こしそうになったが、
「え?」
ミニョのあまりにも素っ頓狂な声と自分を見つめる間の抜けた顔にプッと噴き出すと口に拳を当てて笑い出した。
「で、でも・・・私のことを隠さなくていいならどうして記者が後をつけてくるから会えないなんて電話で言ったんですか?」
「それは・・・お前に迷惑がかかるかと思って・・・しつこい記者もいるから嫌な思いをさせたくなかった。」
口に拳を当てたまま小さく肩を揺らすテギョンの目が優しい。
自分の勘違いに一瞬で顔を真っ赤にさせたミニョは視線を落としながらゆっくりと大きく息を吸った。
「じゃあ・・・」
『思っていることをちゃんとテギョン君に聞いてもらいなさい。』
今までならその先にある想いを口に出さずに黙ったままでいたかも知れない。
でも今はテギョンに聞きたい、聞いて欲しい、伝えたい・・・
カトリーヌの言葉に後押しされるようにミニョは次の言葉を口にする。
「私が迷惑じゃないと言えば・・・会えるんですか?」
テギョンの揺れていた肩が止まる。
「お前はどうしたいんだ?」
ミニョを見つめる優しかったテギョンの目が少し意地悪なものに変わっている。
口の片端を上げ、ミニョからの言葉をその口から引き出そうと小さくニヤリと笑った。
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― ピグのお部屋より ―
「オッパ、これジェルミが日本の時代劇みたいでしょって言ってくれたんです。一人で食べてねって言われたんですけど、たくさんあるからオッパも一緒に食べましょう。」
ミニョがテーブルの上にある箱をテギョンに見せた。箱の中にはずらりと饅頭が並んでいる。
最近ミニョとジェルミは日本の時代劇に嵌っているらしく、よく二人でテレビの話をしていた。
「日本の時代劇みたいって・・・ただ饅頭が並んでるだけに見えるが・・・」
そう言いながら昨日ミニョが見ていたテレビを思い出す。
『お代官様、どうぞお納めください。』
『これは何じゃ?』
『お代官様のお好きな山吹色の菓子でございます。』
『・・・フッフッフッ・・・越後屋、お主も悪よのう。』
『いえいえ、お代官様ほどでは・・・』
確か越後屋という男が渡した饅頭の箱の中身は小判だったな・・・
「ミニョ、ちょっと貸してみろ。」
テギョンが饅頭の箱の中を探っていると、饅頭の下にはカードが一枚。
テギョンはミニョに見えないようにこっそりとカードを開いた。
『 ミニョ 今度二人でカレー食べに行こうね
もちろんその後はアイスだよ♪
ジェルミ 』
ジェルミの奴・・・
饅頭の箱をミニョへ渡し、カードを自分のポケットへと突っ込む。
「本当だ、日本の時代劇みたいだな。」
下心ありありのところがそっくりだ・・・
テギョンはポケットの中のカードをくしゃっと握りしめるとジェルミの顔を思い浮かべ口の片端を上げた。
*:.。。.:゜ *:.。。.:゜ *:.。。.:゜
いつも色々とありがとうございます。
マリーちゃんのふうせん、オムライス、かき氷、そしておまんじゅう。
今回はこのおまんじゅうが 『悪代官に差しだす高価なまんじゅう』 ということでこんな感じになりました。
あれ?食べ物の話なのにまだ食べてない。
きっとこの後で食べたんでしょうね・・・ほとんどミニョが。
だってテギョンが食べたいのは・・・・・・
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