思いがけないテギョンの宿泊。
テギョンがマンションに泊まることは時々あるが、突然と言うのはやっぱり少し緊張してしまう。
抱き上げられ至近距離にある綺麗な顔にドキドキと鼓動が速くなる。
そのままテギョンを見つめていると、どんどん緊張して自分でも顔が赤くなっていくのが何となく判った。
気づかれたくなくて視線を下に向けると自分の着ている服が目に入る。
あ、そう言えば、お風呂入ってない・・・
練習から帰って来たら入るつもりでいた。
色んなことがあってつい忘れてしまっていたが、思い出してしまうとそのままベッドに入る気にはなれなくて。せめてシャワーだけでも浴びたいと思うと、俯けていた顔を少しだけ上げた。
「オッパ、シャワー浴びたい、です。」
ミニョがそういうと歩いていたテギョンの足がピタリと止まった。
そのままミニョの顔を覗き込むように見て少しだけ首を傾げる。
あ・・・いや、違う。ミニョはただ単にシャワーを浴びたいと言っているだけだ。その言葉に深い意味がある筈がない・・・
テギョンは小さくため息をつくとミニョを浴室へと連れて行く。
「ごめんなさい、折角薬塗ってもらったのに・・・とれちゃう・・・」
「後でまた塗ればいいだけのことだ。足、気を付けろよ。出たら俺を呼べ、部屋まで連れて行ってやるから。」
テギョンはミニョをゆっくり下ろした。
シャワーを浴びたミニョを部屋まで運び、足首に薬を塗ると今度はテギョンがシャワーを浴びに行く。
「先に寝ていろ。」
そう言って部屋を出て行くテギョンの背中を見ながらミニョは小さくため息をついた。
「何だかいっつも迷惑かけちゃって・・・ハァ~・・・」
痛めている足首を見る。動かすと少し痛い。足を床につけるともう少し痛みが増した。
怪我をしていることをテギョンが知れば心配するから。
心配かけたくないから平気なフリをしていたのに気づかれてしまった。
どうして気づいちゃうんだろう?心配かけたくないのに・・・迷惑かけたくないのに・・・
今日もミンジを見かけてつい出て行ってしまったが、結局テギョンに助けられた。もし、写真でも撮られていたらまた迷惑をかけてしまう・・・
なのに、こうして一緒にいられる時間が出来たことを心のどこかで喜んでいる。
「ダメだな、私って・・・」
ミニョが何度目かの小さなため息をついた頃、テギョンがドアから姿を現した。
「何だ、まだ寝てなかったのか。作曲部屋のソファーでもすぐに寝るくせに、ベッドだと眠れないのか?・・・そうか、合宿所で寝ていたんだったな。」
テギョンはクッと笑うとベッドに腰掛けた。
ふう~っと息を吐き、水の入った青い瓶に口をつけるテギョンを見ながらミニョはマ室長の言葉をふと思い出した。
『はぁ~、何か私ってオッパに迷惑ばっかりかけちゃうな。怒ってるかな・・・』
『ミニョさん、だったらテギョンに膝枕してあげたら?』
ミニョのマンションへ向かう途中、店の中へと消えていくテギョンの背中を見ながらミニョはいつの間にか思っていたことを口に出してしまっていたらしい。マ室長が後部座席を振り返り、ミニョに言葉をかけた。
『え?』
『きっと喜ぶよ。』
『膝枕・・・ですか?』
『そう、怒っててもきっとそれでテギョンの機嫌、良くなるから』
膝枕・・・
よく判んないけど、オッパが喜ぶなら・・・
「あの、オッパ・・・どうぞ・・・」
「ん?」
「あれ?えーっと、どっち向いたらいいんだろう・・・いたた、足首痛い・・・んー、足伸ばしててもいいですか?」
ベッドの上で何やらごそごそと動き、座ったまま向きをあちこち変えているミニョにテギョンが怪訝な顔をする。
「・・・何やってるんだ?」
ミニョは取り敢えずいつも寝るよりも端に寄り、足を伸ばして座ると自分の太腿を指差した。
「あ、あの・・・膝枕・・・」
膝枕?ああ、なるほど・・・
テギョンはゆっくりと上がっていく口の両端を隠すように拳を押し当てると、コホンと一つ咳払いをして寝転がりミニョの太腿に頭をのせると目を瞑った。
「もっと、力抜いていいですよ。」
初めてのことに少し緊張しているのか身体に力が入っていたようで、ミニョにそう言われフッと全身の力を抜き、頭をミニョの太腿に預けた。
「・・・どうですか?」
ふーーっと息を吐き、ゆっくりと瞼を開けると赤い顔で覗き込んでいるミニョと目が合い思わず視線を逸らせた。
「ああ・・・いいな・・・」
こんなことで動揺しているのを悟られるのが嫌で努めて平静を装い短く答える。
口元に拳を押し当てたままのテギョンに、ミニョは微笑むとそっとテギョンの髪に触れた。
「良かった。でも何だか変な気分です。恥ずかしいのに・・・嫌じゃなくて・・・幸せな気分。小さい頃、院長様にこうしてもらうと凄く落ち着いて、まるでお母さんにしてもらってるみたいな気がして、嬉しかったのを思い出します。」
ミニョはゆっくりと、母親が小さな子供にするようにテギョンの頭を撫でそっと目を瞑る。
テギョンは自分の頭に触れるミニョの手を心地よく感じながら、「俺には・・・」と言いかけて口をつぐんだ。
「俺にはそんな思い出はない・・・」そう言いそうになったが、それを聞いてミニョがどんな表情をするか容易に想像できる。
今はミニョの微笑みだけを見ていたいと思うと、そのまま黙ってミニョの顔を見上げていた。
暫くするとテギョンの頭を撫でていたミニョの手が止まった。よく見るとミニョは口元に笑みを浮かべたまま眠ってしまっている。
プッ・・・クックッ・・・この状態で普通寝るか?
膝枕をされている方なら判るが、している方が先に眠ってしまうなんて。
やっぱりどこでも・・・いや、どんな状況でも眠れるんだなと小さく笑いながらミニョの身体をベッドへと横たえる。
「本当にまったく・・・人の気も知らないで・・・」
テギョンは小さく息を吐くとミニョの顔を見ながら何か思いついたらしく、口の片端を少しだけ上げた。
「今度は・・・ちゃんと憶えているからな・・・」
ミニョのパジャマのボタンを一つだけ外し、そこに唇を寄せる。
「んっ・・・」
一瞬ピクンと反応するミニョの身体から慌てて唇を離すと鎖骨の辺りに赤い痕が一つ。
そのまま二つ目のボタンに手をかけそうになるのをぐっと堪えると、外したボタンを元通りに嵌めミニョを両腕で包み込んだ。
「俺はすぐには・・・眠れそうにないな・・・」
はぁ~~という長いため息の後、ミニョの顔を自分の胸に押しつけるように抱きしめた。
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