ミンジを見送ると、二人は車に乗り込んだ。
「カトリーヌさんは戻って来たのか?」
「いえ、明日の・・・あ、もう今日ですね、お昼には帰って来るそうです。」
ソプラノ歌手としての活動を再開したカトリーヌはイギリスへ帰ることが多くなっており、一週間程前に韓国を発ち、当初の予定では昨日帰って来る事になっていた。
テギョンはそれきり黙ったままで眉間にしわを寄せると、ミニョのマンションへ向かう途中一軒の店の前で車を停めてもらい、一人で店の中へ入って行った。
「合宿所には帰らないから、朝ここに迎えに来てくれ。」
マンションの駐車場でミニョと一緒に車を降りたテギョンがマ室長に迎えの時間を確認する。
「おいテギョン、泊まってく気か?アン社長が知ったら煩いぞ。」
テギョンは気を付けるからと無理矢理マ室長を帰らせた。
車の中でもほとんどしゃべらず、エレベーターの中でも無言のまま。腕組みをして相変わらず眉間にしわを寄せていたテギョンは玄関のドアが閉まり靴を脱ぐと黙ったままミニョを抱き上げた。
「きゃっ!オッパ、何ですか急に・・・下ろして下さい。」
驚き目を丸くして軽く足をバタつかせるミニョの抗議を無視してリビングまで歩いて行き、ソファーにミニョを下ろすと手に提げていた袋をテーブルの上に置き上着を脱いだ。
「脱げ。」
「はい?」
「早く脱げ。」
ソファーに座ったミニョを跪くようにして見上げるテギョンの目は怖いほど真剣に見える。
思わずのけ反り服の胸元をギュッと握りしめるミニョ。
「バカ、違う・・・靴下だ。」
テギョンはフッと笑うとミニョの右足をそっと持ち上げゆっくりと靴下を脱がせた。
「痛っ・・・」
ミニョの顔が痛みで歪む。
「ほら、やっぱり・・・少し腫れてるぞ。」
テーブルの上に置いた袋の中から薬を取り出し、右足首の腫れている部分に丁寧に塗っていく。
「どうして知ってるんですか?足を痛めてるって。」
「ミンジの携帯を取りに車に戻った時、歩き方が変だったから・・・いつからだ?」
「たぶん合宿所の階段を走って下りた時だと思います。最後の段を踏み外しちゃって。」
そう言えば電話をしている時そんな事を言っていたなとテギョンの口元が歪む。
「その時は大丈夫だったんですよ。ちょっと違和感はありましたけど、それほど痛くは・・・」
テギョンの怒った様な表情にミニョはしゅんと俯いた。
「また迷惑・・・かけちゃいましたね・・・・・・怒ってますか?」
薬を塗るテギョンを上目遣いで見ていたミニョの視線が段々と下がっていく。
「オッパ明日から海外ロケで忙しいのに・・・今日はゆっくり眠って欲しかったのに、私のせいで・・・」
合宿所に帰って来てすぐに休む筈だったのにミニョをマンションまで送って行くことになり、その上ミンジまで途中で拾って送って行く破目に。
ミニョは自分が練習室で眠ってしまわなければと、唇を噛んだ。
「迷惑だなんて思っていない、心配してるだけだ。怒っているとしたら・・・何とかしようとして一人で車から降りたことだけだ。」
薬を塗り終えたテギョンはミニョの足をそっと床に下ろし、手を洗いに行く。
「忙しいのはいつものことだし・・・今日は熟睡できそうだから問題ない。それとも・・・」
テギョンは再び跪くようにしてミニョを見上げると口の片端を上げた。
「俺を寝かせないつもりか?」
ミニョの頬へと手を伸ばす。優しく包み込むように触れると額と頬にキスをし、軽く唇を重ねた。
「今日はなるべく足を動かさないようにしろ。部屋へも俺が連れて行ってやる。朝、痛みが引かない様なら医者へ行け。俺は朝にはここを出るからついて行ってやれない。カトリーヌさんが昼には帰って来るなら大丈夫だとは思うが・・・。仕事も・・・お前は休まないと言うだろうから、無理はするな。子供達とサッカーしたり走り回るのは禁止だ。動き回るような仕事は代わってもらえ。あとは・・・」
真剣な表情であれこれと注意事項を並べ立てるテギョンにミニョはこっそりとため息をつく。
「本当にオッパは心配性ですね。」
「なっ・・・お前じゃなきゃこんなに心配しない。事故多発地帯のお前だから心配なんだ。」
ムスッと顔を逸らすテギョンを見てミニョの顔に笑みが漏れる。
『お前は特別な存在なんだ』 と言われているようで何だかくすぐったい。
「じゃあ今度は私がオッパの心配をします、早く寝ましょう。明日の朝・・・あ、もう今日ですね、寝過ごしちゃいますよ。」
「それは早く俺と一緒のベッドで寝たいと言っているのか?」
「ソファーじゃ疲れが取れませんよ?」
ニヤリと笑うテギョンにキョトンとした顔で答えるミニョ。
「・・・まったく、人の気も知らないで・・・俺がどれだけ我慢してるか判ってるのか?」
ハァ~とため息をつき、ブツブツと呟きながらミニョを抱き上げるとミニョの部屋へと向かう。
「四日後には帰って来る。それまでに怪我を悪化させるようなことをするんじゃないぞ。ちゃんと確認しに来るからな。」
ミニョはテギョンの忠告を聞きながらコクリと小さく頷いた。
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