コンビニから出て電話を終えたミニョはいきなり腕を摑まれ車に乗せられると驚いた表情で運転席へと顔を向けた。
「オッパ、どうして・・・」
「チッ、さすがにこれじゃ運転できないな。」
テギョンはサングラスを取ると急いで車を走らせる。
「ミニョ、シートベルト。」
目を丸くしていたミニョはテギョンに促されごそごそとシートベルトを締めた。
「オッパ、どうして・・・マンションには来れないって今電話で・・・」
「だからお前がマンションに着く前に来たんだろう?」
確かにここはマンションから数百メートル離れている。でもだからといってまさか、ついさっきマンションへは行けそうにないと話していたテギョンが目の前に現れるとは思っていなくて。それに車もいつもの青い車とは違う、もっと小さなコンパクトカー。
「この車・・・」
「ああ、これか、事務所の車を借りてきた。俺のは皆に知られているからな。」
「それに大事な用事があるって・・・」
「だからここにいるんじゃないか。今日一日のうちで一番大事な用事だ。」
口の片端を微かに上げ、ハンドルを左に切るテギョン。
「オッパ、そっちじゃないですよ、今のとこ右です。」
もうオッパったら、こんな近くで迷うなんて・・・
「判ってる、わざとだ、マンションへ行くんじゃないからな。お前・・・今、俺が迷ったと思ったんじゃないだろうな。」
「えっ?いいえ、全然、思って、ません。」
パッと顔を逸らすミニョをフンと疑わしそうに目を細めて見るテギョン。
さっきまでの塞いでいた気分がテギョンの姿を見ただけで、目の前のテギョンと会話を交わしただけで、あっという間に明るい気分に変わっていく。
やっぱりオッパは凄いですね・・・
それでもやっぱり出てしまう小さなため息をテギョンに見られないようにミニョは窓の方へと顔を向けた。
「オッパ、私カトリーヌさんにお買い物頼まれてたんですけど。」
すぐに帰るつもりだったミニョはカトリーヌに電話をかけた。
『ああ、ミニョ、テギョン君に会えたみたいね。買った物はテギョン君に渡して。遅くなってもいいから、ミニョの思ってることをちゃんとテギョン君に聞いてもらいなさい。』
意外なカトリーヌの言葉にミニョは暫く携帯を耳に当てたままでいたが、ゆっくりとポケットへしまうと手に持った水のペットボトルを見ながら小さくため息をついた。
ミニョの思ってること・・・ああ、やっぱり、カトリーヌさんには判っちゃうのね・・・
「ミニョ、水。」
ペットボトルを見つめたままのミニョにテギョンが手を伸ばす。
「あ、はい、どうぞ。」
テギョンの声にハッとしてミニョはキャップを開けるとボトルをテギョンへと手渡した。
「どういうことなんですか?カトリーヌさんはオッパに会えたみたいねって、お水もオッパにって・・・。まるで私がオッパに会えるように買い物に行かせたみたいな・・・」
「まるでじゃなくて、その通りだ。」
テギョンはゴクゴクと水を飲み、ボトルをミニョへと返すと手の甲で軽く口を拭った。
「カトリーヌさんから電話があった。ミニョの様子がおかしいって。」
チラリとミニョを見ながらテギョンは話しを続ける。
「ワイドショーを見てはため息をついてボーッとしたり、考え込んだり。俺のことで何か悩んでるみたいだから寝不足で怪我をする前に話を聞いてやって欲しいって。二人で解決しなさいと言われた。」
「・・・・・・」
何も言わずに手に持ったペットボトルを握りしめているミニョを見てテギョンもそれきり何も言わない。
ミニョは一瞬開きかけた口を閉じると下唇を嚙み、窓の外の暗闇を眺めた。
先程までは店の灯りで明るく賑やかだった歩道。
今は住宅街にさしかかったのか辺りは暗く人通りもほとんどない。
時折対向車のライトに照らされ窓に映る自分の顔を見てミニョはまたため息をつく。
沈んだ表情・・・
きっとこんな顔してるからカトリーヌさんにも心配かけちゃうのよね・・・
「十回目だ。」
「え?」
「車に乗ってから今ので十回目のため息だ。こんな短時間にそんなにため息をつかれると・・・一緒にいるのが嫌なのかと思うぞ。」
不意にかけられた言葉にミニョがテギョンの方を見ると、テギョンは口を尖らせていた。
「違います、そんなんじゃありません、嫌だなんて・・・」
慌てて否定の言葉を口にするが、ハッキリしないミニョの語尾と表情にテギョンの口は尖ったまま。
嬉しいのに・・・どうしてだか素直に喜べない・・・
ミニョは自分でもどう答えていいのか判らず、口から漏れるため息に慌てて手で口に蓋をする。
「はぁ~~・・・まったく、俺にまでうつってきたぞ。」
テギョンは自分の口から出るため息に苦笑いをすると、そのまま闇の中を走り続けた。
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